牝馬クラシックのラスト1冠は京都芝2000m内回りコースで行われる秋華賞。オークス馬ソウルスターリングは毎日王冠→天皇賞・秋へ向かうことが発表されており、このレースに不出走となりますが、アエロリット、リスグラシュー、ファンディーナ、ディアドラ、ラビットランなど素質のある3歳牝馬たちが顔を揃えました。
もっとも注目を集めるのはNHKマイルC(GⅠ・東京芝1600m)1着→クイーンS(GⅢ・札幌芝1800m)1着と牡馬や古馬相手のレースを余力たっぷりに連勝したアエロリット(菊沢隆徳厩舎)。この2戦でハイレベルなパフォーマンスを見せており、秋華賞は1人気の支持を受けることになりそうです。今回の記事ではアエロリットが秋華賞を好走することができるのかについて考察します。
アエロリット 3歳牝馬
父:クロフネ
母:アステリックス(母父:ネオユニヴァース)
厩舎:菊沢隆徳(美浦)
生産:ノーザンファーム
アドマイヤミヤビの2着となったクイーンC(GⅢ・東京芝1600m)からその素質を高く評価されていたアエロリット。桜花賞5着から臨んだNHKマイルCはロケットスタートから楽々と先行し、1分32秒3の好タイムで勝利しました。前走のクイーンSは1枠から自然とハナに立ち、今春のヴィクトリアマイルを制したアドマイヤリードなどの強力な古馬相手に影をも踏ませぬ逃走劇で完勝。たっぷりと間隔を空けて秋華賞へ向かいます。
血統
母アステリックスは新馬戦8着の後すぐに繁殖入りし、アエロリットを産むとオーストラリアへ売却されました。祖母アイルドフランスはローズS他重賞4勝のダイヤモンドビコーなどの活躍馬を出しただけではなく、マイルGⅠを2勝したミッキーアイルの母スターアイルを産んだ好繁殖牝馬。
ミッキーアイルはディープインパクト×ロックオブジブラルタルで、アエロリットはクロフネ×ネオユニヴァースですから、この2頭は父と母父を逆さまにしたようなサンデーサイレンス系×パワー型Northern Dancer系という配合。抜群の運動神経でロケットスタートを切るところもこの2頭は似ていて、この反応の良さと前向きな気性はいかにもアイルドフランスの父Nureyev譲りなのでしょう。
Icecapade×Northern Dancer4×4(✳︎IcecapadeとNorthern Dancerはともに父Nearctic×母父Native Dancerの組み合わせ)のアエロリットはミッキーアイルよりもパワータイプのマイラーで、その重厚なストライドは小回りよりも直線の長いコースに向いています。前々でレースを運び、パワーを利してゴールまで粘るのが特徴です。
アエロリットの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
ミッキーアイルの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
秋華賞に向けて大きな不安点はナシ
2011年の秋華賞馬アヴェンチュラがクイーンS1着から栄冠を手にしたように、アエロリットのローテーションに大きな不安はありません。ノーザンファームの「外厩」を使えるアエロリット(ノーザンファーム生産馬のため)にとって、約2ヶ月の休み明けは大きなマイナスにはならないでしょう。
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秋華賞の行われる京都の芝内回り2000mはコーナーの距離が長く直線の短いコース。小回りの札幌競馬場で行われたクイーンSを勝っていることから、内回りコースへの不安もありません。芝1600mのNHKマイルCを1分32秒3、芝1800mのクイーンSを1分45秒7で走破していることからも時計の速い決着もOKですし、高速馬場になっている今開催の京都の芝はこの馬にはプラスです。
初距離となる2000mもこれまでのレースぶりから問題はなく、3歳のこの時期であれば1800mを楽にこなした馬が200mの距離延長を苦にするとは考えられません。死角らしい死角が見当たらないアエロリットは、現時点で秋華賞馬候補のNO.1でしょう。
アエロリットの不安点を挙げるとすれば
重箱の隅をつつくように不安点を探すなら、前走のクイーンSの「逃げ切り勝ち」が挙げられます。横山典弘騎手の素晴らしい好騎乗によってもたらされたこの勝利が、アエロリットにとっての唯一の不安点です。
クイーンSを逃げて勝った代償は?
クイーンSで最内枠に入ったアエロリットは好スタートから自然とハナに立つ競馬をしました。大きなストライドで走るこの馬にとって、インコースで揉まれるよりものびのびとスムーズな競馬がしたかったのでしょうから、逃げの手を打ったのは鞍上の好判断。とは言え、このレースプランはあくまでも第1選択ではなく、「揉まれるくらいなら逃げてしまってもOK」というものだったと考えられます。
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横山典弘騎手の名騎乗
横山典弘騎手は馬へのあたりが柔らかく、馬の気持ちを損ねずに走らせる卓越した技術とセンスをもっています。横山典騎手がこれまでに魅せた数々の名騎乗は奇抜なアイディアではなく、すべて「馬の気持ちを損なわないように走らせる」ことを主眼に置いたもの。
昨年の大阪杯でキタサンブラックを負かしたアンビシャスの先行策、一昨年の天皇賞・春を勝ったゴールドシップでの早仕掛けも「馬の気分を損なわずに集中して走らせた」結果としての作戦であって、トリッキーなアイデアというわけではないのです。そして、アンビシャスとゴールドシップは横山典騎手の天才的な騎乗で好走した次走は、いずれも大敗しているのがポイント。
普段とは異なる「特別」なレースプランは、それがピタリとハマったときの効果は絶大ですが、そこにはリスクも潜んでいます。レースで戦う相手に対して「手の内を見せてしまう」ことは、それに対して対策が立てられマークが厳しくなるのです。
前哨戦で逃げたことによる代償
それまで逃げたことのなかった馬が「逃げ」て好走した場合、次に走るレースで凡走する可能性はより高まります。その最たる例が昨年のスプリンターズSで圧倒的な1人気に支持されながら12着に大敗したビッグアーサーです。
スプリンターズSの前哨戦セントウルSに出走したビッグアーサーは最内枠に入ったこともあり、好スタートからハナに立つと後続に影をも踏ませぬ逃げ切り勝ちを上げました。誰もが負けるシーンを想像していなかったであろうスプリンターズSは……内枠からのスタートで好位に控えるとかかってしまい、さらには直線で馬群に包まれて仕掛けが遅れ、脚を余しての大敗となりました。
前哨戦を逃げて完勝したことによってマークがより厳しくなり、能力を発揮することなく大敗したビッグアーサー。「逃げ」切っての完勝というのは、その1レースだけを取ってみれば好騎乗だったとしても、リスクの高い戦法であることは間違いありません。
アエロリットは馬群に揉まれた経験がない
アエロリットはこれまで馬群に揉まれた経験がありません。スタートしてから後方まで下げた桜花賞でも、パトロールビデオを観れば横山典騎手が外からプレッシャーを受けないようにアエロリットを走らせていることがわかります。
最内枠からのスタートとなったクイーンSは、インのポケットで馬群に揉まれる経験を積むにはまたとないチャンスでした。ただ、好スタートからスンナリとハナに立っての完勝劇。「揉まれたらどうなるのか?」がわからないままGⅠレースに臨むわけですから、その点が唯一の不安となりますね。
もちろん、抜群の運動神経で好スタートを切って、理想のポジションを取る可能性が高い馬とは言え、万が一1枠からのスタートとなった場合に、再度「逃げ」の手が打てるのかは「?」がつきます。クイーンSでの完勝劇を観ていれば、スンナリと逃げられたら後続は苦しい競馬になることがはっきりしているわけですから……。
まとめ
クイーンSは素晴らしい「逃げ」で完勝したアエロリットにとって、唯一の不安は揉まれた競馬をしていないことです。最内枠からのスタートだった前走は「勝利」の代償として、馬群のなかでレースをするというシミュレーションができませんでした。
デビューからコンビを組み続けているアエロリットと横山典弘騎手はこの代償を秋華賞で払うことになるのか、それともスムーズなレース運びで完勝することになるのか……まずは枠順の確定がキーポイントになりますね。
以上、お読みいただき、ありがとうございました。