宝塚記念(2018年)は「前々+イン有利」なタフな馬場を活かしたミッキーロケットが快勝!ーー回顧

f:id:hakusanten:20180619010136j:plain

春のグランプリ・宝塚記念は、素晴らしいスタートから好位のインを取り切ったミッキーロケット(5歳牡馬・音無秀孝厩舎)が4コーナーで先頭に立つと、直線の外からグイグイと伸びてきた香港馬ワーザーを振り切り、1着でゴールを駆け抜けました。勝ちタイムは2分11秒6(稍重)。

 

外差しの利かない馬場

梅雨の影響を受ける「6月阪神開催」の最終週は、上りのかかる差し馬場になるのがデフォルトです。宝塚記念は過去10年、レースの上り3Fがすべて35秒以上かかっていることから、スタミナとパワーを問われる争いとなります。

今年は宝塚記念の前日にかなりの雨量があり、馬場は「重」まで悪化しました。日曜日の午前中に「稍重」に回復したものの、芝のレースは上りがかかり、「前々+イン」を走った馬が好走する特異なコンディション。

 

騎手の意識も前かがりに

4コーナーで外を回す差し・追込み馬が苦しむ馬場は騎手の意識にも影響し、宝塚記念は前半1000mが59.4秒のハイペース。さらに、3コーナー過ぎから1人気のサトノダイヤモンドが2〜3歳時の頃を想起させる「美しい」捲りを打ち、レースはよりタフさを増しました。

レース全体として大きな中弛みのない締まったペースとなり、馬場コンディションは馬だけではなく騎手にも影響を与えたことがわかります。ただ、前がかりのレースとなったとは言え、外から差して好走したのはワーザーだけ。それだけ特殊な馬場だったのでしょう。

 

ミッキーロケット 5歳牡馬

父:キングカメハメハ

母:マナーキャントバイミーラヴ(母父Pivotal)

厩舎:音無秀孝(栗東)

生産:ノーザンファーム

4歳時にGⅡ・日経新春杯を制した後はなかなか勝ち星を上げられませんでしたが、1年半ぶりの勝利が嬉しいGⅠ初制覇となりました。3歳秋の神戸新聞杯からミッキーロケットの主戦となった和田騎手にとっては、テイエムオペラオー以来の久々のG1制覇。ゴール直後の涙ぐむシーンに、胸が熱くなった競馬ファンも多いでしょう。

 

宝塚記念を勝利した要因は?

スタートの拙いミッキーロケットがこの舞台で「ポン!」と好発を決めて「好位のイン」を取り切った時点で、大きく勝利に大きく近付きました。また、しなやかなフットワークで走る馬にとって、阪神の内回りコースはベストと言えない舞台。和田騎手が勝負所の4コーナーから直線へかけて、「ストライド・ロス」のない進路を取ったのは痺れました。この2つが勝利の要因と言えます。

 

ストライドが内回りコースを好走するには?

ストライド走法のミッキーロケットは身体を伸縮させてスピードを上げるため、コーナーでの加速を苦手としています。直線の短い阪神芝内回り2200mは3〜4コーナーでしっかりとスピードを上げなければならず、この馬の適性とは合いません。

和田騎手は「ストライド・ロス」を少なくするため、4コーナーは「イン→アウト→イン」の進路を取りました。スピードを削ぐことなく直線に入れたことが、ミッキーロケットの勝利を引き寄せた大きな要因です。

 

血統

母キャントバイミーラヴはナッソーS(英GⅠ)3着などの実績をもつ馬。母系はRiverman、Miswaki、Caerleonなどしなやかな血が重ねられています。母父Pivotalはファンディーナやトリコロールブルーなどの活躍馬と同じです。

父中距離馬×母父スプリンターの配合で、ミッキーロケットが先行馬に出たのは順当。そのため、母のスピードで先行し、Nureyev4×4のクロス影響が出たパワー・ストライドで粘り込むレースを得意とします。

初重賞制覇が京都外回りの日経新春杯だったように、本質的には直線の長いコースが向く馬。内回りだとハイペースの持続戦にならないと苦しいでしょう。今年の宝塚記念は「馬場」と「ペース」がズバッとハマりました。

 

今後に向けて

同じくキングカメハメハ産駒のラブリーデイが5歳時に宝塚記念を制してから一皮向けたように、ミッキーロケットが古馬中距離の「王道路線」を歩むことができるのかに注目です。

現在の古馬中距離路線はキタサンブラックが引退し、中心となるのはスワーヴリチャードやレイデオロ、アルアインなどの4歳馬に移りつつあります。ラブリーデイはGⅠを勝ったことで「王者」の風格を身に付けましたが、ミッキーロケットにもそれを期待したいですね。

直線の長い東京コースは適性に合っているので、天皇賞・秋やジャパンカップはチャンスがあります。ただ、上り3Fの速いレースだとキレ負けする恐れがあり、その点が今後のポイントとなるでしょう。

 

2着の香港馬ワーザーについて

近年、日本に来日する香港馬は輸送で体重を大きく減らすことが多く、今走のワーザーもそれが当てはまりました。ただ、香港馬は身体を減らしても大きく崩れないタフさをもっています。

ワーザーはタイムワープに次ぐ香港・中距離路線のNO.2に位置する馬。自国のGⅠでは日本のネオリアリズムと勝ったり負けたりを繰り返しており、馬場さえフィットすれば日本のGⅠでもチャンスのある馬です。

Sadler's Wells≒Nureyev3×4のクロスをもち、宝塚記念向きのパワーのある配合。この馬場とペースが締まったことで、もっている力を発揮できました。それにしても、この馬場で1頭だけ直線の外から差してきたのは驚きです。

 

サトノダイヤモンドの捲り

サトノダイヤモンドが3コーナーから「らしい」素軽さで捲ったことで、差し馬はその外から動かないといけなくなりました。

後半1000mのラップは11.8 - 12.1 - 12.2 - 11.7 - 12.4。サトノダイヤモンドが先頭に立ちかけた4コーナーで11.7ですから、逃げたサイモンラムセスのスピードが落ちていることを考えると、中団で外目を回された馬には苦しい流れ。

この3〜4コーナーで外目を動いた馬は苦しくなり、4コーナーまで我慢したワーザーのボウマン騎手は流石の一言です。

 

3着のノーブルマーズについて

ノーブルマーズは今年の日経賞で▲を打ったように、小回り向きの機動力とパワーをもった馬。前走の目黒記念は「直線の長い東京コース+高速馬場」を2着と好走し、適性に合っていないレースで素晴らしい走りを見せました。地力がアップしていることは間違いなく、この宝塚記念の3着は人馬ともに褒められるものです。

馬場やポジショニングを考えるとズバリとハマった3着で、上位2頭とは力差のある内容。ここ2走はインを器用に立ち回ってのものだけに、いつもいつもこのレースができるのかどうかが今後の課題でしょう。

 

4着のヴィブロスについて

今走はデビュー以来もっとも重い440kgの馬体での出走。折り合いの巧みな福永祐一騎手が1コーナーでもってかれたように、この馬はさらにパワーアップしていることがうかがえます。

3着のノーブルマーズとは通ったコースの差なので、内容としては悲観するものではありません。スタートが巧みな馬ですし、ノーブルマーズがここまでアッサリと抜け出すとは福永騎手も考えなかったはずで、だからこそ、サトノダイヤモンドを目標に、3〜4コーナーは外を回しました。

ルメール騎手の乗ったエリザベス女王杯のときも感じたことですが、折り合いの巧みな騎手が「かかる」ほどのエンジンをもっているため、もう先行して押し切る競馬がベター。全姉のヴィブロス、半兄のシュヴァルグランからもこの馬はビュンとキレるタイプではなくなりつつあります。

 

◎ステファノスは7着

ノーブルマーズの後ろのポジションが取れ、直線ではサトノダイヤモンドとヴィブロスの間を割ってくる脚色を見せたものの、伸びることなく7着と敗退。今年は昨年よりも馬場が重く、上り3Fの時計がかかるタフなレースが合いませんでした。ラスト3Fの内、11秒台が2つ入るような持続力戦がベターで、この敗戦は致し方なしです。

また、前半1000mの通過が59.4と速く、タフな馬場でこの時計だともう少し馬群が縦に短くなって欲しかった……。最内枠を突いてこの馬らしいレースはできましたし、◎を打っただけの甲斐はありました。願わくばもう少し馬場が軽くなっていれば……。

 

6着サトノダイヤモンドについて

フワリとした「あの」美しい捲りが、この宝塚記念で復活したのはホッとしました。ただ、キタサンブラックを破った有馬記念のような、タフな持続力は影を潜めたまま……。まだ3歳時の輝きは取り戻せていないものの、この馬の真骨頂である素軽い捲りが失われていなかったのは嬉しいかぎりです。

 

不調の原因は?

サトノダイヤモンドは4歳春に阪神大賞典を勝ったときから馬体がムキムキになり、Haloクロスらしい素軽さよりもパワーが前面に発現してきました。これは欧州のタフな馬場に適応するための馬体改造だったのか、それとも馬自身の成長だったのかはわかりません。

フランス遠征では「喉」の調子が心配されたのも、今走の宝塚記念でのバタっとした止まり方を見ると、末脚を持続する「何か(精神的なものか身体的なものかは不明」が足りないのでしょう。ここが改善しないと、GⅠレベルでの好走は難しいですね。

 

種牡馬として

Halo3×5・4のクロスらしい素軽いスピードと、それを高いレベルで持続できるのがサトノダイヤモンドの最大の長所。馬体や走りからも2000時前後がベストな中距離馬だけに、スタミナとパワー問われるタフな馬場だった凱旋門賞は適性に合いませんでした。

ただ、種牡馬として大成するのは1600〜2000mを傑出したスピードでグイグイと押すタイプであり、米2冠のサンデーサイレンスは2400mのベルモントSを2着と敗退し、同じく米2冠のノーザンダンサーもベルモントSを3着と敗退しています。

サトノダイヤモンドが2000mベストの素軽いスピードで凱旋門賞に挑戦したのは、「大種牡馬」になるために必要なことでした。今走の宝塚記念はトップスピードの持続力は影を潜めたものの、真骨頂の素軽い加速力は健在。種牡馬に不可欠な「スピード」は失われていないのです。

種牡馬として明るい未来が待っている馬だけに、残された現役生活はとにかく無事に……と祈っています。

 

まとめ

サトノダイヤモンドが捲り、ワーザーが外から図太い伸び脚を披露し、「ガチッ!」とすべてが噛み合ったミッキーロケットと和田騎手がチャンスを逃さなかった今年の宝塚記念は素晴らしいの一言です。勝つことだけが夢でない、でも、私たちひとりひとりの夢はそれぞれの馬の勝利に向けられている、それがよくわかったレースとなりました。

来年の私の夢はどの馬か……今からレースが楽しみですね。

以上、お読みいただきありがとうございました。