3歳牝馬クラシック最後の1冠「GⅠ秋華賞」は史上初となる「重」馬場でレースが行われ、3人気のディアドラ(橋田満厩舎)が先に抜け出したモズカッチャンとリスグラシューを交わし、1馬身以上の差をつけてゴールしました。接戦となった2着争いはリスグラシューが制し、3着にモズカッチャンが入線。勝ちタイムは2分00秒2(重)。
ハービンジャー産駒がJRAのGⅠを初制覇
今年の3歳が4世代目となるハービンジャー産駒は、2016年までクラシックなどの大レースを好走する馬が少なく、「大きな舞台に弱いのでは?」と言われたほどでした。ところが、2017年は皐月賞2着のペルシアンナイト、オークス2着モズカッチャンと4着ディアドラの活躍によって、そのイメージが一新されることに。
現3歳のハービンジャー産駒は春の時点でも「当たり年」と言われ、ディアドラはその呼び名の通りに父へ初めてのGⅠをプレゼントすることになりました。これまで日本の芝レースでは欧州の重厚な血をもつ種牡馬はなかなか成功できませんでしたから、競走馬の生産者や育成に関わる人たちにとっても、このGⅠ勝利は大きな意味をもつものだと言えます。
ディープインパクトには瞬発力で劣るハービンジャー
ハービンジャー産駒の得意な距離は1600〜2400mで、Northern DancerのパワーをONにすれば小回り(中山・札幌・小倉など)を捲るのに適した馬を出し、Shareef DancerやBlushing GroomのしなやかさをONにすれば瞬発力のある馬が出ます。
ハービンジャーは現在日本のリーディング・サイアーであるディープインパクトと戦う舞台が多く、直線の長いコースでの瞬発力勝負になるとどうしても負けしてしまうのがデフォルトでした。今年の牝馬クラシックにおけるハービンジャー産駒の活躍は、GⅠ級のディープインパクト産駒が登場しなかったことも大きな要因だと言えるでしょう。
ディアドラ 3歳牝馬
父:ハービンジャー
母:ライツェント(母父:スペシャルウィーク)
厩舎:橋田満(栗東)
生産:ノーザンファーム
秋華賞を1着で駆け抜けたディアドラが検量室前に戻ってきたときに、ノーザンファーム代表の吉田勝己氏がカメラの画面に映りましたが、ハービンジャー産駒のGⅠ勝利は「社台」にとって大きな意味をもつことを改めて感じさせるシーンでした。
桜花賞6着→オークス4着と春はGⅠまで「もう一歩……」の好走を見せたディアドラ。紫苑Sで初重賞を制して臨んだ秋華賞は3人気の支持を受けたように、一夏を越しての成長は目を見張るものがあります。前走から+12kgの馬体重からも今が成長期なのでしょう。この馬の詳しい解説については以下の記事をご覧下さい。
秋華賞のレース内容
スタートで行き脚がつかずに道中は後方からレースを進めます。2コーナーを回るところでもルメール騎手がやや促しながらの追走となり、前半1000mが59.1秒のペースだったことと脚を取られる重馬場だったことが影響したと考えられます。3〜4コーナーでインに潜り込むと、母系のHaloクロスらしい器用さでスムーズにコーナーを回り、直線で外へ進路を取ってからはハービンジャー産駒らしいズドーンと末脚を伸ばしました。
全体のペースが流れたこと、モズカッチャンが4コーナーで捲ったことで直線でスペースができたことなどディアドラに向く流れになったことは確かだったとは言え、ゴール前の余力十分な伸び脚はディアドラの素質の高さを改めて感じさせるものでした。この馬の本質は、3〜4コーナーで見せたコーナリングの巧みさと直線でのしぶとい伸び脚です。
エリザベス女王杯に向けて
ディアドラの末脚は内回りの秋華賞から外回りのエリザベス女王杯に替わるのはプラスで、3〜4コーナーを今走のようにスムーズに立ち回れるのなら、チャンスもより大きくなるでしょう。エリザベス女王杯はGⅠ級のディープインパクト産駒が出走するため、キレ味勝負でどうなのか……が最大のポイントになりますね。
2着リスグラシュー
秋華賞のレース前に芝コンディションが「重」へと変わり、キレ味勝負では分の悪いハーツクライ産駒のリスグラシューにとって「恵みの雨」となりました。上りがかかる展開と馬場になれば、母系に入るMill Reefの影響が出た重厚なストライドが活き、ズドーンと差してこれる馬。クラシックのラスト1冠はこの馬にはベストの舞台となったものの、ゴール前はディアドラの成長力に屈した2着。2歳から活躍し、GⅠでは(0 - 3 - 0 - 1)と抜群の安定感を見せました。中距離馬のリスグラシューにとっては東京芝2400mで行われたオークスがベストの舞台でしたが、今年は4Fからの瞬発力勝負になってしまったのが悔やまれるところでしょう。
外回りコースに替わるエリザベス女王杯は秋華賞よりもリスグラシューにはプラスの舞台。雨が降り続き上りのかかるレースになればチャンスも……。気になるのは馬体重。調教後の計測では446kgあったにもかかわらず秋華賞当日は438kgと輸送で馬体を減らしてしまいました。ローズSよりも馬体に張りが出ていたとは言え、まだまだ細身でもう少しパワーアップをしたいですね。それと、ハーツクライ産駒は京都のGⅠを未だ勝っていないため、その点も気にかかります。リスグラシューについては詳しい解説を以下の記事に書いていますので、よければそちらをご覧下さい。
3着モズカッチャン
ディアドラよりもハービンジャーの特徴をしっかりと受け継いだ馬で、「ベルーフ」と似たタイプです。直線の長いコースであればスローからの瞬発力勝負、小回りであればパワーと器用さで捲るレースが合っています。モズカッチャンは母系のクロスがうるさく、自身もDanzig4×5のクロスがあるため、ディアドラよりも馬体の完成は早目です。今走はこの馬のパワーと器用さを活かした捲りで、あわやのシーンを作りました。馬のギアを素早く切り替えられるデムーロ騎手はモズカッチャンとも手が合い、今走は小回り+内枠を活かした好走と言えます。落鉄していたということで、やや不安な面もありましたが、人馬ともに「らしい」競馬でした。
ディアドラとモズカッチャンともに母系にNureyevを引くハービンジャー産駒。ディアドラの場合は母ライツェントの配合の良さが強く出ていると思いますが、母系にNureyevを引くかどうかはハービンジャー産駒の活躍馬を探す上でひとつのヒントにはなるでしょう。
外回りのエリザベス女王杯はスローペースになった方がベター。ディアドラのところでも書きましたが、GⅠ級のディープインパクト産駒に対して瞬発力勝負でどこまで……というのがポイントです。
4着ラビットラン
秋華賞はローズSやこれまでのレースよりも前目のポジションが取れました。3〜4コーナーですっとスピードを上げられないのは、四肢を伸ばすストライドで走るラビットランらしく、直線を向いてからはジリジリと脚を伸ばしての4着。今走は内回りコースに加えてこの馬場が堪えた印象……。調教での走りを見ていると、四肢が地面から離れている時間の長い「飛ぶ」ようなストライド走法ですから、パンパンの良馬場がベターでしょう。
とにかくピカピカの「世界的良血馬」。競走馬と繁殖牝馬の両方で大きな期待がかかります。この馬については以下の記事で詳しく書いてあるので、よければご覧下さい。
外回りコースで行われるエリザベス女王杯はラビットランにとって秋華賞よりも適性に合った舞台。3〜4コーナーの下り坂をスムーズにロスなく回れれば、直線の長さを活かしてストライドでグイグイと伸びることができるはずです。瞬発力についてもディープインパクト産駒に負けないものがあるだけに、楽しみなレースとなりますね。
1人気のアエロリットは7着
1人気の支持を受けたアエロリットは好スタートを切ると、外から内へ進路を取ったカワキタエンカを先に行かせて好位のインにおさまります。本来はカワキタエンカの外目のポジションを取りたかったものの、外からファンディーナに閉じ込められてしまったのが痛かった……。2コーナーではかかり気味の追走になり、横山典騎手が向正面でインのポケットからアエロリットを外へ誘導……ここまでで体力をかなりロスする走りでした。
前進気勢の強い馬で、ペースの流れやすいマイルであれば先行・差しと自在なレースも可能とは言え、コーナー4つの2000mだと逃げて自分のリズムで走るのがベスト。最内枠に入った前走のクイーンSで好位のインに入るレースを試すことができなかった代償を、秋華賞で払う結果に……。「逃げ」というオプションは今走にとっておきたかったですね。
クロフネ産駒は芝2000m以上の重賞勝ちがないこと、母系はミッキーアイルやダイヤモンドビコーといった前向きな気性と一本調子な先行馬が出ていることからも、現状のアエロリットは1600mベストのマイラー。同じ父をもつホエールキャプチャが加齢とともにずぶくなったように、古馬になってもう少し気性が大人しくなればレースの幅も広くなるのでしょう。
クイーンSは掛け値なしに素晴らしいレース内容でしたから、スムーズなレースさえできれば能力はGⅠ級です。さすがに秋華賞から距離が200m延びるエリザベス女王杯には向かわないはずで、次走はどこを目標にするのかに注目しましょう。
ファンディーナは13着
秋華賞を好走するディープインパクト産駒と同じような配合のファンディーナはここも力を発揮することができずに13着と大敗しました。非社台系の牝馬ですから、精神的な部分で競走能力が減退するとなかなか立て直しが難しいですね……。もう、コースがどうとか展開がどうとか以前にこの馬の能力を出していないので、今後はいかにリセットできるのかにかかっています。これだけの馬ですから、何とか3連勝したときの輝きを取り戻して欲しいですね。
ノーザンファームのワンツー決着
今年の秋華賞は「社台系ファーム」の1〜3着独占とならず、4年連続のワンツースリーとはなりませんでした。それでもノーザンファーム生産のディアドラとリスグラシューのワンツー。今年の牡牝のクラシック・レースは秋華賞までで5レースが行われ、1〜3着の15頭の内12頭が社台系ファーム生産馬が占め、さらにノーザンファームが9頭と大活躍を見せています。菊花賞もこの流れが続くのか注目ですね。
まとめ
初めて重馬場でのレースとなった今年の秋華賞はパワーに優れたハービンジャー産駒のディアドラとモズカッチャンが1着と3着に入線し、Mill Reef的な重厚なストライドで走るリスグラシューが2着ですから、上りのかかるレースもOKの馬たちが上位を独占しました。それにしても、ハービンジャー産駒の初GⅠ制覇がディアドラというのは感慨深いものがありますね。
皆さまにとっては素晴らしいレースになりましたでしょうか?
以上、お読みいただきありがとうございました。