共同通信杯に出走するアメリカンワールドはKitten's Joy産駒としては異質なタイプ

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北米で大成功を上げた種牡馬El Pradoは、パワーとスタミナに優れた欧州のリーディング・サイアーSadler's Wells直仔としては珍しく、スピードと器用さの勝った産駒を多く輩出しています。

El Pradoの代表産駒として知られるKitten's JoyやMedaglia d'Oroは、種牡馬として日本の芝にも適性を見せており、Sadler's Wellsの中でも異質な発展を遂げていると言えるでしょう。

今年の明け3歳世代には、Kitten's Joy産駒としてJRAの重賞を勝ったジャンダルム(GⅡ・デイリー杯2歳S)がおり、このEl Pradoの血が日本でどのような広がりを見せるかに注目です。

 

Kitten's Joy産駒のアメリカンワールド

クラシックの登竜門と言われる共同通信杯(GⅢ・東京芝1800m)にKitten's Joy産駒のアメリカンワールドが出走を予定しています。未勝利戦を快勝して臨む同馬は、出世レースでどのような走りをするのでしょうか?

 

アメリカンワールド 3歳牡馬

父:Kitten's Joy

母:Limonar(母父:ストリートクライ)

厩舎:藤岡健一(栗東)

デビューから3戦目で初勝利を上げ、今走は初の重賞挑戦となります。初勝利となった前走の未勝利戦は好位からアッサリと抜け出しての完勝だったことから、先々が楽しみな1頭です。

 

血統

父Kitten's Joyは先述のジャンダルムやダッシングブレイズ(GⅢエプソムカップ1着)がJRAの芝重賞を制しており、Sadler's Wells系のなかでも軽い芝に適性のある種牡馬。El Prado×Lear Fanという配合通り、いかにも小回り向きのスピードとパワーを兼ね備えた産駒を多く出します。

血統表の中にSir IvorやTom Foolなどのしなやかな血が入るので、これらを刺激すればダッシングブレイズのような直線の長いコースをストライドで差す馬が出るものの、スタンダードはジャンダルムのような小回り向きの器用さをもつタイプでしょう。

母Limonarは名牝Specialの母Thongに遡る名門牝系。Sadler's  Wellsの血を引くKitten's Joyが配されたことで、アメリカンワールド自身はSpecial=Lisadelの全姉妹クロスをもちます。4代母のLisaleenが名種牡馬Nureyevと同血であること、そして、母系にSeattle SlewやRivermanという血を引くことから、この馬はストライドで走るタイプです。

ジャンダルムと異なり、ストライドが伸びる走りなので、おそらく東京コースはベスト。ダッシングブレイズと同じようにマイルだとパワー負けしてしまうので、1800mの距離が合っています。

 

共同通信杯に向けて

前走の未勝利戦は上り3Fが12.1 - 11.1 - 11.4とラスト2Fだけの競馬でした。4コーナーで馬群を楽々とさばけたのは、母父に入るストリートクライの父Machiavellian的な器用さがONになっているからだと考えられます。

ジャンダルムよりも体型に伸びのあるアメリカンワールドはストライド走法+器用さのあるだけに、どのコースを走ってもソコソコに好走してしまうタイプです。

 

浜中騎手はプラス

アメリカンワールドの鞍上は、ダッシングブレイズの主戦騎手を務める浜中騎手。この2頭は似たような適性をもつことから、浜中騎手が手綱を取るのは大きなプラスです。昨年のエプソムカップのようなレースができれば、好走するチャンスも十分にあります。

 

ペースの対応幅が広い

アメリカンワールドはここ2走でスローとハイの異なるペースに対応していることから、初のじゅうしょうちょうせんとあっても楽しみがもてます。スローの上り勝負だけではなく、タフな流れを経験しているのは、重賞レースを走る上で大きな強みとなるでしょう。

 

今後に向けて

走り出すと前脚が伸びるストライド走法なので、東京コースがベストの馬。NHKマイルカップあたりが今春の目標となるのでしょうが、ピュアなマイラーではないので、その辺りに不安を抱えます。

器用さにも長けたタイプなので内回り・小回りでも大きく崩れることはないはずで、マキシマムドパリのようにどのコースを走ってもソコソコに走れてしまうタイプに成長しそうです。

ダッシングブレイズと同じくエプソムカップがずんどばの適性で、中山や阪神内回りでは評価を下げたい1頭と言えるでしょう。

Sadler's Wells≒Lisaleen3×4のニアリークロスをもつことで3歳春から活躍が見込め、完成は早めのタイプ。ダッシングブレイズのように古馬になって着実に力をつけるのかは「?」が付くので、稼げるときにしっかりと稼いでおきたい配合です。

 

El Pradoのイメージは?

競馬ブログや雑誌などで「血統表に◯◯の血をもっている馬がこのレースでは好走する」というフレーズを目にしますが、例えばSadler's Wellsだけでも後世に伝えるものはさまざまであって、どんな適性がONになっているかを考える必要があります。

欧州の大種牡馬Sadler's Wellsは一般的にはスタミナとパワーに優れるとされるものの、その産駒にはEl Pradoのような早熟なスピード系マイラーもおり、後世にスピードと俊敏性を伝えることもあるのです。

昨年のBCターフを勝ったタリスマニックは父Medaglia d'Oro×母父Machiavellianという組み合わせで、いかにも小回り・内回り向きの機動力に特化した配合をしています。この馬がBCターフの4コーナーで同じSadler's Wells系のGalileoを父にもつハイランドリールを置き去りにしたのは、El Pradoの俊敏性がONになっているから。

私たちは「わかりやすい」話が好きなので、すぐに「Sadler's Wellsだから◯◯だ!」とイメージで語ってしまいがちですが、それぞれの馬が血統表に入る血のどのような適性を引き継いでいるのか、それをしっかりと理解する必要があります。

El PradoはSadler's Wells系のなかでも異質な存在で、だからこそヨーロッパではなく北米のリーディングサイアーに輝いたのですし、その産駒にも素晴らしい俊敏性をしっかりと伝えているのです。

 

まとめ

アメリカンワールドとジャンダルムは同じ父をもつにもかかわらず、まったく異なるタイプに出ています。前者のキモはSadler's Wellsにあるのではなく、母系に入るSeattle SlewやRiverman、そしてSpecial=Lisadelの全姉妹クロスにあるのです。

アメリカンワールドが直線の長い東京コースで、ダッシングブレイズのような走りを見せることができるのか、今からレースが楽しみですね。

以上、お読みいただきありがとうございました。