安田記念は(2017年)は1400mベストのサトノアラジンが1分31秒5の好タイムで勝利ーー回顧

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東京競馬場で行われる5週連続GⅠの最後を飾る安田記念は、前半800mが45秒5の平均ペースを大外から差し切ったサトノアラジンが1着、逃げたロゴタイプがゴール前まで粘って2着に入りました。勝ちタイムは1分31秒5。

 

前傾ラップの逃げを打ったロゴタイプ

昨年の安田記念をスローで逃げ切ったロゴタイプが作った今年のペースは45.5 - 46.0の前傾ラップ。ロゴタイプは大外枠から勢いよく出して行ってハナに立つと中弛みのないペースでレースを先導し、昨年と同じような直線での急加速で後続を突き放して2着に粘り込みました。

淀みのない前傾ラップから直線を急加速の脚で抜け出したのは昨年よりもロゴタイプのマイラーとしての適性が高くなっている証です。

ヴィクトリアマイルからダービーまでスローペースが続いた東京競馬場の芝GⅠ。前傾ラップになった今年の安田記念は瞬発力勝負の差し比べではなく、マイラーとしてのスピードとパワーが試された1戦になりました。

 

スプリンターvs中距離馬

前傾ラップ+1分31秒台の決着になったことで、追走に脚を使ってしまう(脚が溜まらない)中距離馬にとっては苦しい流れ。このペースだとステファノスやアンビシャスは末脚を伸ばすことができませんでした。

1着サトノアラジン、3着レッドファルクスと1400mがベストのタイプが上位に入線したことからも、スプリンターとしての資質が問われるレースになったと言えます。

近年の春開催の東京競馬場は高速馬場になることが多く、マイル戦で速い時計が出るのはそれほど珍しくはありません。ただ、32秒を切るような時計だとロードカナロアやストロングリターン、そして、ヴィクトリアマイルを連覇したストレイトガールなど1400mベストの馬に寄ったレースになることは頭の片隅に入れておきたいポイントです。

安田記念が高速馬場になったときのポイントーー'17年展望 - ずんどば競馬

 

上位に入線した馬の解説

1〜5着に入線した馬をそれぞれ解説します。

 

1着:サトノアラジン 6歳牡馬

エリザベス女王杯を勝った姉のラキシスと同じく大跳びのストライドで走るサトノアラジンは、進路がクリアな状況で外目をスムーズに加速するのが戦法としてはベストです。

昨年の安田記念はスローペースの上、外のフィエロが張り付いていたため馬群を捌くのに手間取っての4着。マイルCSは最内枠を引いてしまいスムーズに流れに乗ることができませんでした(ミッキーアイルの斜行による不利も含めて)。

京王杯SC、スワンSと1400mのGⅡを2勝していることからも、ペースが流れて持続戦(中弛みからの瞬発力勝負ではない)になりやすいレースへの適性はばっちりです。勝利ジョッキー・インタビューに答えた川田騎手が「馬場も枠も素晴らしい条件が整った」とコメントしていたように、外目をスムーズに加速して末脚を出し切れたことが最大の勝因でしょう。

モーリスのいないマイルGⅠであれば、「直線は大外に出してバキューンと弾ける脚を使えば勝てる」とパートナーの能力信じ切った川田騎手の騎乗は素晴らしく、ハープスターの勝った桜花賞とかぶるものがありました。「これで負けたら仕方ない」と腹をくくれるというか肝の座った騎乗ができるのも川田騎手の魅力でしょう。

 

2着:ロゴタイプ 7歳牡馬

大外枠に入ったことで、前へ出して行くためには初めから「逃げる」と田辺騎手は決めていたのでしょう。内枠の先行勢が好スタートを切ったことで、ロゴタイプの田辺騎手は押して押してハナを主張します。この時点で昨年のようなスローペースに落とすことは難しくなり、全体としては中弛みのない締まったペースに。

安田記念の公式なラップを並べるとーー

12.2 - 10.6 - 11.1 - 11.6(前半800m=45.5)

11.6 - 11.0 - 11.3 - 12.1(後半800m=46.0)

はっきりと息を入れて緩んだところがなく、それでいて直線入口で11.0と急加速しての出し抜けはお見事。ペースは違っても昨年と同じようにこの馬の加速性能を最大限に発揮した2着と言えます。

3歳時から高速馬場への適性を見せていた馬(中山芝2000mで行われる皐月賞を1分58秒のレースレコード)とは言え、1800mベストと考えていたロゴタイプが1分31秒台でマイルを乗り切るのですから、7歳になってもじわじわと成長していることは間違いありません。

田辺騎手としては珍しい前傾ラップの逃げになり、「これだと直線でズブズブもあるかな」と思って観ていましたが、これだけペースが流れても残り400mの地点で後続を突き放しにかかったのは素晴らしく、2着に粘れたのはこの加速性能の高さに尽きると言えます。

 

3着:レッドファルクス 6歳牡馬

後方に下げて、道中はインコースではなく馬場の中目を通っての追走。3〜4角にかけても進路が開かず、直線でも前が横一線の壁になったままでした。サトノアラジンがスムーズにスピードに乗って加速し行った後を、大外に出して追い込みますが3着まで。

距離ロスを意識してなのか、M・デムーロ騎手は4角で大外から追い上げて追い込むという競馬ではなく、直線まで進路が開くのを待ちましたが……各馬が横一線の追い比べになったので、止むなく大外へ誘導する競馬になりました。ここの馬群を捌くのに手間取ったことがマイナスかプラスなのかは評価の分かれるところでしょう。

 

マイナス評価の場合

追い出しを待たされるロスがあったので、届かなかった

プラス評価の場合

追い出しを待たされた分だけ脚が溜まり、最後の伸びにつながった

 

レース映像を観ても、勝ったサトノアラジンに半馬身差まで詰め寄った後はゴール前で同じ脚色になっていることから、今日の展開だと追い出しを待たされたのが良かったのかも……とは思います。ただ、マイルの距離は十分にこなせるので、今後に向けて選択肢の幅が広がる敗戦だったことは確かです。

 

4着:グレーターロンドン 5歳牡馬

安田記念までの全成績が(6 - 1 - 0 - 0)と底知れぬ能力を秘めたグレーターロンドン。ここまで重賞を走った経験のない馬の初GⅠ出走に加え、中間には爪の不安があって2週前の追い切りを休むなど厳しいなかでの挑戦となりました。

スタートでいくらか出負けして、後方からの競馬。内枠各馬が好スタートを切って先行態勢を取ったことから、ぽっかりと空いた内に潜り込んで中団の後ろに付けます。道中は終始馬群の中でじっくりと構え、追い出されたのは400m過ぎから。前の進路が開いたところをスルスルと伸びて4着に入線という内容でした。

GⅠどころか重賞での出走経験がないことを考えても、1分31秒6で走破しての4着好走は素晴らしいの一言。ただ、田辺騎手が主戦として連勝した時のレース内容を観ると、びゅんと急加速で良さを出すより、少しずつスピードに乗せて追い込む競馬で強さを発揮しているように、今日のレースは評価が難しい1戦になりました。この4着を「器用に脚を引き出せ、急加速の瞬発力勝負でもOK」ととるのか、「スムーズに加速して持続的な末脚で良さが出る」馬なのかは判断が難しい……。福永騎手らしい、仕掛けをワンテンポ遅らせてからの追い込みで、このようなレースでも好走したのはグレーターロンドンの能力の高さを物語っています。

次走はどこになるのかは未定ですが、再び田辺騎手が乗ってどのようなレースをするのか?そこに注目したい1頭です。

 

5着エアスピネル 4歳牡馬

好スタートから自然と下げて後方へ位置を取ります。 勝ったサトノアラジンよりも後ろの追走になったのは驚きでした。

ピッチ走法のエアスピネルにとって、ストライドを伸ばすサトノアラジンとは反対に一瞬の切れ味で出し抜きたいところですから、馬群を捌くロスがあったとしてもインにこだわる競馬になったのは納得です。

実質的には残り200mからの追い出しで、一瞬の切れ味を活かして5着まで追い上げました。エアスピネルにとってはマイル戦で1分31秒台の決着になるのであれば、もう少し前で戦いたかったところでしょう。欲を言えば、ロゴタイプのような前で受けてピッチで抜け出して後ろにリードを保つ、そうした競馬が理想だったと思います。

ただ、直線の長い東京コースではピッチ走法の馬は適性として割引なので、崩れずに5着に入線したのはこの馬の能力の高さの表れでしょう。

秋の1600mのGⅠ「マイルCS」も京都の外回りコースで行われ、エアスピネルにベストの舞台とは言えません。マイル路線はピッチ走法の馬にとっては鬼門で、内回り1800mのGⅠがあれば……とついつい考えしまいますね。

安田記念<中山記念の適性をもつ馬(エアスピネル他)たちーー安田記念展望 - ずんどば競馬

 

その他の有力馬

1番人気のイスラボニータは8着に敗れました。1分31秒5の決着となり、本質的にはマイラーではないこの馬には外目の追走から差すには厳しい流れになりました。全身を伸縮させて伸びるストライド走法のため、追走で脚を溜められなかったことと馬群を捌くのに手間取ってしまったことなど、いくつかの敗因が重なってしまったと言えます。

4番人気に支持されたステファノスはスロー寄りのペースから持続的な末脚で伸びてくる馬なので、マイル戦で前半が45秒台の追走になるとどうしても脚が溜まりません。高い能力があるので、大きくはバテずに7着と敗れました。

 

香港馬の2頭

◯に期待したビューティーオンリーは週中の報道通りに馬体が減っていて、前走から-18kgでの出走。パドックを見ていると、数字ほど細くは映らなかったので、まったく走れない状態ではなかったと思います。道中は中団に控えて直線で外に出すとジリジリと伸びての6着。さすがに1分31秒台の決着では厳しかったものの、香港のパワー型マイラーにしては時計の速い決着もOKで、能力は十分に見せたと言えます。

コンテントメントの-16kgはさすがに細いかな……という馬体。直線ではモレイラ騎手の追い出しに応えて一瞬伸びかけましたが、そこからはズルズルと後退しての10着。ビューティーオンリーよりもパワー型ですから、この時計の決着になると上位は厳しかったでしょう。

ビューティーオンリーとコンテントメントの香港馬2頭を解説ーー'17年安田記念 - ずんどば競馬

 

◎ブラックスピネル

松山騎手が促して3番手での追走になりました。4角でもいくらか促しながらの追走で、直線に向いてズルズルと後退して18着。追走で脚を使ってしまったことを差し引いてもここまで負けるのは……。

この馬も本質的には1800〜2000mがベストで、4角から少しずつ加速するような競馬が合っているのかもしれません。次走はどこで復帰するのかにも注目したいですね。

'17年の安田記念はスピードとパワーを振り絞るレースに期待してーー予想 - ずんどば競馬

 

まとめ

モーリス引退後の'17年の安田記念は、昨年の1着ロゴタイプが2着、4着のサトノアラジンが1着とこの路線の勢力図を大きく変えるような馬の台頭はありませんでした。1分31秒台の決着になったことからも1400〜1600mに適性のある馬が好走しやすいレースになったことも大きな特徴でした。

東京競馬場で行われるGⅠの多くは、もうスローペースがデフォルトなのですが、今年の安田記念のように前傾ラップになることもあるので、改めてレースは生き物なのだな、と思い知らされます。

 

皆様にとっても素晴らしいレースになったことを祈って。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。