秋華賞トライアルGⅡローズSは9月17日(日)、阪神競馬場の芝1800外回りコースを舞台に行われます。春のクラシック路線を沸かせたファンディーナ、アドマイヤミヤビ、リスグラシュー、モズカッチャンが出走するとあって、注目度の高いレース。春の実績馬がそれぞれ秋の初戦でどのような走りを観せてくれるのでしょうか?
3歳春の時点で活躍したハーツクライ産駒の2頭
現3歳世代はハーツクライ産駒の「当たり年」と呼ばれるほど春先から好素質馬が現れました。牡馬ではダービー2着のスワーヴリチャード、牝馬ではオークス3着のアドマイヤミヤビ、桜花賞2着のリスグラシューとGⅠでも好成績を上げたのは記憶に新しいところです。
ハーツクライ産駒の成長曲線は2パターン
ハーツクライ産駒は馬体の完成が遅めと言われますが、成長曲線は大きく分けて2パターン。1つは代表産駒のジャスタウェイなど古馬になってからGⅠを制するような成長曲線、もう1つはダービー馬のワンアンドオンリー、オークス馬のヌーヴォレコルトと3歳春の時点で活躍する成長曲線です。
3歳春の時点で完成する馬は……
3歳春の時点で高いパフォーマンスを発揮する馬は古馬になってからもジワジワと成長したウインバリアシオンを除くと、ワンアンドオンリーもヌーヴォレコルトも古馬になっても成長したかと言われると「?」のつく馬たちです。もちろん、3歳秋の時点で能力に陰りが見えるようなことはありませんが、一夏を越えて見違えるような成長をしたとも言えません。
アドマイヤミヤビとリスグラシュー
アドマイヤミヤビもリスグラシューも3歳の早い時期から高い能力を発揮し、「ハイレベル」と呼ばれる3歳牝馬世代でもトップクラスの実力をもった2頭。一夏を越したこの2頭がどのような姿でターフに戻ってくるのか、そして、ローズSでどのような走りを見せるのかに注目が集まります。
アドマイヤミヤビ 3歳牝馬
父:ハーツクライ
母:レディスキッパー(母父:クロフネ)
厩舎:友道康夫(栗東)
生産:ノーザンファーム
アドマイヤミヤビがクラシック候補として注目を集めたレースは、カデナやアウトライアーズといった素質のある牡馬を相手に完勝した2歳500万下の百日草特別。2歳時に東京芝2000mを牡馬相手に勝つというのはなかなかできることではありません。
3歳の年明け初戦となったクイーンCは後にNHKマイルCを完勝するアエロリットを下したもので、勝ちタイムの1分33秒2とともに価値の高い内容でした。坂を駆け上がるときのパワーと長く良い脚が使えるところがこの馬の最大の武器で、重厚なストライドはいかにも長い直線が合います。
2番人気に支持された桜花賞はスタートで後手を踏み、馬場なのか気性的な面によるものなのかはわかりませんが、鞍上のM・デムーロ騎手がいくら促しても反応せず12着と大敗しました。
オークスもソウルスターリングに次ぐ2番人気の支持を受けました。大外枠から後方のポジションでレースを進め、4コーナー手前から仕掛けると直線では大外に出してグイグイと伸び、ゴール前で内のディアドラを交わして3着を確保。パワー溢れる重厚なストライドは中距離馬のもので、桜花賞大敗のケアはしっかりとできていました。
血統
母レディスキッパーは曾祖母ウインドインハーヘア(ディープインパクトの母)にデインヒル→クロフネと名種牡馬がかけられ、血統表中のいたるところにNorthern Dancerの文字を見ることができます。ハーツクライの母アイリッシュダンスは父トニービン×母父Lyphard(Northern Dancer直仔)ですから、アドマイヤミヤビは名種牡馬Northern Dancerの血がぎゅっと詰め込まれていて、これが卓越したパワーの源になっているのでしょう。
胴の長い馬体、そして、半兄のグランアルマダ(父:ダイワメジャー)とミッキーシャンティ(父:ダノンシャンティ)が2000m以上の長い距離に適性を見せていることから、アドマイヤミヤビにとって長い距離はプラスです。
ゴール前に急坂が待ち構え、直線の長い阪神芝外回りコースは、重厚なストライドで走るアドマイヤミヤビにとっては願ってもない舞台。直線が平坦+内回りコースの秋華賞よりもローズSは適性に合っているので、休み明けといってもこちらできっちりと好走しておきたいところです。
ローズSに向けて
京都芝2000m内回りで行われる秋華賞はアドマイヤミヤビにとっては適性とズレる舞台だけに、阪神芝1800m外回りコースのローズSは取りこぼしたくないレース。一夏を越して、気性的な難しさが解消されているかは鍵になります。
芝1800mという距離なら競走馬としての、オークス3着馬としての「格」で他馬をねじ伏せなければならなず、このレースは今後のアドマイヤミヤビを占う意味で試金石となる1戦です。
リスグラシュー 3歳牝馬
父:ハーツクライ
母:リリサイド(母父:American Post)
厩舎:矢作芳人(栗東)
生産:ノーザンファーム
阪神芝1800mの未勝利戦で2歳レコードを出したように、スピードとパワーに長けた持続力のある末脚がリスグラシューの最大の武器と言えます。
アルテミスSはスローペースをなだめながら追走で、直線馬場の真ん中へもち出すと坂を駆け上がるときのバキューンと弾けた脚が素晴らしく、後ろから迫ったフローレスマジックを問題にしない完勝。いかにも長い直線で末脚の持続力を活かすハーツクライ産駒らしい勝利。
阪神JFは最内枠の利を活かしてコースロスなく乗ったソウルスターリングを捕らえられずに2着に敗退。この阪神芝コースはインコースを通った馬が有利な馬場状態で、大外枠に入ったリスグラシューが最後の直線で大外枠からこの馬らしい末脚を発揮したものの、ソウルスターリングを捕まえることができませんでした。
ソウルスターリングと3度目の対決となった桜花賞は、ライバルをぴったりとマークする形でレースを進め、最後の直線はこの馬らしいパワーを活かしたストライドで伸びてきましたが、先に抜け出していたレーヌミノルを捕まえきれずに2着と惜敗。
オークスは「マイナス4kg」の数字以上に馬体を細く見せギリギリの体つき。それでも直線はストライドを伸ばして5着を確保しました。このレースはスローからの4F勝負になってしまい、差し馬には苦しい展開になりました。末脚の持続力で勝負するリスグラシューにとってはもう少しレースが流れて欲しかったところでしょう。
血統
母のリリサイドはクロスのうるさいマイラーで、その影響が出ているのか姉のプルメリアスターは気性が激しく、レースに行くと鞍上がなだめるのに苦労するほど。リスグラシューはその姉に較べると胴が長く気性もそこまでうるさくはないので、1800〜2000mがベストの馬。
母父のAmerican Postは仏2000ギニーを勝ったマイラーで、父ハーツクライ×母父マイラーはオークスを勝ったヌーヴォレコルトなどと同じような配合。また、この馬は母系に入るMill Reefの重厚なキレを受け継いでいて、阪神芝1800mの未勝利戦でレコードを出したの納得です。
ローズSに向けて
アドマイヤミヤビとリスグラシューのどちらがローズS(阪神芝1800m)に向いているかは甲乙が付けにくいものの、母系にMill Reefをもつ後者がやや有利。その点からもリスグラシューにとってローズSは負けられない1戦になります。
一夏を越してしっかりと馬体が成長しているのかはこの馬にとっては大切なポイントで、馬体は少しでも増やした状態で出走したいところです。細身で太りにくい体質からも、もし春よりもマイナス体重での出走になるようだと割引。
アドマイヤミヤビと同じく、秋華賞はローズSよりも適性的に合わない舞台なので、ここで何とか勝ちたいところです。ただ、京都芝2200m外回りのエリザベス女王杯はアドマイヤミヤビよりはリスグラシューに適性があるので、今回は秋3戦を見据えての1戦になります。休養明けはイマイチ走らない馬ですが、このメンバーであればそんなことは言ってられません。
ハーツクライ産駒は京都の大レースだと勝ち切れない……
今年の天皇賞・春はシュヴァルグランが2着に入線し、これで同レースはハーツクライ産駒が4年連続で2着(ウインバリアシオン→カレンミロティック→カレンミロティック→シュヴァルグラン)という結果になりました。京都芝で行われるGⅠだと詰めの甘さが目立つのがハーツクライ産駒の特徴で、牝馬のヌーヴォレコルトも京都のGⅠでは秋華賞2着、エリザベス女王杯は2年連続2着と勝ち切れていません。
ハーツクライ産駒が京都コースで行われるGⅠを好走したとしても勝ち切れないのはどのような理由があるのでしょうか?
下り坂+直線が平坦
京都の芝は内回りと外回りの2種類のコースがありますが、どちらも3コーナーから下り坂があり、最後の直線は平坦(実際はごく緩やかな下り坂)というレイアウトです。長く良い脚を使えるハーツクライ産駒にとって、ホームストレッチが平坦で瞬発力を要求されるような競馬は苦手。また、下り坂でスピードに乗るのがあまり得意ではないので、どうしてもGⅠクラスの大きなレースになると、その適性の差が出てしまうのです。
秋華賞は京都の内回りコース
牝馬クラシックの3冠目の秋華賞は京都の内回りコースで行われます。この条件はハーツクライ産駒にとっては大きなマイナス。京都の内回りコースはホームストレッチが短いため、直線の長い外回りコースよりも苦しいコース設定です。京都の外回りコースでもGⅠ勝ちがないのですから、内回りは鬼門……。
アドマイヤミヤビとリスグラシューにとって、秋華賞よりも阪神芝外回りのローズSの方が適性として合っている舞台ですから、陣営もまずはここでしっかりと好走できるように仕上げてくるでしょう。
まとめ
春の牝馬クラシックを湧かせた2頭の才女が夏を越してターフに戻ってきます。どのような姿で阪神競馬場のパドックに現れるのか、そして、どのようなレースぶりを見せるのか、今からローズSが楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。