スプリンターズS(GⅠ・中山芝1200m)に向けた前哨戦となるセントウルS(GⅡ・阪神芝1200m)を1分6秒7のレコードで楽勝したタワーオブロンドンは、H・H・シェイク・モハメド殿下が代表を務める世界的な馬産集団「ゴドルフィン」の配合的なオシャレさがギュッと詰まった1頭。
タワーオブロンドンの5代血統表をただただ眺めているだけで、「オシャレだな〜」と感嘆のため息がもれるほどです。今回の記事ではスプリンターズS(に出走すれば)の上位人気になるであろうタワーオブロンドンの配合的な「オシャレさ」と走りの特徴をズバッと解説します。
タワーオブロンドン 4歳牡馬
まず初めにタワーオブロンドンのプロフィール(基本情報)をササッとおさらいしておきましょう。
プロフィール
父:Raven's Pass
母:スノーパイン(母父Dalakhani)
厩舎:藤沢和雄(美浦)
馬主:ゴドルフィン
生産:ダーレー・ジャパン・ファーム
タワーオブロンドンは2歳時にききょうS(OP・阪神芝1400m)と京王杯2歳S(GⅡ・東京芝1400m)を圧巻のハイ・パフォーマンスで連勝すると、C・ルメール騎手が「ロードカナロア級」と賞賛したことで一躍注目を集める馬となりました。
朝日杯FS(GⅠ・阪神芝1600m)3着、NHKマイルC(GⅠ・東京芝1600m)12着とマイルのGⅠ路線で思ったほどの結果が出せず、4歳となった今年(2019年)はスプリント路線を歩むことに。
今春に京王杯SC(GⅡ・東京芝1400m)を1分19秒4の好タイムで快勝すると、その後は函館SS3着→キーンランドC2着→セントウルS1着とサマー・スプリントシリーズを3レース走り、シリーズ・チャンピオンに輝きました。
血統
父Raven's PassはGone West系でも底力を伝えるElusive Quality直仔。その母Ascutneyが主流の血脈(Northern DancerやMr. Prospector)をひとつも引かないアウトブリードな配合のため、活力にあふれた好配合の種牡馬。
Elusive QualityがGone West系らしい素軽いスピードと大レースを勝ち切る底力をもつのは、その母Touch of Greatnessの優れた繁殖能力によるものでしょう。
✳︎)この名牝は日本だとショウナンアデラ(母父Elusive Quality)とサトノクラウン(母父Rossini:母がTouch of Greatness)などのGⅠ馬の母系に入ることで、優れた血を伝えています
母スノーパインは英ダービー馬ジェネラスを産んだDoff the Derbyにさかのぼり、日本においても皐月賞馬のディーマジェスティなどを出している名牝系の出身。2代母のシンコウエルメスがSadler's Wells×Master Derbyとコテコテの欧州的なパワーとスタミナを伝える配合だけに、そこに重厚なキレをもつDalakhani(父Darshaan×母父Miswaki)がかけられているのは好印象です。
オシャレな配合
父Raven's Passも母スノーパインも5代アウトブリードの配合で、タワーオブロンドン自身はNorthern Dancer4×5とMr. Prospector5×4のクロスをもちます。父のしなやかなスピードと母の重厚さがマッチしており、もしタワーオブロンドンが牝馬であれば、ディープインパクトを付けてGⅠ馬が産まれるほどの好配合です。
この配合のオシャレさを支えるのは、母父にDalakhaniが入ることでしょう。このフランス血脈がふんだんに盛り込まれた種牡馬は、Darshaanやクリスタルパレスなどの「しなやかなキレ」を伝える血を多く引きます。タワーオブロンドンが短距離レースでしなやかにキレるのはDarshaanのおかげと言っても過言ではありません。
H・H・シェイク・モハメド殿下の所有馬の配合が上品なのは、タワーオブロンドンを含めて主流ではない血をしっかりと取り込んでいることにあります。父Raven's Pass(シェイク・モハメド殿下の第2夫人ハヤ王妃の所有馬)も母スノーパインもその思想がしっかりと反映されているのです。だからこそ、世界有数のオーナー・ブリーダーとして大成功を収められたと言えます。
1200mがベストなのか?
タワーオブロンドンは直線でビュンと反応するところはコテコテのパワーに優れたスプリンターにも見えますし、しなやかに前脚を伸ばすフォームはしなやかに差す1400mベストのスプリンターにも見えます。
前走のセントウルSでこの馬自身がマークした前後半3Fのラップが、「33.5 - 33.2」の後傾ラップだったことからも、本質的に1400mベストのスプリンターだと考えられます。
✳︎)タワーオブロンドンが好走しているのは平均〜後傾ラップになったときがほとんど。そのため、ゴリゴリの前傾ラップを好むピュア・スプリンターとは言い切れません
スプリンターズSに向けて
セントウルSの楽勝によって、タワーオブロンドンはスプリンターズSへ出走することが濃厚となっています。
体力のお釣りが残っているのか?
今夏はすでに函館SS→キーンランドC→セントウルSとサマー・スプリントシリーズを3走しているだけに、体力のお釣りが残っているのか……。
こればかりは走ってみないとわからないものの、前走のセントウルSの走りはダメージを残さない形でしたし、母系がパワフルな欧州血統なだけに、そこまで心配することはないと思います。
前傾ラップになったとき
タワーオブロンドンにとって、ローテーションよりも不安視されるのは、スプリンターズSがゴリゴリの前傾ラップとなったときです。
現在の中山芝は京成杯AHで日本レコードがマークされたように、「超」のつく高速馬場となっています。そのため、前半3Fが速くなったとしても、上り3Fの時計がかかることはほぼありません。
スプリンターズSが今のままの馬場であれば、タワーオブロンドンに有利なコンディションと言えるでしょう。ただし、もしこれから時計のかかる馬場へと変化するなら、前傾ラップの出やすい馬場となり、この馬には不利となります。
近年のスプリンターズSは前傾ラップにならない
雨で稍重馬場だった昨年こそ、前後半3Fが33.0 - 35.3(2.3秒の前傾)となりましたが、ストレイガールの制した2015年、レッドファルクスが連覇した2016&17年は「後傾ラップ or 1.0秒以内の前傾ラップ」となっており、近年のスプリンターズSはぬるいペースになるのが特徴です。
しなやかなサンデーサイレンスの血が広まるにつれ、日本では前傾ラップを好むゴリゴリのパワー・スプリンターが減少傾向にあります。スプラント路線においても後傾ラップが広まると、しなやかなキレをもつ差し馬がどんどん台頭することになるでしょう。
雨の影響を受けず、このままの馬場コンディションが続くのであれば、今年のスプリンターズSは後傾ラップになる可能性が大きく……。そうなると、タワーオブロンドンにとってズンドバの展開となります。
ゴドルフィンはスプリント路線にリソースを割いている
昨年の春秋スプリントGⅠを連覇したファインニードルを筆頭に、ゴドルフィンは年々その勢力を拡大しています。現在はダートやスプリント〜マイル路線を主戦場としていますが、その内3歳クラシック路線にもゴドルフィンの馬が進出してくるのでしょう。
現在のJRAにおける芝マイル以上GⅠはノーザンファームの寡占状態。そのため、ゴドルフィンはまず、芝スプリント路線とダート路線により多くのリソースを割いています。
タワーオブロンドンもこの流れを組む馬。ファインニードルが引退したことを考えると、スプリント路線に新たな王者が誕生することは、ゴドルフィンにとって願ってもないチャンスだと言えますね。
まとめ
ゴドルフィンが世界のどの国の競馬においても素晴らしい結果を出せるのは、「オシャレ」で上品な配合をした繁殖牝馬を多く所有しているから。とくに、フランスのしなやかなキレを取り込むのが抜群に上手いのが大きな特徴です。
コロンとした馬体からは想像できないタワーオブロンドンのキレは、母系に入るフランス的なしなやかさが体現されたもの。だからこそ、フランス人のC・ルメール騎手と手が合うのかもしれません。
ゴドルフィンが馬主としてスプリンターズSを連覇することができるのか、タワーオブロンドンが中山でもあのしなやかなキレを発揮できるのか、今からレースが楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。