「トニービンの血を振り絞る川田騎手を涼しい顔で差し切るC・ルメール騎手」
今秋の毎日王冠からコンビを組んだ川田騎手とキセキは、ジャパンカップにおいても天皇賞・秋のリプレイを観ているかのような逃げを打ち、スタミナと末脚の持続力に優れたトニービンの血を振り絞りました。
▼2018年・JCのレースラップ
12.9 - 10.8 - 12.2 - 12.3 - 11.7 - 11.8 - 11.7 - 11.4 - 11.4 - 11.0 - 11.4 - 12.0
今年のジャパンカップは残り1600m区間が92.4(1分32秒4)と速く、ラスト1F12.0を除けばすべて11秒台の淀みないラップ。川田騎手が勇気をもって11秒台のラップを踏み続けたことは素晴らしく、だからこそ2分20秒6というスーパーなレコードがマークされたと言えます。
今秋のGⅠにおける川田騎手の騎乗はパートナーの競争能力をすべて出し切ろうとするもので、とくにジャパンカップのキセキの逃げは「コレはすごい……」と感嘆の声が漏れました。今年のジャパンカップは「GⅠとしての格」にふさわしいペースだっからこそ、多くの人の記憶に残るレースとなったのです。
トニービンの血を振り絞る川田騎手
毎日王冠からコンビを組んだキセキと川田騎手はレースを重ねるごとに、「いかにトニービンの血を振り絞るか」に焦点を当てた走りを披露し、ジャパンカップは天皇賞・秋よりもさらに素晴らしい逃げを打ちました。
天皇賞・秋の回顧については以下の記事をご覧下さい。
トニービンの血
トニービンはハーツクライとルーラーシップの母父として、エアグルーヴやジャングルポケットの父として現代に枝葉を広げている大種牡馬です。この血は天皇賞・秋やジャパンカップなど東京の大レースを得意とし、直線に上り坂のあるコースに向いています。
ハーツクライやルーラーシップが産駒に伝える「重厚なストライド(パワフルなストライド)」は、1F11秒台の脚を長く使うのに適していて、「直線が長く、ゴール前が上り坂」の東京コースはずんどばの舞台です。この2頭の種牡馬はトニービンのもつHornbeamを刺激することで重厚なストライドを獲得しています。
キセキは母系に多くのHyperionを引く
Hornbeamが引くNasrullahとHyperionの組み合わせが、このストライドの源泉です。また、Hyperionは何世代を経ても豊かなスタミナと成長力を子孫に伝えるほどの名種牡馬。近年ではキタサンブラックがこの特質をもっとも受け継いでいると言えるでしょう。
トニービンの血を活かすにはいかにHornbeamの血を刺激するのかが大切で、それは代を経ても変わりません。キセキの母ブリッツフィナーレはHyperionを多く引く繁殖牝馬。このスタミナこそがキセキの粘り強い走りを支えています。
川田騎手とトニービン
川田将雅騎手が初めてGⅠを制したのは、キャプテントゥーレで逃げ切った2008年の皐月賞です。このキャプテントゥーレも母父にトニービンを引いています。また、主戦を務めたGⅠ2勝馬のラブリーデイが母母父にトニービンをもつのは偶然ではないでしょう。
キレのある牝馬で差し・追い込みに構えるとセンスに欠けた騎乗をすることもあるあるものの、トニービンのスタミナを振り絞らせたらこれほど信頼に足るジョッキーはいません。強気なペースメイクこそ、川田騎手の十八番ですね。
アーモンドアイという「ギフト」
C・ルメール騎手をして「今まで乗った日本馬のなかで1番強い」と言わしめたアーモンドアイは、牡馬のスタミナが活きる質のレースとなったジャパンカップを涼しい顔で制しました。
2分20秒6というスーパー・レコードも、100点満点の走りをしたキセキを突き放したゴール前の軽やかなフットワークも驚くほかないのですが、2〜5着までトニービンもちの占めた男性的なレースを余力たっぷりに勝ち切ったのは、私たち競馬ファンの想像を楽々と超えるものです。
競馬ファンへのギフト
この馬を管理する国枝栄調教師が語った「アーモンドアイは私たちへのギフト(贈りもの)」という言葉はまさにその通りで、2018年のジャパンカップは私たち競馬ファンに贈られた素晴らしいギフトと言えます。
競馬の楽しみのひとつは、私たちの想像を軽く超えるようなレースをする名馬との出会いでしょう。想像もできないほどの素晴らしいレースを観戦できることはかけがえのない体験で、それを実現する名馬こそが私たちへのギフトなのです。
1〜3着は1800〜2000mベストの中距離馬
今年のジャパンカップは川田騎手の逃げによって、スタミナを問われるレースとなりました。ただ、1〜3着のアーモンドアイ、キセキ、スワーヴリチャードの3頭は1800〜2000mベストの中距離馬です。スタミナを求められたにもかかわらず、2400mベストの馬が馬券外へ敗れたのはどうしてなのでしょうか?
4着のシュヴァルグランは2400mベスト
2年続けて天皇賞・春を2着と好走しているシュヴァルグランは4着と馬券外へ敗れました。クラシックディスタンスを得意とするシュヴァルグランにとって、キセキの作ったペースは追走に脚を使ってしまうもの。
高速馬場のマイル戦だと中距離馬が不利となるように、今年のジャパンカップは2400mベストの馬には苦しいペースだったと言えます。中盤が緩んでいないことに加え、これだけ上りの速い決着(後半1000m57.2)となると、前々でレースを運んでいる馬を差すのは簡単なことではありません。
1分31秒台の決着となった今年の安田記念をかかり気味に先行したスワーヴリチャードは前目のポジションを取れたものの、2400m以上の距離に良績のあるシュヴァルグランにはこのペースを追走するのが苦しかった……。ゴール前で3着争いに加わったのは、ラスト1F12.0とラップが落ちたところをもてるスタミナで詰め寄ったからです。
追走するには良質なスピードを求められる
今年のジャパンカップは1F11秒台の脚を長く使うためのスタミナだけではなく、淀みのないペースを追走しても末脚を削がれないスピードも求められたレースでした。
良質なスピードで先行し、直線ではもてるスタミナを振り絞ることのできた馬が上位に入ったように、この2つの資質を高いレベルでもち合わせた馬でないとノーチャンスのレースだったと言えます。
ノーザンファーム生産馬が1着
今秋のGⅠにおけるトレンドは「ノーザンファーム生産+関東馬+C・ルメール騎手」の組み合わせです。アーモンドアイ 、フィエールマン、レイデオロがGⅠを制しました。
アーモンドアイはジャパンカップの枠順確定後、「最内枠に入ったことで他馬のマークが厳しくなるのでは?」と不安視されましたが、そもそもキセキを除く上位人気馬はすべてノーザンファームの生産ですから、その心配はナンセンスだったと言えるでしょう。
ノーザンファーム生産のレイデオロとディアドラがジャパンカップを回避したのは、C・ルメール騎手を確保できないからという理由によるもの。GⅠレースにおいて、有力馬を使い分けることのできるノーザンファームは恐るべしです。
有馬記念は◎レイデオロ?
ジャパンカップをスキップしたレイデオロは有馬記念においても有力馬の1頭。ノーザンファームの戦略を考えるなら、この馬が1着になる可能性がもっとも高いのでしょう。
「有馬記念はレイデオロがゼッタイに勝つ!」とは言えなくとも、「チーム・ノーザンファーム」から勝ち馬が出ることはほぼ間違いありません。
非ノーザンファーム生産馬のキセキは天皇賞・秋→ジャパンカップとハイ・パフォーマンスを出したことで、レースの疲労が懸念されます。そうなると、今年の有馬記念は「また、ノーザンファームのC・ルメール騎手だよ……」となってしまいそうですね。
ミッキースワローは5着
予想記事にも書いた通り、馬券はアーモンドアイ→ミッキースワローの馬単だけを購入。払戻金が10万円を超えるように買ったものの、ミッキースワローが5着に敗れ、スコーンと外れました。
横山典騎手なら、アーモンドアイの直後のポジションを取りに行くのかなと思いましたが、さすがにスタートから出すのは難しかったですね。道中であの位置取りだとどうやっても2着には上がれません。
ミッキースワローは有馬記念を好走できるのか?
ミッキースワローはカンパニーを少しだけ柔らかい体質にした馬で、おそらく東京コースがベスト。高速馬場であれば中山コースも苦にしないものの、コーナーを器用に立ち回るタイプではなく……。有馬記念が上り3Fの速いレースとなるならチャンスもあるとは言え、どうでしょうかね。
ただ、札幌記念→ジャパンカップとダメージの少ないローテーションとなっており、その点はプラスです。また、菊沢隆徳厩舎の管理馬は関東圏のレースでしか好走していないので、舞台が中山というのも悪くはない条件です。
ミッキースワローは有馬記念が「内枠+スローの上り勝負」になるようなら、あっと驚く好走をしても不思議のない馬です。できれば高速馬場になっているのが理想でしょう。
まとめ
今年のジャパンカップはアレコレと回顧するよりも、レースを観ただけでその素晴らしさがわかるものでした。トニービンの血を振り絞るキセキ、淀みのないペースにかかわらず末脚が弾けたアーモンドアイ、この2頭の直線における走りは馬券を離れてボーッと見惚れてしまうほどに素晴らしく、もうそこに継ぎ足す言葉はありません。
アーモンドアイというギフトは、どこまで私たちをドキドキワクワクさせてくれるのか、今から楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。