GⅠスプリンターズS(2017年)は「ビッグアーサー」タイプと「レッドファルクス」タイプの争いにーーレース展望

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秋のGⅠ戦線の開幕を告げるスプリンターズSは10月1日(日)、中山競馬場の芝1200mを舞台に行われます。スタートが切られてから、「あっ!」と言う間もなく直線の攻防を迎えるスプリントGⅠ、この「68秒以内」のレースを制するのはどの馬なのでしょうか?

 

「ロードカナロア・ロス」のスプリント路線

2012、13年のスプリンターズSを連覇し、香港スプリントもぶっこ抜いた「世界のロードカナロア」がターフを去った後、スプリント路線は「王者不在」の状態が続いています。

「ロードカナロア・ロス」のスプリント路線は、高松宮記念→スプリンターズSを春秋連覇する馬も、この2つのGⅠを2年連続で制覇する馬も現れてはいません。今やレースをするたびにコロコロと勝ち馬が入れ替わるのがこの路線の最大の特徴です。

 

短距離王ビッグアーサーの台頭

ロードカナロアの引退後にスプリント路線に現れたのが、2014・15年のヴィクトリアマイルを連覇し、2015年のスプリンターズSを勝ったストレイトガール。ただ、この馬は1400mベストのスプリンターでしたから、ロードカナロアのように豪州産のパワースプリンターが集まる香港スプリントを勝つことができませんでした。

そして、ストレイトガールに替わってスプリント路線に登場したのが、2016年の高松宮記念を制したビッグアーサーです。父サクラバクシンオー×母父Kingmamboでサンデーサイレンスの血を引かないこのスプリンターは、ロードカナロア以来となる高松宮記念→スプリンターズSの春秋連覇を期待されましたが……。

 

2016年スプリンターズSでまさかの敗戦

ビッグアーサーは昨年の高松宮記念を1分6秒7の好時計で快勝。秋の初戦となったGⅡセントウルSも最内枠からスッとハナに立ち、後続を寄せ付けない逃げ切り勝ちを上げ、誰もがスプリンターズSに向けて大きな死角はないと考えていました。とろこが、圧倒的な人気を背負ったスプリンターズSでは12着と大敗。福永騎手が「騎乗ミス」と自身の騎乗を責めるコメントを残したことからも、この馬が能力を発揮できなかったことは間違いありません。ビッグアーサーの敗因は以下の点が挙げられます。

 

1. 最内枠からのスタート

2. 前半3F33.4のペースに折り合いを欠く

3. 馬群に詰まって直線で進路を確保できず

 

豊かなスピードとパワーで先行するビッグアーサーにとって、スプリンターとして完成期にあった昨年のスプリンターズSは前半3F33.4のペースは緩すぎました。最内枠で折り合いを欠いたのは馬群に揉まれたからではなく、ピュアスプリンターのビッグアーサーには前半3F33.0くらいがもっともリラックスして走れるペースだったのです。最内枠に入った時点で、ハイペースを恐れることなく前々へ出して行く「勇気」が欠けていたのが最大の敗因でしょう。

 

1400mベストのレッドファルクスが台頭

昨年のスプリンターズSを外から鮮やかに差し切ったレッドファルクスは1400mがベストのしなやかなスプリンター。1分31秒5の高速決着になった今年のGⅠ安田記念を3着と好走(✳︎)したことからも、この馬がピュアスプリンターではないことがわかります。

(✳︎1400mベストの馬が1600mのGⅠを好走するには、スタミナを求められにくい時計の速い決着になることがベストです。また、前半800mが46秒台を切るようなペースになると、追走に苦労しない1400mベストの馬が差しやすいレースになります。これについては以下の記事も参考にして下さい)

安田記念が高速馬場になったときのポイントーー'17年展望 - ずんどば競馬

昨年のスプリンターズSは前後半3Fが33.4 - 34.2の0.8秒の前傾ラップになりました。レッドファルクス自身は34.1 - 33.5の後傾ラップで差し切っていることから、これ以上前半のペースが速くなると追走に脚を使ってしまう分だけ苦しくなります。今年のスプリンターズSは前半33.5前後のレースになるのかどうか……。

 

ロードカナロアは前半32秒台のレースを楽々と先行していた

ロードカナロアはマイルGⅠの安田記念をぶっこ抜いたように、本質的にはレッドファルクスと同じ1400mベストのスプリンター。もちろん、ロードカナロアの競走能力が突出していたため、スプリントもマイルも勝ち切ってしまったのは間違いありませんが、ロードはレッドよりもパワーの勝ったゴリゴリの先行馬だったことが大きく異なる点です。スプリント戦をしなやかに「差す」のではなく、豊かなスピードとパワーで前々から押し切ってしまう……ロードカナロアはピュアスプリンターのようなレースができたからこそ、豪州産のパワー・スプリンターが集まる香港スプリントも勝てたのだと言えます。

 

ロードカナロアが連覇した2012、13年のスプリンターズS

2013 1:07.2 1 1 ロードカナロア
2 2 ハクサンムーン
32.9 - 34.3 3 15 マヤノリュウジン
2012 1:06.7 1 2 ロードカナロア
2 1 カレンチャン
32.7 - 34.0 3 9 ドリームバレンチノ

ロードカナロアの連覇したスプリンターズSを見ると、前半3Fを33.0で先行し、34秒ソコソコの上りでまとめて勝っていることがわかります。ビッグアーサーは前後半3Fを33.0 - 34.0ソコソコで走れるピュアスプリンターなのですが、昨年のスプリンターズSはこの土俵に自ら上がることをしませんでした。

今年は前半が速くなってピュアスプリンターが台頭するのか、それとも緩いペースになって1400mベスト型が好走するのか、まずはここが予想の入口になります。それでは、今年のスプリンターズSに出走予定の有力馬をこの2つのタイプに分けてみましょう。

 

ピュアスプリンターと1400mベストのスプリンター

木曜日に出馬が確定するまでは、スプリンターズSにどの馬が出走するのかがわかりませんが、「出走となれば1桁人気になる」と想定される9頭をピュアスプリンターと1400mベストのスプリンターに分類します。ただ、どちらとも判定ができない馬については「中間」とします。

(✳︎想定の人気は私的なものですから、レースにおいてその通りになるとは限りません。また、出走馬については木曜日の出馬確定をご確認下さい)

 

ピュアスプリンター

ダイアナヘイロー

ビッグアーサー

前半33.0を楽々と先行できる馬はこの2頭。どちらも前傾ラップがお好きなピュアスプリンターです。ダイアナヘイローは馬体が完成期に入った今なら、前走の北九州記念のような競馬がベスト。ビッグアーサーは長期休養による体調面の不安がありますが、ピュアスプリンターとしての能力はここでは1枚上。

この2頭がハイペースを恐れずに前半のペースを引き上げるレースにもち込むのなら、1400mベストのスプリンターは苦しい流れになります。

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1400mベストのスプリンター

ソルヴェイグ

ダンスディレクター

ファインニードル

レッツゴードンキ

レッドファルクス

いかにも1400mがベストという面々。この馬たちがスプリンターズSに数多く出走していることを見ても、現在のスプリント路線がいかにピュアスプリンター不遇の時代かがわかります。

もし、今年のスプリンターズSが前半3F33.5よりも遅いペースになるなら、上記の5頭が「ワーイ!」と喜び勇んでゴール前に殺到するレースに……。

昨年のスプリンターズS2着のミッキーアイルがその後にマイルCSを制したことからも、レースの質が1400mベストの馬に向いていたことがわかりますね。ただ、これらの馬は香港スプリントに向かうと好走の可能性が低い馬たちです。

 

中間

セイウンコウセイ

メラグラーナ

取捨に困るのがこの2頭。セイウンコウセイは父アドマイヤムーン×母父Capote×母母父Miswakiですから、しなやかな血で走るスプリンター。道悪だった1400mの渡月橋S(1600万下)を逃げて圧勝していることからパワータイプとは言え、血統的にはしなやかさもあるというややこしさのある馬……。1分6秒台のレコード決着になった前走の函館スプリントSは、前半3F32秒台をスイスイと先行していたことから、馬体が完成してくればピュアスプリンターになるのかもしれない……ということで中間に分類しました。

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メラグラーナはもう何度も書いているように、本質的にはピュアスプリンター。南半球産の遅生まれで、馬体が緩くまだまだ未完成の馬のため、速いラップを楽々と追走することができません。トモがパンとしてくればスタートをもっと楽に切れるはずで、ゴリゴリと先行できるようにならなければ(現在のように中団から差す競馬をしているようでは)、スプリントGⅠを勝つのは苦しいでしょう。香港スプリントを勝てるだけの器のあるパワー・スプリンターですから、ここまで成長が遅いのは悔やまれます。

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まとめ

今春の高松宮記念のように「道悪」の馬場になると、レースのペースと質が大きく変わるので上記の分類もあまり役に立ちません。ただ、時計の速い今の中山の馬場を考えれば、スプリンターズSの検討は上記の分類が予想の入口となります。今年のスプリンターズSはピュアスプリンター vs 1400mベストのスプリンターの対決に注目です。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。

 

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