JRAの古馬牝馬路線は、春と秋のシーズンそれぞれにGⅠが組まれています。
春:ヴィクトリアマイル(東京芝1600m)
秋:エリザベス女王杯(京都芝2200m)
ヴィクトリアマイルが創設される以前、GⅠレベルの古馬牝馬にとって、春シーズンの目標は牡馬混合の高松宮記念、天皇賞・春、安田記念、宝塚記念の4レースでした。スプリント路線は牡牝の性差が少ないものの、中長距離のカテゴリーではその差が大きく開きます。
そのため、ヴィクトリアマイルの創設は牝馬路線の拡充に欠かすことのできないものでした。ただ、施行距離を1600mと定めたことによって、スプリンターから中距離馬までがこのレースを目標に出走してくるため、2015年のように3連単の配当が2000万円を超える大波乱の決着になることも……。
今年のヴィクトリアマイルは1400〜1600mベストの馬が好走する質のレースになるのか、それとも中距離馬が勝ち切れるレースになるのか、どちらに転ぶのでしょうか?
1600m戦は「マイラー vs 中距離馬」
JRAの芝マイルGⅠは以下の7レース。
桜花賞
NHKマイルC
ヴィクトリアマイル
安田記念
マイルCS
阪神JF
朝日杯FS
今年の安田記念は大阪杯(GⅠ・阪神芝2000m)を制したスワーヴリチャードの参戦で注目を集めていますが、上記のマイルGⅠにはマイラーだけではなく中距離馬が出走することもままあります。
それでは、中距離馬がマイルGⅠを勝つ条件について考えてみましょう。
中距離馬がマイルを好走するには?
ウォッカやダイワスカーレット、ジェンティルドンナ、ブエナビスタのようにそもそもの競争能力が図抜けている場合は、「距離適性を能力が上回る」ことがあります。
また、クラシックを目指すほどの素質のある牝馬は、中距離に適性があったとしても桜花賞に出走することが多く、「完成度」と「能力」でマイルをこなす馬もいるのです。今回はこれらを除いて、中距離馬がマイル重賞を好走するための条件を探しましょう。
中距離馬リスグラシューを例にとると
ヴィクトリアマイルにも登録のあるリスグラシューは、ハーツクライ産駒らしい「持続的な末脚」が武器の中距離馬です。ベストの距離は1800〜2200mにもかかわらず、ここ2戦は東京新聞杯1着→阪神牝馬S3着とマイルの重賞を好走しています。
その2レースの勝ちタイムと前後半800mのラップは以下の通りです。
▼東京新聞杯(GⅢ・東京芝1600m)
勝ちタイム:1分34秒1
前後半800m:47.6 - 46.5(1.1秒の後傾)
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▼阪神牝馬S(GⅡ・阪神芝1600m)
勝ちタイム:1分34秒8
前後半800m:49.1 - 45.7(3.4秒の後傾)
リスグラシューが鮮やかに差し切り勝ちを上げた東京新聞杯は、前半800mの通過が47.6と牡馬混合のマイル重賞としてはゆったりとしたペースでした。前半が46秒0前後のペースだと、中距離馬は追走に脚を使ってしまうため、直線で伸びあぐねることがあります。中距離馬のリスグラシューにとっては、この緩いペースが好走の条件だったと言えるでしょう。
その次の阪神牝馬Sも中距離馬にとっては脚を残せるペースになったものの、ビュンとキレる脚を欠くリスグラシューにとっては苦しい流れでした。ただ、直線でしっかりと伸びてこれたのは前半の通過が49秒台と遅かったからです。
中距離馬がマイルを凡走するパターンは?
1600mの距離で中距離馬が凡走するパターンは、追走に脚を使ってしまうことです。そのサンプルとして、昨年の安田記念と2015年のヴィクトリアマイルを見てみましょう。
▼2017年・安田記念(東京芝1600m)
勝ちタイム:1分31秒5
前後半800m:45.5 - 46.0(0.5秒の前傾)
1着のサトノアラジンはスワンSと京王杯SCの1400m重賞を2勝しているマイラー。3着にスプリンターズSを連覇したレッドファルクスが入線したことからも、このレースが1400mベスト型に向いた質だったことがわかります。
高速決着がOKのステファノスが7着に敗れたことからも、中距離馬にとっては脚を残すことが難しいレースとなりました。前半800mが46秒を切るようだと、1400〜1600mベストの馬が好走します。
▼2015年・ヴィクトリアマイル(東京芝1600m)
勝ちタイム:1分31秒9
前後半800m:45.5 - 46.4(0.9秒の前傾)
1着に突き抜けたストレイトガールはスプリンターズSを制した1400mベストのスプリンター。3着に入線して大波乱を演出したミナレットも1400mベストのマイラーでした。
前半800mの45.5は昨年の安田記念と同じ。オークス馬ヌーヴォレコルトやジャパンカップを制したショウナンパンドラが着外に沈んだのも、この速いペースで脚がたまらなかったからでしょう。東京の芝1600mで前半800mが46秒を切ってくると、どうしても1400mベスト型に有利になります。
今年のヴィクトリアマイルは?
今年のヴィクトリアマイルで上位の人気に推されるのは以下の6頭です。
・アエロリット
・アドマイヤリード
・ソウルスターリング
・ミスパンテール
・リスグラシュー
・レッツゴードンキ
このなかでピュアなマイラーはミスパンテールのみ。アエロリットとアドマイヤリードの2頭は1600〜1800mベストの長目マイラー、リスグラシューとソウルスターリングは中距離馬、そして、レッツゴードンキは1400mベストのスプリンターです。
前半のペースが45秒台になってもOKなのは、前後半800mが46.1 - 46.2のペースになった昨年のNHKマイルCを先行して抜け出したアエロリットだけです。ミスパンテールやアドマイヤリードは46秒台前半になったときに脚を使えるのかは不透明ですし、ピッチ走法のレッツゴードンキは速いペースそのものは耐えられても、「マイル+直線の長いコース」での高速決着は分が悪くなります。
1400mベストの馬は?
そんなわけで、ここからがやっと本題です。
「1400mベストの馬ってどれ?」
今年のNHKマイルCはピュアなマイラーや1400mベストのタイプが少なく、条件に当てはまりそうな馬はわずかに2頭。
・リエノテソーロ
・ワントゥワン
リエノテソーロは昨年のNHKマイルCで大穴を演出したように、同じ舞台でペースが速くなれば可能性があるものの、注目馬として取り上げたいのは良血馬ワントゥワンです。
ワントゥワン 5歳牝馬
父:ディープインパクト
母:ワンカラット(母父ファルブラヴ)
厩舎:藤岡健一(栗東)
生産:社台ファーム
母ワンカラットは短距離重賞を4勝したスプリンターで、その母バルドウィナは桜花賞馬ジュエラーを産んだ名繁殖牝馬。
父ディープインパクト×母父ファルブラヴという配合はハープスターと同じで、好相性の組み合わせです。ワントゥワンは父のしなやかさに加えてバルドウィナが引くフランス血統がアクセントとなり、母よりも父の「キレ」がオンになったタイプ。
この牝系に特有(ジュエラーやワンカラットは外から被されると力を発揮できなかった)の「揉まれ弱さ」をもつため、ワントゥワンは最後方から追い込む競馬しかできませんが、しなやかな差し脚が活かせる東京コースはプラス。
45.5 - 46.5のペースをしなやかに差すのはしんどいとは言え、この母系の成長力と活力をもってすればGⅠの馬券圏内は決して無理難題ではありません。リエノテソーロとしんがりを争うくらいに人気がないので、ここは狙いたいですね。
1400mベストの馬が好走するためには?
せっかく1400mベストの人気薄の馬が見つかったとしても、好走できるかどうかは以下の条件が揃わないといけません。
1. 前半800mが45秒台
2. パンパンの高速馬場
また、後方からレースを進めるワントゥワンにとっては、馬群が縦長になってしまうのは苦しく、「ペースは速いけれども馬群が凝縮している」のが理想。反対に、中団よりも前に付けられるリエノテソーロにとっては逃げ・先行馬が後ろを大きく離す逃げになっていても問題ありません。
まとめ
2015年のヴィクトリアマイルが再現されるかどうかは、逃げ・先行馬がしっかりとペースを作れるかどうか、そして、高速馬場になっているかどうかが大きなポイントです。
ストレイトガールやミナレットのような1400mベストのタイプが好走するペースになるのか、今からレースが待ち遠しくなりますね。
以上、お読みいただきありがとうございました。