GⅠスプリンターズS(2017年)は今年も1400mベストの馬が後傾ラップをしなやかに差し切るレースにーー回顧

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秋のスプリント路線のチャンピオンを決めるGⅠスプリンターズS(中山芝1200m)は、前後半3Fが33.9 - 33.7の後傾ラップを、「前半、こんなに楽なペースで走れるなんて、ごっつぁんです!」という声が聴こえてきそうなほどに、レッドファルクスが外から楽々と差し切って快勝しました。M・デムーロ騎手+レッドファルクスは昨年に続き今年も「イタダキマス!」の展開になり、スプリンターズSを連覇。2着には直線で岩田騎手らしい「イン突き」を見せたレッツゴードンキが入り、ポンと好スタートを切って逃げ粘ったワンスインナムーンが3着。2017年のスプリンターズSは1400mベストの馬が1 - 2 - 3の上位を独占しました。勝ちタイムは1分7秒6(良)。

 

今年も1400mベストの馬が1 - 2 - 3

昨年のスプリンターズSを外から鮮やかに差し切ったレッドファルクスは1400mがベストのしなやかなスプリンター・マイラー。今春の京王杯スプリングCを制し、1分31秒5の高速決着になった今年の安田記念を3着と好走(*)したことからも、この馬がピュアスプリンターではないことがわかります。

(*1400mベストの馬が1600mのGⅠを好走するには、スタミナを求められにくい時計の速い決着になることがベストです。また、前半800mが46秒を切るようなペースになると、追走に苦労しないスピードとパワーに優れた1400mベストの馬が差しやすいレースになります)

 

2015〜17年のスプリンターズSは1400mベストの馬が台頭

スプリントGⅠで前半のペースが緩むと、追走に脚を使うことのない「1400mベストの馬」が台頭し、ペースが速くなるとパワー型のスプリンターが先行で押し切るレースになります。2015、16年のスプリンターズSで上位1〜3着馬のすべてが1400m以上の距離の重賞勝ち馬だったことは、偶然ではないのです。15年1着のストレイトガールはGⅠヴィクトリアマイル(東京芝1600m)を連覇し、16年2着のミッキーアイルもマイルCS(京都芝1600m)を制覇しています。以下は2015〜17年のスプリンターズSの前後半3Fのペースと1〜3着馬を表にまとめたものです。

 

2015〜17年のGⅠスプリンターズS

勝時計 着順 人気 馬 名
2017 1:07.6 1 1 レッドファルクス
2 5 レッツゴードンキ
33.9 - 33.7 3 7 ワンスインナムーン
2016 1:07.6 1 3 レッドファルクス
2 2 ミッキーアイル
33.4 - 34.2 3 9 ソルヴェイグ
2015 1:08.1 1 1 ストレイトガール
2 11 サクラゴスペル
34.1 - 34.0 3 9 ウキヨノカゼ

(前後半3Fのラップを赤色でマークしました。15年と17年は後傾ラップ、16年は0.8秒の前傾ラップ)

日本のスプリント路線はロードカナロアがターフを去ってから、ピュアスプリンターの活躍するレースが少なくなりました。これで、スプリンターズSは3年連続で1400mベストの馬が勝つことになり、似たような決着が続いています。

スプリンターズSの予想記事のなかで「ピュアスプリンター vs 1400mベストの馬」について書き、今年は前半3Fが33.0あたりのハイペースに決め打ちしたのですが、見事に裏目になりました。 

今年のスプリンターズSの鍵は前半3Fのペースになります。前半を33.0前後で通過するなら1400mベストの差し馬には苦しい流れになり、パワーで先行するピュアスプリンターに有利。それに対して前半が33.5前後に緩むと、直線で1400mベストの馬たちが「ワァー」と差し・追い込んでくる展開になります。
ここ2年のスプリンターズSは「サンデーサイレンス」の血を引く馬が多く活躍していますが、これは「高速馬場=サンデーサイレンスのしなやかさが活きる馬場」なのではなく、しなやかに差すような1400m型の馬が差してこれるような緩いペースになっているからです。
今年の出走メンバーは前傾ラップ型と後傾ラップ型のタイプがはっきりと分かれているので、どちらの質のレースになるのかを決め打って予想をしていきます。

 参照元:GⅠスプリンターズS(2017年)はハイペースとどんな馬場にも対応できるセイウンコウセイに◎をーー予想 - ずんどば競馬

 

レッドファルクスはマイルCS>香港スプリント

16、17年のスプリンターズSを制したレッドファルクスは「1400mをしなやかに差すスプリンター」ですから、パワーでゴリゴリと押して行く馬が揃う香港スプリントよりも直線の長い京都外回り1600mで行われるマイルCSがベター。安田記念のように前半800mが46秒を切るようなペースになるなら、好走のチャンスも十分ですね。

後傾ラップを好む日本のスプリンターは、ロードカナロア級の馬ではないと香港スプリントを勝つことはできません。また、ロードカナロアもレッドファルクスと同じように1400mがベストのスプリンターでしたが、こちらはパワーでゴリ押しできる先行馬。しなやかに差すレッドファルクスにとって、香港スプリントは適性の合わない舞台だと言えます。

 

2着レッツゴードンキと3着ワンスインナムーンについて

岩田騎手らしいインコースにこだわった位置どりで、レッツゴードンキはしっかりと脚を伸ばして2着を確保。この馬も今年に入って1400mのGⅢ京都牝馬Sを勝っている馬ですから、スプリント路線では得意な稍重馬場になった高松宮記念(3着)や、後傾ラップになった今回のスプリンターズSのような流れになるのがベター。1200m戦であれば、レッドファルクスとレッツゴードンキはセットで好走と凡走をするタイプです。前半3Fの通過が33.9+内枠からスムーズに追走+ガラリと直線で進路が空きましたから、この馬にはドンピシャでした。

3着のワンスインナムーンも前走は1400mのOP朱鷺Sの勝ち馬。半弟のディバインコードを見ても1400mがベストの馬でしょう。ピュアな逃げ馬でも、ピュアなスプリンターでもないですから、ハナに立ってペースをスローにコントロールするのは自然なことですし、この馬にとってベストな流れになりました。母ツーデイズノーチスは、JRAに出走した2頭がいずれもOPを勝っているように、高い確率で素質馬を出す好繁殖牝馬。ただ、ワンスインナムーンもディバインコードも素晴らしい馬ではあるものの、やはり、GⅠを勝ち切る馬とは言えないのも事実……。今後はワンスインナムーンではなく、弟や妹が1400mのレースに人気薄での出走となるなら買いましょう!

ツーデイズノーチス | 競走馬データ - netkeiba.com

 

4着スノードラゴンと5着ブリザードについて

9歳馬の古豪スノードラゴンは最内を突いて伸び4着と好走。スローペースを1分7秒7で走破したのですから、加齢による大きな衰えはない証拠です。ピュアスプリンターとして最先着となる4着ですから、胸を張れる結果。ただ、好枠からロスなく進めたにしても、ピュアスプリンターのスノードラゴンが4着に入線してしまう……それが今年のスプリンターズSだったと言えます。馬券としては地方交流重賞以外だと買わなくてOKの馬というのが、このレースではっきりとしましたね。

中団からジリジリと脚を使って伸びた香港馬のブリザードは、現状では1400mベストなのでしょう。走るフォームはなかなかしなやかなので、日本のスプリント路線に照準絞って参戦してきたのは納得です。香港の短距離路線は層が厚いのだな、と改めて感じさせるブリザードの好走でした。

 

◎セイウンコウセイは11着

春秋スプリント王者を目指したセイウンコウセイは11着。スタートがそれほど速くなく、外目に出そうとしたところを包まれてしまい、好位のインのポジションを取りました。びゅんとキレる脚があるわけでもないので、あのポジションでペースをコントロールされた時点でなす術なし……。能力ほどには走っていないとは言え、この馬が2、3番手で全体のレースのペースを引っ張るような流れにもち込んでいたとしても、今回は好走できなかったのではと思わせる敗戦でした。

前走の函館スプリントSでハイペースに巻き込まれたことと、武豊騎手のダイアナヘイローがワンスインナムーンを突つくだろうという意識が幸騎手に働き、スタートから出していくようなことはありませんでしたね。幸騎手がスタートしてすぐに外へ進路を取ろうとしていたことから、外目+前目でスムーズに追走したいという意思は見えました。もう少し積極的にポジションを取りに行かないと、今日のレースでの好走は難しかった……。

スプリンターズSを走ったダメージは少ないですから、京都コースのGⅡスワンSに向かうのなら面白い存在になります。マイルはさすがに長いので、次走が目一杯の仕上げでしょう。

 

ビッグアーサーというピュアスプリンター

昨年の高松宮記念を勝ったピュアスプリンターのビッグアーサーは、昨年の香港スプリント以来の出走が響き6着に敗退しました。この素晴らしいパワー・スプリンターが前半3F33.9のペースを折り合って走る姿を見て、「昨年のデキにはないのだな……」と寂しい気持ちに……。

昨年のスプリンターズSで、前半3F33.4のペースでもガツンと引っかかっていたこのピュアスプリンター。現在、香港スプリントを勝てる日本馬はビッグアーサーしかおらず、あのパワー満点の走りが戻ってくるなら……。このまま順調に調教が積まれ、今年も香港スプリントを目指して欲しい1頭です。人気が落ちてくれれば間違いなく買いますから!

 

34.6 - 33.0で差せるGⅠスプリンターズS

レッドファルクスが今年のスプリンターズSでマークした上り3F33.0は、中山の芝と0.2秒差の後傾ラップを考えるとほぼ極限に近い上り。これだけの上りを使えるレッドファルクスが素晴らしい馬であることは間違いありません。とは言え、このような緩いペースでスプリントGⅠが行われ続けるのはやっぱり寂しいものです。

とは言え、JRAには1400mのGⅠがないので、スプリンターズSがこれまで報われることのなかったビコーペガサスやスギノハヤカゼやワシントンカラーのような1400mタイプの馬が勝てるGⅠになったのは、それはそれで価値のあるレースになったとも言えますね。

 

スプリンターズSは来年も1400mベストの馬が勝つのか?

来年のスプリンターズSも1400mベストの馬が勝つレースになるのでしょうか? JRAのことなので、来年は揺り戻しがありそうですが……ただ、3歳馬にもめぼしいピュアスプリンターがいないのも事実で……。来年のスプリンターズSも前半3Fが33.0になるのかは注目ですね。

GⅠスプリンターズS(2017年)は「ビッグアーサー」タイプと「レッドファルクス」タイプの争いにーーレース展望 - ずんどば競馬

GⅠスプリンターズS('17年)は前半3Fのペースに注目!ーー今年はピュアスプリンターが好走できるのか? - ずんどば競馬

 

まとめ

スプリンターズSは今年も前半3Fが33.9のゆるゆるラップになり、1400mベストのレッドファルクスとレッツゴードンキとワンスインナムーンの上位独占。ピュアスプリンター受難の時代がいつまで続くのか、日本のスプリント路線を席巻するようなパワー・スプリンターが現れるのか、それが日本競馬のスプリント界にとって大きな課題となります。

皆さまにとっては素晴らしいレースになりましたでしょうか?

 

以上、お読みいただきありがとうございました。