第156回天皇賞・秋(GⅠ・東京芝2000m)は、不良馬場をものともせずにインからスルスルと直線で先頭に立ったキタサンブラックが、最後まで追いすがるサトノクラウンをふり切り1着でゴール板を駆け抜けました。勝ちタイムは2分08秒3(不良)。
キタサンブラックはこれで天皇賞・春秋連覇を達成。春は高速馬場の京都芝3200mを大レコードで勝ち、秋は不良の東京芝2000mをしぶとく粘り勝ちしたことから、この馬の種牡馬としての価値はさらに高まったと言えるでしょう。
ストライド走法の馬のワンツー
28日(土)の午後から降り続いた雨の影響で、天皇賞・秋はタフなコンディションでのレースとなりました。
出遅れて後ろからのレースとなったキタサンブラックと最内枠のサトノクラウンは、不良馬場でバラける展開になったことから、インコースをスムーズな追走。2頭ともに四肢を伸ばすストライド走法なので、スムーズに進路を確保できたのはプラスだったと言えます。
直線はこの5歳馬2頭のマッチレースとなり、サトノクラウンがキタサンブラックを追い詰めかけたところがゴール。スタミナとパワー、そして持続力に優れたストライド走法の馬のワンツーですから、重馬場適性よりも競走馬としての「強さ」を問われるレースに。
心身のタフさが求められるレース
今年の天皇賞・秋は体力をロスした馬が次々と脱落するサバイバル戦。ここまで馬場が悪化すると道悪の適性よりも、心身のタフさが求められます。レースに集中して最後までスタミナと気持ちを切らさずに走ることができた馬が好走するレースと言えるでしょう。
タフな馬場をものともしない武豊騎手の好騎乗
武豊騎手は4コーナーから直線にかけてイン→アウトというコースを通り、キタサンブラックのストライドが窮屈にならないように走らせました。このイン→アウトの進路は、先週の富士Sを制したエアスピネルと同じで、タフな馬場での乗り方を知り尽くした2週続けての好騎乗。
1Fの平均が12.83というタフなコンディション
今年の天皇賞・秋は勝ちタイムが2分08秒3ですから、1Fの平均が12.83とタフなコンディションのレース。遅い時計の持続力戦になると力を発揮するサトノクラウンを、ゴールまで抜かせなかったキタサンブラックの粘りは素晴らしいの一言です。
1着:キタサンブラック 5歳牡馬
キタサンブラックのコースも馬場も不問の強さは、3歳クラシック3冠を制し、2年連続で凱旋門賞2着のオルフェーヴルを思い起こさせます。
オルフェーヴルはしなやかに四肢を伸ばせるピッチ走法という稀有な馬でしたが、キタサンブラックはストライドで走ります。本質的に内回り・小回りコースは不向きにもかかわらず、阪今春の大阪杯は自身がもっとも得意とする流れにもち込んで勝利を上げました。
スッと好位につけてレースをコントロールできる「支配力」がこの馬のセールスポイント。レースの展開を自身の得意な土俵にもち込めるのは、図抜けた能力と武豊騎手の手腕によるところが大きいのでしょう。
天皇賞・春秋連覇、そしてGⅠ6勝は並大抵の馬の戦績ではありません。キタサンブラックとサトノクラウンのマッチレースとなった今年の天皇賞・秋はまぎれもなく「名勝負」。力をふり絞った2頭のゴール前の走りは、馬券を離れて胸が熱くなりました。
ジャパンカップ→有馬記念に向けて
キタサンブラックの走りを観れるのは、ジャパンカップ→有馬記念の2戦。休み明け初戦がタフなコンディションでのレースとなったため、次走に向けてダメージの回復がポイントです。
走破タイムが遅くなるとそれだけ身体にダメージが残ります。
東京芝2400mのジャパンカップはこの馬にとって適正に合った舞台。5歳牡馬ですから、ひと叩きしての上積みというよりも、心身ともによりフレッシュな状態でレースに臨めるのかが大切で、清水久詞調教師の手腕が問われますね。
問題となるのは、「ラストラン」となる有馬記念。キタサンブラックはここまで叩き3戦目で着順を落とす傾向があること、そして、本質的に小回り向きではないことから、勝ち切るまでイケるのかどうかは「?」が……。今年の有馬記念は好メンバーが揃うので、この馬がまた「名勝負」を演出する可能性は十分にあります。
2着:サトノクラウン 5歳牡馬
人馬ともに勝つための最良のレース運び。1枠というのもあって、ロスなく立ち回れました。ストライドを伸ばすためにはコーナーを内から外へ出すのがもっとも効率的で、今走はそれをまんまと武豊騎手とキタサンブラックに「ヤラレ」てしまった分の2着。
1Fの平均が12.83秒のレースになれば条件としてはベストでしたから、この馬の能力はしっかりと出せました。残り200mではキタサンブラックに並びかけるところまでもち込んだわけで、持続戦になったときのこの馬の強さは目を見張るものがあります。
キタサンブラックとサトノクラウンは同じストライド走法というのもあって、適性は似ています。この2頭を比較すると以下の通りです。
キタサンブラック
・直線の長いコース>小回りコース
・4〜5Fの持続戦が得意
・下り坂が得意
サトノクラウン
・直線の長いコース>小回りコース
・5〜6Fの持続戦が得意
・上り坂が得意
今走は2頭が仕掛けた直線入口のところで、加速性能の差が出てしまったと言えます。
ジャパンカップ→有馬記念に向けて
東京コースであれば、適性の似ているサトノクラウンとキタサンブラックはセットで好走するでしょう。ジャパンカップは「牝馬」の好走する確率の高いレースで、それはキレが活かせるスローになりやすいから。
武豊騎手は牝馬に有利な瞬発力勝負にもち込まないはずで、それだとサトノクラウンにもチャンスが出てきます。もともと、東京芝2400mはこの馬にベストの舞台。天皇賞・秋の疲労は堀宣行調教師がしっかりとケアするでしょうから、次走が楽しみになりました。
小回りの有馬記念は宝塚記念と同じく、ストライド走法に合っていない舞台ですから、サトノクラウンにとっては他馬がミスをしないと苦しくなります。
3着:レインボーライン 4歳牡馬
道中、サトノクラウンとキタサンブラックを前に見る形で、インコース寄りを走れたのがまず大きかったです。このコース取りはさすがの岩田騎手。1、2着馬と同じくスムーズな走りができました。
先週の菊花賞とは異なり、3〜4コーナーにかけてはインコースの馬場もそこまで悪くなく、ここで外を回した馬はノーチャンスでした。バキューンと差せる馬場ではありませんでしたから、4コーナーから直線にかけて前目のポジション+イン→アウトのコース取りをした馬にチャンスが巡ってきたと考えられます。
今走はタフな馬場も合っていましたし、ステイゴールド産駒らしい気の強いところがプラスに働いたのでしょう。上位2頭に次いで3着に入線したのは素晴らしいの一言です。
4着:リアルスティール 5歳牡馬
重馬場はスムーズに走れていましたが、レースがこれだけ流れるとピッチ走法のリアルスティールには苦しかった……。
4コーナーから仕掛けないとダメな馬場になったので、この馬の適性とは真逆。人馬ともに大きなミスはなかったですし、ここでの4着は素晴らしいの一言です。キタサンブラックとサトノクラウンがこの流れで前にいたら、リアルスティールにはノーチャンスです。
次走はどこへ向かうのか?
リアルスティールはここが秋の最大目標でしたから、次走がどこになるのかは難しいですね。マイルCSは京都の外回りコースなので、ピッチのこの馬にはスローが希望ですし……。
マイルCSにしろジャパンカップにしろ、今後のローテーションについては注目の1頭です。
◎シャケトラは15着
パドックの歩く姿はプラス体重を感じさせないほどに素晴らしく、まだまだ成長しているのでしょう。馬体にも柔らかみがあって、惚れ惚れとしてしまいました。思わず単勝を買い足してしまったくらい……。
GⅠ天皇賞・秋(2017年)は重馬場+スローペースが大得意なシャケトラに◎をーー予想 - ずんどば競馬
結果としては大外枠が大きく響きましたし、馬場が重くなるのはOKでも、水が浮いている状態は合っていませんでした。このコンディションにもかかわらず、2コーナーでかかってしまうのですから、シャケトラのパワーとエンジンは一級品です。
力通りに走れていないので、後2戦はフレッシュな状態で走れますね。
ジャパンカップ→有馬記念に向けて
ジャパンカップはピッチ走法のこの馬にとって、スローにならないと苦しい舞台です。キタサンブラックとサトノクラウンの2頭が好走できない展開になればチャンスもあるものの、スローになるとは思えず……。
それに対して、有馬記念の行われる中山芝2500mは「ずんどば!」のコース。天皇賞・春を9着に負けたときから、今年の有馬記念の◎はシャケトラです。この馬のため息が出るほどに美しい捲りが年末のグランプリで観られることを楽しみにしています。
その他の有力馬について
13着のネオリアリズムは道中折り合ってスムーズな走り。前進気勢の強いこの馬が折り合えたのは、馬場が悪かった+体調が整っていなかったの2点が原因として考えられます。直線でスピードを上げられなかったことからもダメージは少なく、次走に期待しましょう。
18着のサトノアラジンはトビがキレイな馬なので、この馬場だと前へ進んで行かず……。川田騎手にとっては、真っ直ぐに走らせるのも大変だったと思います。次走のマイルCSは叩き3戦目となることから、どれだけフレッシュな状態で出走できるのかが鍵になりますね。
6着ソウルスターリングはルメール騎手がしっかりと馬をコントロールし、最後までしっかりと脚を使っていましたね。Frankel産駒としては奥行きのある配合で、まだまだ成長するでしょうから、この経験が今後に活かせるでしょう。
まとめ
重馬場の巧拙よりも、心身ともに「強い」馬が生き残るサバイバル戦となった今年の天皇賞・秋。1、2着馬はストライド走法の馬ですから、今年はしっかりとペースが流れました。
2017年10月29日、不良馬場の東京芝2000mでもっとも強かったのはキタサンブラック。名勝負を繰り広げた2頭が、ふたたび東京芝2400mのジャパンカップで激突するのですから、今秋のGⅠは豪華なラインナップです。次はどちらの馬に軍配が上がるのでしょうか。
以上、お読みいただきありがとうございました。