天皇賞・秋はペースと重馬場、そして「ピッチかストライドか?」がポイントーー展望

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東京芝2000mで行われる天皇賞・秋は昨年の勝ち馬モーリスをもち出すまでもなく、ペースと展開によってはマイラーから中距離馬(1600〜2400m)まで、そして瞬発力型と持続力型のどちらのタイプの馬でも好走できる「公平」なレースです。

東京競馬場は1年間に8つのGⅠレースが組まれています。これはJRA全10競馬場のなかで最多を誇り、日本を代表するトラック・コースと言えるでしょう。ホームストレッチが525.9mの長さをもつことと幅員の広さによって、レースにおける脚質的な有利・不利が少ない競馬場の1つ。

近年は速い時計の出る芝とスローペースのレースが多いことから、直線の長い東京競馬場であってもピッチ走法の馬がストライド走法の馬を負かすシーンも多々観られます。天皇賞・秋もこの傾向が当てはまり、スローペースになったここ2年の勝ち馬モーリスとラブリーデイはいずれもピッチ走法の馬でした。

 

ストライド走法とピッチ走法

競走馬のフォームは大まかに「ストライド」と「ピッチ」に分類できます。陸上競技を例にとるなら、100mの世界記録保持者ウサイン・ボルト選手は柔らかな身のこなしで脚のストライドが伸びるタイプです。それに対して、シドニーオリンピックのマラソンで金メダルを獲得した高橋尚子選手は回転の良いピッチ走法。

競走馬の場合、スピードを上げるためにストライドを伸ばすのか、それともピッチの回転を上げるのかによって、走りは異なるのです。それではそれぞれの特徴について見てみましょう。

 

ストライド走法

ストライド走法は全身をしなやかに伸縮させ、1完歩が大きくなることでスピードを上げるタイプ。全身運動をするため、体力の消費が大きくコーナーを器用に回ることが得意ではありません。スピードに乗るまでに時間がかかるものの、最高速度に到達してからはそれを長く維持することが可能です。

コーナー距離の長い小回り・内回りコースよりも、直線の長い東京や中京コースに向いています。近年ではドゥラメンテ、サトノクラウン、エピファネイア、ジャスタウェイなどがこのタイプと言えるでしょう。

 

ピッチ走法

ピッチ走法は四肢を小気味よく動かし、回転を速くすることでスピードを上げるタイプ。体幹の強いパワータイプの馬が多く、完歩が大きくないためにコーナーをスムーズに回れます。最高速度に達するまでの時間が短く、その分だけスピードを維持し続けるのが苦手です。

直線の長いコースよりもコーナー距離の長い小回り・内回りコースに向き、瞬時に加速できることからスローペースが得意。近年ではモーリス、ラブリーデイ、ジェンティルドンナ、リアルスティールなどがこのタイプと言えるでしょう。

 

天皇賞・秋はストライドもピッチも好走できる

天皇賞・秋はここ2年のようなスローペースになることもあれば、ジャスタウェイの勝った2013年のような前後半1000mが58.4 - 59.1のハイペースになる年もあります。そのため、スローになればピッチ走法がすっと抜け出し、ハイペースであれば持続力に優れるストライド走法の馬がグイグイと伸びてくるのです。

過去5年、天皇賞・秋のレース結果をふり返り、どちらの走法が優位だったのかを確認しておきましょう。

 

過去5年の天皇賞・秋

2012〜16年の天皇賞・秋をプレイバック!

 

2016年

勝ちタイム:1分59秒3

前後半1000m:60.8 - 58.5(2.3秒の後傾)

1着:モーリス

2着:リアルスティール

2.3秒の後傾ラップをピッチ走法のモーリスとリアルスティールが俊敏に抜け出してのワンツー。

 

2015年

勝ちタイム:1分58秒4

前後半1000m:60.6 - 57.8(2.8秒の後傾)

1着:ラブリーデイ

2着:ステファノス

ピッチ走法のラブリーデイがスローを楽々と先行して俊敏に抜け出しての1着。2着はピッチともストライドとも言えないステファノスの差し込み。

 

2014年

勝ちタイム:1分59秒7

前後半1000m:60.7 - 59.0(1.7秒の後傾)

1着:スピルバーグ

2着:ジェンティルドンナ

スローペースをピッチ走法のジェンティルドンナが俊敏に抜け出したところを、外からストライドを伸ばしたスピルバーグがタフな馬場を活かしての差し切り勝ち。

 

2013年

勝ちタイム:1分57秒5

前後半1000m:58.4 - 59.1(0.7秒の前傾)

1着:ジャスタウェイ

2着:ジェンティルドンナ

0.7秒のハイペースを2番追走のジェンティルドンナが抜け出したものの、外からストライドを伸ばしたジャスタウェイが直線で早目に立つと、後続を突き放しての完勝。

 

2012年

勝ちタイム:1分57秒3

前後半1000m:57.3 - 60.0(2.7秒の前傾)

1着:エイシンフラッシュ

2着:フェノーメノ

シルポートが大逃げを打ったため、ハイペースになっているものの、2番手以下は60.0 - 57.3というスローの流れ。ストライドで伸び続けたフェノーメノ(この馬の場合は器用さもあるタイプ)を最内に突っ込んだエイシンフラッシュが俊敏に差して1着。ドイツ血統でしなやかさもあるエイシンフラッシュは脚さばきがピッチ走法。

 

天皇賞・秋はスローになればピッチが優勢

近年の天皇賞・秋は時計の速い馬場も後押ししてからスローペースになることが多く、ストライドよりもピッチが優勢のレース。過去5年のなかでもっとも難しい決着になったのは2014年で、スローペースを抜け出したジェンティルドンナがストライドのスピルバーグに差し切られるとは……。この年は「良」発表でも雨の影響の残るややタフな馬場でしたから、それを活かして持続力に優れたスピルバーグが伸びてきたのでしょう。

POINT

スローペース(後傾ラップ)であればピッチ走法が優勢

 

今年の出走馬をピッチとストライドに分けると

今年の出走予定馬をピッチとストライドに分けてみましょう。どちらとも言えないファームの馬は「中間」に分類します。また、1〜9の1桁人気に想定される馬だけをここではピックアップ。

 

ストライド走法

キタサンブラック

サトノアラジン

サトノクラウン

ソウルスターリング

キタサンブラックは先行馬なので内回り・小回り向きと考えられがちですが、GⅠ5勝の内4勝が東京コースと京都の外回りコース。宝塚記念や有馬記念を勝ち切れないのはストライドを伸ばす走法のため、コーナーで俊敏に加速できないから……。全体的にハイレベルなので、コースはあまり問わないものの、ベストは直線の長いコースでしょう。

サトノアラジンは外からスムーズにスピードをアップしないとダメな馬で、これはストライド走法によるものだからです。スローでも差し脚を伸ばせるものの、本質的には今春の安田記念のようにペースが流れるレースがベスト。

サトノクラウンは内回りの宝塚記念を制していますが、胴長の馬体をしなやかに伸ばすストライド走法の馬で、ベストコースは東京芝2400m。ロングスパート戦になればハイレベルのパフォーマンスを叩きだせます。そのため、スローからの瞬発力勝負は苦手です。

宝塚記念馬サトノクラウンは天皇賞・秋を好走できるのか?ーー今週も重馬場に……? - ずんどば競馬

 

ピッチ走法

ヤマカツエース

リアルスティール

ヤマカツエースは母父グラスワンダー譲りのピッチ走法。中京コースの金鯱賞を連覇しているものの、直線の長いコースだとスローがベターです。

リアルスティールはジェンティルドンナとタイプの似ているピッチ走法。とにかく、俊敏に加速できるのが最大の長所で、スローになりさえすれば東京コースでも……。この馬については詳しい記事を以下に書いていますので、よければそちらをご覧下さい。

リアルスティールは天皇賞・秋がスローペースになればピッチ走法でスっと抜け出せる!ーー展望 - ずんどば競馬

 

中間

グレーターロンドン

ステファノス

マカヒキ

この3頭はコーナーを器用に回れるタイプ。また、柔らかさよりもパワーの勝ったタイプというのも共通しています。直線の長い東京コースであれば、スローペースがベター。

(✴︎グレーターロンドンはスローペースにならなかった今春の安田記念で4着と好走しましたが、直線の坂を駆け上がってからは伸び脚が鈍っており、しなやかなストライド走法ではありません)

 

今年の天皇賞・秋のペースは?

今年の天皇賞・秋は近年のようにスローペースになるのでしょうか。ピッチとストライドのどちらが優勢になるのかはペースによるため、レースの展開が大きな鍵を握ります。

 

先行馬が少ない組み合わせ

今年の出走予定メンバーは逃げ・先行馬が少なく、ロードヴァンドールを先に行かせてキタサンブラックが2、3番手でペースをコントロールするようだと、レースの流れはスローになります。

展開のカギを握るのは、前進気勢の強いネオリアリズムと繊細さに欠けるシュタルケ騎手とのコンビ。 馬へのあたりが柔らかいモレイラ騎手やルメール騎手でも折り合いを欠くネオリアリズムですから、引っかかって先頭に立ってしまう可能性も……。途中からハナを奪うような走りをすると、スローのペースには落ちません。

折り合いの難しいネオリアリズムはシュタルケ騎手を背に重馬場のGⅠ天皇賞・秋を好走できるのか? - ずんどば競馬

 

サトノクラウンはロングスパート戦が得意

サトノクラウンはロングスパート戦を得意とするため、残り1000m辺りからキタサンブラックやその他の先行馬へプレッシャーかけ、レース全体のペースを引き上げたいところでしょう。キタサンブラックも3Fの上り勝負にはしたくないですから、武豊騎手とデムーロ騎手の思惑が一致すれば、レースは持続力勝負へともち込まれ、ストライド>ピッチの展開になります。

 

天皇賞・秋は重馬場に?

東京競馬場は14日(土)〜22日(日)にかけ、2週続けて雨が降るなかでのレースとなりました。超大型の台風21号の影響を受けた21、22日はかなりの雨量があり、芝コースは不良馬場まで悪化。天皇賞・秋の行なわれる29日(日)も雨の予報が出ており、タフなコンディションでのレースとなる可能性もあります。

重馬場はパワーに優れ、重心の安定したピッチ走法の馬に有利です。先週の菊花賞を制したキセキはルーラーシップ産駒らしくパワーのある重厚な走りをする馬で、ストライドでもこのタイプであれば重馬場もOK。

POINT

重〜不良馬場であればピッチ走法が優勢

天皇賞・秋の当日が「重〜不良」でのレースとなった場合、ピッチやストライドという走法だけではなく、その日の好走馬のコース取りやポジション取り、血統的な傾向も加味して予想をするのがもっとも大切です。先週のような馬場になると……。

今年の出走馬のなかで、重馬場に適性のある馬については以下の記事で解説しています。よければどちらもご覧下さい。

 

まとめ

天皇賞・秋は時計の速い馬場とスローペースによって、「ピッチ走法に優勢」のレースになるのが近年のトレンドです。今年はキタサンブラックやサトノクラウンなど持続力勝負にもち込みたい有力馬が揃ったので、どのようなペースが刻まれるのかが楽しみですね。

ピッチかストライドかーー天皇賞・秋はそれが最大の問題となります。

 

天皇賞・秋の予想記事

 

以上、お読みいただきありがとうございました。