第158回天皇賞・秋(GⅠ・東京芝2000m)は、C・ルメール騎手のレイデオロ(4歳牡馬・藤沢和雄厩舎)が優勝。昨年のダービー以来となるGⅠ2勝目を上げました。勝ちタイムは1分56秒8(良)。
1分56秒台の決着
今年の天皇賞・秋は昨年の菊花賞馬キセキがハナを切り、前半1000mが59.4の通過。前後半1000mが「59.4 - 57.4」と2.0秒の後傾ラップ(スローペース)となりました。
▼2018年の天皇賞・秋のレースラップ
12.9 - 11.5 - 11.8 - 11.5 - 11.7 - 11.6 - 11.3 - 10.9 - 11.6 - 12.0
上記のレースラップを見れば、道中で1F12秒台のラップがひとつもなく、全体として締まったペースだったことがわかります。また、4コーナーの地点が最速(10.9)ラップだったことからも、直線はスピードを落とさずにどこまで我慢できるかの勝負となりました。
川田騎手の絶妙なレースメイク
菊花賞馬のキセキは父ルーラーシップ譲りの重厚なストライドが最大の長所です。この重厚なフットワークはルーラーシップの母父トニービン(その母エアグルーヴ)から受け継いだもので、1F11秒台がずっと続く(スタミナが問われる)レースを得意とします。
川田騎手は2強と目されたレイデオロとスワーヴリチャードを負かすため、キセキの長所を活かすレースメイクをしました。このペースだとディープインパクトのしなやかな瞬発力を封じ込められます。また、歴史的な不良馬場となった菊花賞を制したキセキですから、スピードよりもスタミナを問うレースにもち込んだのは大きなプラスだったと言えるでしょう。
1分58秒0を切るタイムだとトニービン?
過去20年の天皇賞・秋において、1分58秒0よりも速い勝ち時計となったのは6回あり、その内の5回は馬券圏内にトニービンをもつ馬が好走しています。
▼勝ちタイムが1分58秒0を切った天皇賞・秋
・2018年
勝ちタイム:1分56秒8
1着:レイデオロ
2着:サングレーザー
3着:キセキ
-----
・2013年
勝ちタイム:1分57秒5
1着:ジャスタウェイ
2着:ジェンティルドンナ
3着:エイシンフラッシュ
-----
・2012年
勝ちタイム:1分57秒3
1着:エイシンフラッシュ
2着:フェノーメノ
3着:ルーラーシップ
-----
・2011年
勝ちタイム:1分56秒1
1着:トーセンジョーダン
2着:ダークシャドウ
3着:ペルーサ
-----
・2009年
勝ちタイム:1分57秒2
1着:カンパニー
2着:スクリーンヒーロー
3着:ウォッカ
-----
・2008年
勝ちタイム:1分57秒2
1着:ウォッカ
2着:ダイワスカーレット
3着:ディープスカイ
赤色でマークしたのがトニービンもちです。どの馬も直線の坂で加速し、坂上からもち前のスタミナで粘り込むレースをしています。トニービンはディープインパクト産駒に代表されるような「しなやか」な瞬発力ではなく、1F11.5のスピードを長く持続する重厚な末脚が最大の武器です。
天皇賞・秋を制したジャスタウェイ、トーセンジョーダン、カンパニーはビュンとキレたのではなく、パワフルなフットワークで直線の坂を駆け上がり、坂上からゴールまでもてるスタミナを振り絞って粘り込んでいます。
トニービンの血を振り絞った川田騎手のレースメイクは素晴らしいの一言。英国遠征から帰国後、以前にも増して「前で受けて粘る」意識が強くなっていると感じます。今後の秋のGⅠシリーズにおいても、川田騎手の騎乗には注目です。
ピッチのレイデオロが制する天皇賞・秋
レイデオロはKingmamboらしいピッチ走法の馬で、本質的には直線の長いコースに向いていません。レイデオロはラブリーデイとタイプが似ており、天皇賞・秋よりも宝塚記念や有馬記念に向いています。
ピッチのレイデオロにとって、2.0秒の後傾ラップになったこと、そして、4コーナーから直線にかけての区間で1F10.9と速い仕掛けになったことがプラスに働きました。ピッチ走法はコーナー加速力に優れているため、この地点で速い脚を使うことにより他馬に対してアドバンテージを取ったと言えます。
ラスト1F12.0はいかにもピッチ走法の馬らしいラップの落ち込み。ストライドに比べてピッチはトップスピードを持続するのに不向きなため、ゴール前はどうしても甘くなってしまいます。ただ、それでも勝ち切ってしまうのですから、レイデオロの競争能力の高さには脱帽するしかありません。
万能なレイデオロ
レイデオロはウインドインハーヘアのSir Ivorの影響からか体質が柔らかく、東京の芝でも差し脚を発揮できるタイプ。また、キングカメハメハ産駒のラブリーデイやアパパネと同じく、小回りであれば器用に捲れるので、弱点の少ない中距離馬と言えるでしょう。
天皇賞・秋よりも上りの競馬になる傾向があるジャパンカップもピッチ走法ならこなせますし、中山の有馬記念もコース適性としてはバッチリですから、レイデオロがどちらのレースを選択するのかも楽しみですね。
スワーヴリチャードとM・デムーロ騎手
スワーヴリチャードはスタート直後に隣のマカヒキに寄られてポジションを下げると、そのまま後方を追走。全体としてスローペースだったものの、道中に大きな緩みがなかったために前へと押し上げるタイミングがなく、見せ場を作ることもできませんでした。
昨年のジャパンカップにおけるサトノクラウンと似たような負け方で、1F11秒5前後のラップが淡々と続く流れだと、後方から押し上げてどうこうというレースはできません。エタリオウが外からスルスルとポジションを上げた先週の菊花賞のようにはなりませんでしたね。
デムーロ騎手にはスタート後手のリスクが……
デムーロ騎手はトップジョッキーとしてはスタートが遅く、GⅠにおいてもスタート後手のリスクが付きまといます。もちろん、今回の天皇賞・秋のように他馬に寄られて下がるのは不可抗力とは言え、スタートで半馬身ほど遅れているのも事実です。
M・デムーロ騎手は2015年3月から日本で通年騎乗をするようになりましたが、2・3歳の新馬戦からコンビを組んでGⅠを制覇した数は「0」。新馬戦からレイデオロやアーモンドアイなどの手綱を取っているルメール騎手とは対照的です。
これはおそらく、出遅れ癖のあるデムーロ騎手に新馬戦を任せるのはリスクが高いと判断してのものでしょう。素質馬であればあるほど、スタート後手の癖が付いたり、レースで余計な体力をロスしてしまうのはプラスになりません。ノーザンファーム生産の有力馬にルメール騎手を配するのも頷けます。
リスクとオッズを天秤にかけて
デムーロ騎手はGⅠだとどうしても人気になってしまうので、スタート後手のリスクとオッズを天秤にかけて馬券を購入するかどうかを判断するのがベター。菊花賞のエタリオウように、スタート後手を楽にリカバーすることもありますが、それはレースの流れ次第です。
ジャパンカップに向けて
M・デムーロ騎手はホームストレッチの半ばくらいからスワーヴリチャードを追わず、馬なりで流していました。ジャパンカップ→有馬記念というローテーションを見据えれば、天皇賞・秋で体力をロスしなかったのはプラスです。
不安点は今の高速馬場がジャパンカップまで続いてしまうこと……。昨年のジャパンカップにおいてキタサンブラックが踏んだラップよりも道中が速くなるようだと、好位か中団インのポジションを取らないと苦しくなります。スタート後手が致命的になる可能性もあるため、その点は慎重に判断したいですね。
上り最速のサングレーザーは2着
今年の天皇賞・秋において上り3F最速をマークしたしたのは、ディープインパクト産駒のサングレーザー。上り3F33.4という数字は「高速馬場+スローペース」だったことを考えるとそれほどのインパクトはないものの、完璧なペースで逃げたキセキをあの位置から差し切るのですから、中距離馬としての能力が高いことを示しました。
サングレーザーは京都がベスト?
ディープインパクト×Deputy Ministerという配合は、ショウナンパンドラやマカヒキなどのGⅠ馬と同じ好相性のニックス。サングレーザーはSir Gaylordのクラスがあることから、よりしなやかさが増した配合となっています。
下り坂をスムーズに走れるため、京都>東京コースという適性。この後、マイルCSとジャパンカップのどちらに向かうのかは注目です。
アルアインとミッキーロケット
4着アルアインはいかにも北村友一騎手らしいソツのないレース。理想を言えば前後半イーブンの流れがベストの馬だけに、あのラップなら自ら逃げてペースを作りたかったでしょう。池江寿厩舎+北村友一騎手という組み合わせは違和感しかなく、4着は川田騎手を手配できなかった分の差だと言えます。
5着ミッキーロケットはもともとストライドで走るので、東京コースは苦にしません。休み明けを考えれば上々ですし、次につながる1戦となりました。この馬も次走が楽しみですね。
ステファノス9着
オドノヒュー騎手が4コーナーでステファノスを動かし始めたのは、あの区間が最速ラップだったからでしょう。「スローペース+4Fの持続戦」がベストなだけに、この馬が好走するにはペースが厳しかったですね。大きな衰えはないものの、現状だとGⅠではワンパンチ足りません。
まとめ
これで「C・ルメール騎手+ノーザンファーム天栄」が秋のGⅠを3連勝。この勢いがジャパンカップ→有馬記念でも続くのでしょうか。この後はR・ムーア騎手、C・デムーロ騎手が短期免許を取得して来日するので、ノーザンファーム生産馬はどのような騎手配置をするのか……。そこに注目が集まります。
以上、お読みいただきありがとうございました。