春のチャンピオン・マイラーを決める安田記念は、後方からの追走となったモズアスコットが直線で鋭く伸びると、先に抜け出したアエロリットをゴール前で捕らえ、これが嬉しいGⅠ初制覇となりました。勝ちタイムは1分31秒3(良)。
1分31秒台の決着
現在の東京芝は先週から引き続いての「高速馬場」となっています。安田記念が1分31秒台の決着になったのは今年を含めて5回です。
▼2018年:モズアスコット
勝ちタイム:1分31秒3
前後半800m:45.5 - 45.8
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▼2017年:サトノアラジン
勝ちタイム:1分31秒5
前後半800m:45.5 - 46.0
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▼2013年:ロードカナロア
勝ちタイム:1分31秒5
前後半800m:45.3 - 46.2
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▼2012年:ストロングリターン
勝ちタイム:1分31秒3
前後半800m:44.9 - 46.4
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▼2010年:ショウワモダン
勝ちタイム:1分31秒7
前後半800m:44.9 - 46.8
10年と12年は前半800mが44.9と速くなり、1.5秒以上のハイペースとなっています。それに対して、17年と18年は前後半差が0.5秒以内のほぼイーブン・バランス。ここ2年は高速馬場の影響で、勝ち馬が後半を大きく落とすことなく走り切っていることがわかります。
また、12年、13年、17年の勝ち馬には共通点があり、それは1200〜1400mの重賞で勝ち鞍があることです。今年のモズアスコットは重賞勝ちが安田記念でしたが、この馬も1400mベストのマイラー。安田記念は勝ちタイムが1分31秒台になると、1400mを走れるスピードを求められる質のレースになると言えるでしょう。
中距離馬がマイルGⅠを好走するには?
週中の展望記事でも書いたように、中距離馬がマイルGⅠを好走するラップバランスは以下の通りです。
▼前後半800m
46.5 - 45.5(1分32秒0)
今年のヴィクトリアマイルは前後半800mが46.8 - 45.5(1分32秒3)の後傾ラップになりました。中距離馬のリスグラシューが2着に好走したのは前半のペースが緩み、道中で末脚を削がれなかったから。もし、今年の安田記念の前半が46秒台になっていたら、スワーヴリチャードは勝ち切っていたかもしれませんね。
1着:モズアスコット
Frankel産駒で母系にヘネシー(父Storm Cat)とMr. Prospectorを引くのは昨秋のファンタジーSを制したミスエルテと同じ配合。父Frankelは「ガリレオ×デインヒル」というコテコテの欧州血統ながら、産駒には日本の芝向きの柔らかさも伝えます。
モズアスコットはMiswaki4×3のクロスをもち、Frankel産駒のなかでも「しなやかさ」のあるタイプ。東京や阪神・京都の外回りコースでバキューンと弾ける脚を使えるのは、しなやかなストライド走法だからでしょう。
C・ルメール騎手の好騎乗
モズアスコットは3〜4コーナーで他馬と接触し、後方へ下がる不利。ただ、鞍上のルメール騎手は慌てることなく4コーナーでインを通し、直線に入ってからも1人気スワーヴリチャードの直後のポジションを取り切りました。
直線で馬群の間を割ってビュンと伸びてきたのも、スワーヴリチャードの後ろを取れたことが大きく、これはルメール騎手の好騎乗。1分31秒3の勝ちタイムですから、サトノアレスのように外を回していたら、弾ける脚は使えなかったでしょう。
今後に向けて
モズアスコットは昨年の6月にデビューし、安田記念が11戦目。ここまでの歩みからも、競争能力が高いだけではなく、グングンと成長していることがわかります。ただ、全体的にクロスがうるさく、古馬になってからさらに成長するのかは微妙なところ……。直線の長いコースでは今日のような脚を使えますが、血統表中にNorthern Dancerの血を多く引くので、本来なら先行押し切りがベストです。
2着:アエロリット
ミッキーアイル、ダイヤモンドビコー、テイエムジンソクなどが出るステラマドリッド牝系の出身ですから、ゴリゴリの先行策が似合います。前走のヴィクトリアマイルは前半800mが46秒台だったので、アエロリットには不向きなペース。4着と負けたものの、ゴール前までジリジリと伸びていましたからもったいなかった……。
今走の戸崎騎手は4コーナーからしっかりと仕掛け、その分ゴール前まで粘り込みました。最後の脚色はスワーヴリチャードに負けないもので、マイル+高速馬場への適性をしっかりと出し切ったと言えるでしょう。
3着:スワーヴリチャード
この3着は驚きました……。馬券圏内に好走したこともそうですが、もっともビックリしたのはこのペースのマイル戦にもかかわらず、4コーナーでM・デムーロ騎手の手綱が引っ張りきりだったこと……。このスワーヴリチャードの前向きさは1800〜2000mベストの中距離馬のものですね。
タイプとしてはジャスタウェイに近く、天皇賞・秋を先行して押し切る競馬が合っています。しなやかなストライドで走るので、直線の長いコースに向いており、内回りの大阪杯、マイルの安田記念とベストとは言えないレースでこれだけのパフォーマンスですから、素晴らしいの一言です。
4着:サトノアレス
蛯名騎手らしい「出遅れ+大外ぶんまわし+ゴール前で脚色が鈍る」という4着。この馬はディープインパクト産駒としてはしなやかなストライドというよりもパワーピッチに近いので、スピードに乗り切るまでの加速力は現役トップレベル。
母系に入るデインヒル(Danzig)が表現されたパワー・マイラーで、上り坂を駆け上がるときの脚が素晴らしいものの、朝日杯FSのようにズドーンと突き抜けてしまわないと、どうしても最後に甘くなります。
同じディープインパクト産駒のサトノアラジンと比べるなら、アレスはパワーの勝ったタイプだけに、高速決着だと若干パフォーマンスを落とすのが特徴。グンと加速できるので馬群の中でも競馬ができますし、掲示板内にそろっと入るイメージですね。
5着:サングレーザー
8枠に入ったというのもあって、福永騎手はスタートから中団のポジションを取りに行きました。ひとつだけ運がなかったのは、インに潜り込むタイミングなかったこと……。1分31秒台の時計で、スタートからずっと外目の追走となっては苦しかったですね。内枠ならまた結果も変わっていたかもしれません。
しなやかさに優れたマイラーなので、東京よりも3〜4コーナーに下り坂のある京都の外回りがベスト。安田記念よりもマイルCSに向いているので、秋に期待しましょう。今走はこの馬の力をしっかりと出し切ってのものです。
6着以下について
6着のペルシアンナイトは道中でスムーズさを欠いたものの、それを割り引いてもこれだけ時計が速いと苦しかったのでしょう。1800mがベストなタイプなので、高速決着なら距離は2000mくらいがベター。
リスグラシューとリアルスティールはマイルで1分31秒台の決着になると苦しい……。後者は東京コースだとスローペースがベストのピッチ走法。天皇賞・秋を好走できるのかはペースが鍵を握っています。
まとめ
雨の影響さえ受けなければ、安田記念は高速馬場での開催となり、勝ちタイムが1分31秒台になるのがデフォルトになるでしょう。となると、今後もモズアスコットのような1400mベストのマイラーを狙いたいレースです。
来年こそは3連単で高配当が取れますように……。
以上、お読みいただきありがとうございました。