桜花賞・オークス・秋華賞の3冠を制した「天才少女」のアーモンドアイは、バンビ(子鹿)に似たバネのある柔らかいフットワークで走ります。ため息が出るほどに美しいフォームはあまりにも眩しく、私たち競馬ファンに贈られた「ギフト」だと言えるでしょう。
アーモンドアイは父ロードカナロアが伝える(その母レディブラッサムが伝える)「柔らかさ=しなやかさ」を体現し、牝馬らしい素軽さとキレをもちます。そのしなやかなストライドは名競走馬にして名種牡馬のディープインパクトに似ており、リアルタイムでレースを観戦する私たちに幸せな気分をもたらすのです。
牝馬特有のしなやかさ
日本ダービーを制した名牝ウォッカの登場以来、JRAにはダイワスカーレット、ブエナビスタ、ジェンティルドンナ、ショウナンパンドラ、マリアライトなど、牡馬混合の中距離GⅠ(宝塚記念、天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念)を制する牝馬が次々と現れました。
恐ろしいほどに強靭な先行力を武器としたダイワスカーレットとタフな馬場を得意としたマリアライトを除くと、先に上げた名牝たちは牝馬らしい「しなやかな」キレをもちます。この柔らかいフットワークこそ、「牝馬特有の瞬発力」と呼ばれるものです。
✳︎3冠牝馬のジェンティルドンナはストライドではなく回転の早いピッチ走法です。ただ、体質はディープインパクト産駒らしくしなやかさをもっていました
バンビのようなしなやかさ
アーモンドアイは上記の名牝たちと同じく「しなやかな」フットワークで走り、その柔らかさは溜息が出るほど。ディズニー映画の『バンビ』のようなバネを感じさせるしなやかさは、思わずうっとりとしてしまいます。
3歳時のミッキークイーンも「バンビ」のバネとフットワークをもちましたが、古馬になって筋肉がついてくると、独特の「バネ」は少しずつ失われました。もしかしたら、アーモンドアイの柔らかさも、古馬になって失われるのかもしれません。
アーモンドアイがジャパンカップを制するなら3歳時?
ひと夏を越したアーモンドアイは春よりも筋肉が付き、ムッチリとした馬体となっていました。ロードカナロア産駒としては体型に伸びがあるとは言え、馬体そのものは1800mベストの中距離馬です。
同年代の牝馬同士だと競争能力がずば抜けているため、オークス(2400m)の距離もこなしたものの、古馬になってさらに筋肉質になるようだと、距離適性がマイルへとシフトするのではないかと考えられます。
もしかすると、アーモンドアイが東京芝2400mで行われるジャパンカップを制するとしたら、中距離馬らしい身体つきをしている3歳時がベストなのかもしれません。
ジャパンカップがスタミナを問われるようだと……
アーモンドアイは今春のオークスを2分23秒8の好タイムで勝っています。サヤカチャンが2番手以下を離しての逃げだったので、実質的なレースはスローだったものの、道中で1F12.5以下のラップがないのは素晴らしいの一言です。
▼2018年・オークスのレースラップ
12.6 - 11.1 - 12.0 - 11.9 - 12.0 - 12.2 - 12.4 - 12.3 - 12.4 - 12.2 - 11.1 - 11.6
オークス当日は高速馬場だったことを差し引いても、アーモンドアイの上り3F33.2は惚れ惚れとするもの。バキューンと弾ける末脚は、ロードカナロアというよりもディープインパクトを想起させます。
アーモンドアイのオークスは、同世代の牝馬同士のレースだと競争能力に大きな差があることをわからせるものでした。そのため、中距離馬としてのスタミナを問われたとは言えません。
古馬と混じるジャパンカップにおいて、スタミナを求められるレースとなったときに「あの弾ける脚を使えるのか?」がアーモンドアイの最大の課題となるでしょう。
昨年のジャパンカップはスタミナを求められるレース
2017年のジャパンカップはキタサンブラックが淀みのないペースで逃げ、勝ちタイムは2分23秒7のタイムとなりました。もっとも速い上りをマークしたレイデオロでさえ3F34.6だったことから、しなやかなスピードよりもタフなスタミナを求められるレースだったことがわかります。
▼2017年・ジャパンカップのレースラップ
13.0 - 11.2 - 12.1 - 12.1 - 11.8 - 12.1 - 12.3 - 12.2 - 11.8 - 11.3 - 11.8 - 12.0
レースは上り4Fから11秒台に入り、ゴールに向かって失速するラップ。ラストはスピードを落とさずにどこまで我慢できるのかの勝負となりました。このようなラップのレースになると、牝馬特有のキレが通じません。
今年のジャパンカップに出走するメンバーを見渡すと、キタサンブラック級のラップを作れる先行馬は不在。東京芝2400mを2分22秒9の好タイムで逃げ切ったウインテンダネスが出走するとは言え、昨年のジャパンカップほどに淀みのないペースとなるのかは微妙なラインです。
もし、昨年と似たような淀みのないラップではなく、上り3〜4Fのロングスパート戦となるなら、アーモンドアイの力が十分に発揮できるゾーンのレースと言えるでしょう。
アーモンドアイの準備は万全
今年のGⅠレースは、「ノーザンファーム生産+関東馬+C・ルメール騎手」の組み合わせがトレンドとなっています。先週のマイルCSはW・ビュイック騎手のステルヴィオが制しましたが、この馬も「ノーザンファーム生産+関東馬」です。
今秋は、秋華賞、菊花賞、天皇賞・秋、マイルCSと4つのGⅠをノーザンファーム生産の関東馬が制しており、その勢いは止められません。アーモンドアイはこの流れを作った馬ですから、前走から間隔を空けて外厩で調整されたことを考えても、レースに向けての準備は抜かりがないでしょう。
C・ルメール騎手を確保
天皇賞・秋を制したレイデオロがジャパンカップではなく有馬記念に向かうことから、アーモンドアイのジャパンカップでの鞍上は主戦のC・ルメール騎手となりました。ノーザンファームは有力馬のレースを使い分けており、この点もアーモンドアイには追い風です。
ジャパンカップに向けて
高速馬場となっている現在の東京の芝は、しなやかなスピードをもつアーモンドアイにとって大きなプラスとなるコンディション。外差しの利かないコンディションとなっているのはやや不安なものの、ルメール騎手であればそれほど心配ありません。
ショウナンパンドラやジェンティルドンナの制したジャパンカップと同じく、上り3〜4Fのキレ味勝負ならアーモンドアイの土俵と言えます。前半から淀みのないペースとなり、スタミナを問われることがなければ、あの美しいフットワークでバキューンと差し切ってしまうのでしょうね。
まとめ
アーモンドアイはレースに向けての準備の面での不安がありません。また、たとえスタミナを問われるレースとなっても、私たちの想像を超える強さを発揮してしまうこともあり得ます。
この「天才少女」が古馬を相手に弾ける脚を使えるのかどうか、ジャパンカップが今から楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。