12月15日(土)、中山芝1600で行われる牝馬重賞のターコイズS(GⅢ)は、名繁殖牝馬エリモピクシー、マジックストーム、マルペンサの娘たちが出走します。
クラレントやレッドアリオンなど数多くの重賞馬を出したエリモピクシー、ラキシス=サトノアラジンの全姉弟GⅠ馬を出したマジックストームはピカピカの「名繁殖」。それに較べるとやや知名度に欠けるのが、今回の記事で取り上げる「マルペンサ」です。
繁殖牝馬マルペンサ
マルペンサはアルゼンチンのGⅠ(芝・ダート)勝ち馬。その父OrpenはフランスのGⅠモルニ賞(芝1200m)を制したスプリンター、祖父のLureはアメリカのBCマイルを連覇したマイラーでした。
2011年にノーザンファームが購入して日本へ輸入されたマルペンサは、初仔となるサトノダイヤモンド(父ディープインパクト)を産み、その後、2016年4月に10歳の若さでこの世を去りました。
マルペンサが日本で産んだ産駒は以下の4頭です。初仔となるサトノダイヤモンドは菊花賞と有馬記念のGⅠを制し、2番仔のリナーテはOPまで出世しています。
▼マルペンサ産駒
2013年
サトノダイヤモンド 牡
父:ディープインパクト
戦績:(8 - 1 - 3 - 5)
GⅠ勝:菊花賞・有馬記念
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2014年
リナーテ 牝
父:ステイゴールド
戦績:(5 - 1 - 0 - 7)
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2015年
マルケッサ 牝
父:オルフェーヴル
戦績:(0 - 0 - 0 - 5)
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2016年
サトノジェネシス 牡
父:ディープインパクト
戦績:(1 - 0 - 1 - 0)
血統
マルペンサの父Orpenと母父サザンヘイローはともに「4×4」以上の強いクロスをもつ種牡馬です。
サザンヘイロー:Almahmoud3×4
Orpen:Natalma4×3
AlmahmoudはHaloとNorthern Dancerの3代母にあたる名繁殖牝馬。そして、OrpenのクロスするNatalmaがNorthern Dancerの母なので、マルペンサは血統表の4分の3でAlmahmoudを重ね続けていることがわかります。
Almahmoudは優れた産駒(種牡馬や繁殖牝馬)を多く出し、後世に枝葉を広く伸ばしている牝馬です。その豊かな活力をもつ血をクロスすることは、Northern Dancerなどの大種牡馬をクロスすることよりも大きな効果を生みます。
マルペンサの配合の特徴は、このAlmahmoudの濃いクロスをもつことで、その血を経由してHaloやNorthern Dancerをクロスすることです。血統表のなかにこれだけ優れたスピード血脈を引くことは、この馬の繁殖能力の高さを示すものと言えるでしょう。
ディープインパクトとは好配合
ディープインパクトは5代アウトブリードの配合なので、濃いクロスをもつ牝馬と好相性です。マルペンサの初仔のサトノダイヤモンドがGⅠを2勝したのは、配合から考えると自然なことです。
マルペンサはサンデーサイレンスの血を引く種牡馬との間でHaloのクロスが発生。そして、ディープインパクトはHaloとニアリーな血統のSir Ivorをもつので、その血をより刺激することになります。
サトノダイヤモンド自身はHalo≒Sir Ivor3・5×5・4。しなやかなスピードと器用さを伝えるHaloの血を固定することで、機動力あふれるタイプに出ました。この馬の素軽い捲り脚はHaloの血によるものでしょう。
ステイゴールド産駒のリナーテ
マルペンサの2番仔となるリナーテはステイゴールドを父にもちます。半兄のように2〜3歳から能力をフルに発揮することはなかったものの、4歳となった今年に1000万下と1600万下を連勝しました。
マルペンサはステイゴールドとも好相性
ステイゴールドは自身も父も母も強いクロスをもたないアウトブリードな配合。細身の馬体としなやかな体質をもつ点はディープインパクトと似ています。
ステイゴールド産駒のGⅠ馬オルフェーヴル、ゴールドシップ、フェノーメノなどからも、ノーザンテーストのパワーをONにする配合が成功しており、母系からいかにパワーを取り込めるのかがキーポイント。
マルペンサがもつAlmahmoudの強いクロスは、その父Mahmoudがノーザンテーストの母Lady Angelaと脈絡し、ステイゴールドのパワーをONにします。リナーテの配合は母がNatalmaとRibotの強いクロスをもつフェノーメノと似ていることから、好配合と言えるでしょう。
✳︎マルペンサはオルフェーヴルが配された3番仔のマルケッサだけがJRA未勝利となっています。ステイゴールド直仔のオルフェーヴルは自身がノーザンテースト4×3のクロスをもつため、クロスの濃いマルペンサに配するとパワー過多の産駒が出ます。
このことからも、マルペンサは5代アウトブリードの種牡馬と好相性だとわかるでしょう。
リナーテ 4歳牝馬
父:ステイゴールド
母:マルペンサ(母父Orpen)
厩舎:須貝尚介(栗東)
生産:ノーザンファーム
1200〜1400mを4勝しているものの、兄と似た均整の取れた馬体からもスプリンターではありません。後肢の非力さは父ステイゴールド譲りで、ここがもう少しパンとするとバリバリのオープン馬になれるでしょう。
兄と同じような捲り脚としなやかなフットワークが最大の長所。揉まれてもOKですし、馬群からスッと抜け出すときのフォームは「マルペンサ」らしさを感じさせます。
今走のターコイズSはデイリー杯2歳S以来の重賞出走となりますが、血統的な背景から気後れすることはありません。Halo3×5・4のクロスをもち、フェノーメノと血統構成が似ていることから、中山コースは「ずんどは!」の舞台です。
馬格があるのはプラス
ステイゴールドのA級産駒は父よりも豊かな筋肉量をもつのが大きな特徴。その点からすると、牝馬ながらも480kg台の馬体をもつリナーテは十分なパワーをもっていると言えるでしょう。
ターコイズSに向けて
今年のターコイズSで上位人気に推されるプリモシーン、フローレスマジック、レッドオルガは直線の長いコースに向くディープインパクト産駒です。リナーテは機動力に優れたタイプなので、中山のマイル戦は得意の舞台。
馬体からスプリンターとは思えず、マイルへの距離延長も不安はありません。兄と同じようなフワリとした捲りを打てるなら、ここを好走するチャンスも十分にあるでしょう。
ノーザンファーム生産馬なので、レースに向けての仕上がりについては不安もなく、三浦騎手を確保できたのはプラスです。有馬記念がラストランとなる兄へエールを送るためにも、リナーテの好走を期待します。
サトノダイヤモンドの引退について
サトノダイヤモンドは「上品な馬体」と「うっとりするほどに素軽いフットワーク」をもち、現役競走馬のなかでも大好きな1頭です。4〜5歳時にはムキムキの馬体となり、3歳クラシックで見せた美しいフットワークが影を潜めました。
現在のサトノダイヤモンドは3〜4コーナーまでは良かった頃の「捲り」を発揮しているものの、追われてから弾ける脚を使うことはできなくなっています。これは馬体のテクニカルな部分というよりも、精神面によるものが大きいのではないでしょうか。
「早熟」のレッテルを貼られたまま種牡馬入りするのは寂しいかぎりです。ただ、4歳時にムキムキのマッチョな馬体となった(✳︎)ことからも、成長力がないとは考えられません。
✳︎ムキムキの馬体になったことで、3歳時の素軽い走りが失われた可能性があります
Halo≒Sir Ivorのクロスをもつサトノダイヤモンドは、ディープインパクト最良の後継種牡馬となる可能性があります。この豊かなスピードを受け継ぐ産駒たちが、数年後のダービーを勝っているかもしれませんね。
まとめ
マルペンサが新しい産駒を産むことはもうありませんが、サトノダイヤモンドとリナーテがその血をしっかりと後世に伝えることとなります。アルゼンチンが産んだ名繁殖牝馬の価値をさらに高めることができるのか、ターコイズSにおけるリナーテの走りには注目です。
以上、お読みいただきありがとうございました。