秋のGⅠを展望する馬と夏の重賞を好走した馬とが集まる「GⅡオールカマー(中山芝2200m)は、1着馬に天皇賞・秋の優先出走権が与えられる前哨戦。古馬中長距離のGⅠ路線を歩む実力馬が、秋の始動戦として選択されるケースも多く、今年の主役は国内GⅠの2着が2度あるステファノス。今春は、キタサンブラックに食い下がった大阪杯2着→ハイペースになった安田記念は0.3秒差の7着とGⅠでも好走しました。叩き良化型の馬だけに、オールカマーを勝ち切ることができるのかに注目です。
中山の馬場はかなりの「高速」
秋の中山2週目は9月16日〜18日までの3日間開催。中日の日曜日は台風18号の影響を受け、終日雨のなかでのレースとなりました。その日は重馬場まで悪化したこともあり、最終日は晴れていくらかは回復したとしても時計のかかるコンディションが想定されたものの……。蓋を開けてみれば、馬場はみるみる回復して初日よりも時計が速くなるという事態に……。
中山競馬場は2014年以降、かなり水はけが良い
中山競馬場は2014年の馬場改修時に暗渠排水管を設置し、それ以降は水はけが格段に良くなりました。今春、中山開催の最終日に行われた皐月賞が、前の週に重馬場まで悪化したにもかかわらず、レースレコードの出る馬場だったのは記憶に新しいところです。
この排水性の向上によって、雨が降った後に日差しが出て路盤が急速に乾くと、それ以前よりも「時計の速い」芝に変わります。時計の速さは路盤に含まれる水分量の多少によるため、18日はJRAが想定する以上に芝が乾いてしまったのでしょう。
オールカマーの馬場は?
今週末は土曜日に雨、日曜は曇りの予報が出ています。もし、土曜日に雨が降った後、日曜日に日差しが出ることがあれば、また「高速馬場」が出現する可能性があり、時計の速い決着がOKかつ速い上り3Fの出せる馬に有利なコンディションになるかもしれません。
また、土曜日に雨が降る確率が高ければ、JRAの馬場造園課は週中の芝への散水(芝の育成を目的としたもの)を控えることも考えられ、より「高速馬場」にシフトすることも……。オールカマーでは高速馬場に適性のある馬をピックアップしたいレースになりますね。
オールカマー出走予定馬のなかで、高速馬場に適性があるのは?
今年のオールカマーで1、2番人気が予想されるステファノスとタンタアレグリアは、後半のロングスパート戦がベターのタイプで、上り3Fの鋭さで勝負するタイプではありません。もし、今年のセントライト記念のようにレースの上りが34.0で、勝ったミッキースワローのように33秒台の脚を使わなくてはならない質のレースになった場合は、取りこぼすことも十分に考えられます。
高速馬場+上りの速い競馬もOKなブラックバゴ
今年の出走馬のなかに、高速馬場+上りの速い決着もOKな馬がいます。それは、前走1600万下の五稜郭S(函館芝2000m)を1分析58秒8の好タイムで勝ったブラックバゴ(5歳牡馬)。今夏の函館開催は、開幕週にレコードがバンバンマークされるような時計の速い馬場でしたが、1週目以降は少しずつ時計がかかるようになっていました。五稜郭Sはブラックバゴ1頭だけが上り34秒台の脚を使っており、7頭立てのスローペースで1分58秒台をマークしたのは優秀です。
ブラックバゴ 5歳牡馬
父:バゴ
母:ステイウィズユー(母父:ステイゴールド)
厩舎:斎藤誠(美浦)
生産:ノーザンファーム
2歳時に未勝利戦を勝ち上がったばかりで挑んだGⅢホープフルSはシャイニングレイ(今夏、脚部不安から復活してCBC賞を制覇)の3着、年が明けてすぐのGⅢ京成杯をベルーフの2着に好走するなど、早い時期から重賞で活躍を見せました。その後はクラシックトライアルで好走することができずに、条件戦からの再スタート。ただ、3歳春から4歳時にかけては思うような結果を残すことができずに、条件戦での足踏みが続くことに。
転機となったのは、喉の手術明けとなった今年の初めの中山競馬場で行われた1000万下のレースでした。その休養明け初戦は、7番人気の低評価をくつがえすような快勝を見せ、続く1600万下クラスを3戦目で勝ち上がって再度のOP入り。実力馬がいよいよ重賞の舞台に戻ってきます。
血統
父バゴは凱旋門賞などGⅠを5勝した中距離馬で、引退レースとなったジャパンカップ8着以外はすべて掲示板内に走った堅実派。種牡馬としては菊花賞を勝ったビッグウィークや桜花賞2着のオウケンサクラなどを出しています。その父Nashwanは英2000ギニー、英ダービー、エクリプスS、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSの4つのGⅠを無敗で制した名馬。
バリバリの欧州血統であるバゴが日本の芝にフィットした産駒を出しているのは、父系にBlushing Gromのしなやかさが表現されたNashwanと、母系にヴィルシーナとヴィブロス姉妹やヴィクトワールピサの母父としても知られるMachiavellianの全妹Coup de Genieが入るからでしょう。
バゴの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
Coup de Genieの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
Blushing Groom系のバゴは気性的が勝ったタイプの産駒が多く、牝馬はオウケンサクラやクリスマスなどのマイラー・スプリンターになることがままあり、父のような中距離に適性を示すのはほぼ牡馬に限られます。ブラックバゴが2000m前後で力を発揮するのは牡馬だからです。
母ステイウィズユーはステイゴールド×ホリスキー(マルゼンスキー直仔)からしなやかな血と母系にWild Riskを引くのが特徴。Blushing Groom系の気性の激しさは主にWild Riskによるもので、ブラックバゴはこの薄いクロスをもつために、レースに行くと「カッと燃え」てしまい、折り合いを欠くこともしばしば。ただ、騎手が重賞レースでも折り合いに苦労するということは、それだけエンジンが優れている証なので、ブラックバゴのエンジンがOP級なのは間違いのないところです。
Halo4×3のクロスをもつことから、ブラックバゴはしなやかな体質ながらも器用さやコーナーでの加速力は抜群で、小回りの函館をひと捲りした前走はこの馬のコース適性を表したレースだったと言えます。持続力に優れ、しなやかなキレももつブラックバゴにとって、時計の速い中山芝2200mはドンと来いの舞台でしょう。
ブラックバゴの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
オールカマーに向けて
ブラックバゴが2歳〜3歳春にかけての重賞レースで、スタートをソロっと出して後方から追い込む競馬をしていたのは、Wild Riskクロスの気性の激しさによってすぐに力んで走ってしまうから。この気性を巧くコントロールしてレースで力むことがなくなれば、ブラックバゴは先行しても差しても追い込んでも素晴らしい走りを見せることができる馬です。これまで出走した重賞レースは強敵相手に僅差の負けですから、オールカマーのメンバーに入っても力の差は感じません。
中山の芝2200mはゴールまで残り1200mを過ぎてからのロングスパート戦になることが多く、ブラックバゴが前半のスローペースを力まずに走れるのなら、後半はHalo的な機動力で3〜4コーナを鋭く捲ることが可能。同じような脚質のタンタアレグリアは強敵ですが、高速馬場によって上りの速い決着になるならブラックバゴも引けを取りません。気性が勝ったタイプなので休み明けも苦にしませんし、とにかく落ち着いてレースに臨めるのなら……。ただ、ひとつだけ不安点があります。
騎手が……騎手が不安……
オールカマーでブラックバゴに騎乗するのは内田博幸騎手。大井の豪腕・ウッチー……。内田騎手が下手とかではなく、折り合いに繊細なブラックバゴに馬への当たりが強い騎手に依頼するのは……。芝の上級条件ではなかなか好結果の出ない内田騎手だけに、ここが唯一の不安です。中団でガツンとかかるブラックバゴの姿が目に浮かびます。前走で素晴らしい捲りを見せてくれた岩田騎手が乗れるのなら良かったのですが……。こればかりはどうすることもできないことなので、ブラックバゴがレースでスムーズに走れることを祈るのみです。
まとめ
ステファノスもタンタアレグリアも休み明け初戦。さらに前者は有名な「叩き良化型」とあっては、波乱が起きても驚けないメンバーとなった今年のオールカマー。才女のルージュバックは大外枠を引くか逃げの手に出ないかぎりはノーチャンスでしょうし、そもそもコーナーの緩いコースでないと好走できないタイプだけに、上位人気はどれも不安が先立ちます。
ブラックバゴにとっては、コースや馬場などぴったりの条件が揃った1戦となり、残るは自身のもつ激しい気性と鞍上の内田騎手との戦いとなるでしょう。しなやかに捲れるバゴ産駒の重賞初制覇がなるのか、オールカマーはブラックバゴの走りに注目です。