GⅡセントライト記念('17年)は「雨が止んでカラリと晴れたら高速馬場」へと変化したレースにーー回顧

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9月18日(月・祝)、JRAの3日間開催の最終日に行われた菊花賞トライアル・GⅡ朝日セントライト記念(中山芝2200m)は、皐月賞馬アルアインが直線で抜け出して先頭に立ったところを、外から迫ったミッキースワローが差し切って1着。2着と3着に池江寿厩舎の2頭、アルアインとサトノクロニクルが入り、ノーザンファーム生産馬の1-2-3となりました。勝ちタイムは2分12秒7(良)。

 

中山競馬場はカラリと晴れ、あっという間に馬場が回復

17日(日)の中山競馬場は雨の中でレースが行われ、馬場が「重」まで悪化。その後も台風18号の影響で関東地方は深夜まで雨が降り続きました。18日は朝からカラリと晴れていたとは言え、ここまで急速にかつ時計の速い馬場になるとは予想もできませんでしたね。

 

2014年の夏以降、中山競馬場は水はけが良い

中山競馬場は2014年の馬場改修時に暗渠排水管を設置し、それ以降は水はけが格段に良くなりました。今春、中山開催の最終日に行われた皐月賞が、前の週に重馬場まで悪化したにもかかわらず、レースレコードの出る馬場だったのは記憶に新しいところです。

雨が降って乾き始めるとかなり時計が速くなるのが今の馬場の特徴。興味深いのは、馬場が乾くと雨が降る前よりも時計がやや速くなってしまうこと。これは、排水性が良すぎるあまり、想定以上に乾いてしまうからでしょうか……。ひとつだけ確かなのは、雨が降るなかでレースが行われないかぎり重馬場まで悪化することはなく、日差しが出ればあっという間に馬場が乾くということです。

 

セントライト記念の上り3Fは34.0

セントライト記念の後半1000mのレースラップは12.1 - 12.0 - 11.7 - 11.3 - 11.0とゴールに向かって加速していくラップになりました。勝ち馬のミッキースワローはこれを上り33.4の鋭さで差し切り勝ち。前半のペースが遅かったとは言え、ここまで瞬発力勝負になるとは……。5Fから12秒前半にペースが上がってもこの上りですから、時計がかかって浮上するようなタイプの馬には苦しい馬場でしたね。

 

アルアインのセントライト記念と菊花賞

アルアインは好スタートから道中5番手の外目のポジションを取り、ゆったりとした前半のペースにもかかわらず馬群が詰まることもなかったので、この時点で馬券圏内はほぼ確定的。レースのペースが上がっても手応え十分に4コーナーを回り、直線で先頭に立ったもののキレる脚をもっていたミッキースワローに差し切られての2着。

菊花賞の前哨戦ですから、折り合いに注意することと、タメたときにどこまでキレる脚を使えるのかを探るレースとしてはほぼ満点の内容。今走は次走に向けていかにダメージを残さないかが重要だったので、その点も無事にクリアしました。

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菊花賞に向けてのアルアインは?

一夏を越したアルアインは馬体も一回り成長。コロンと丸い体型に変化しているわけではないので、3歳のこの時期であれば3000mという距離も心配はいらないでしょう。セントライト記念の敗戦でわかったことは、走りの「最高速度」がそこまで速くはなく、11秒台のラップを長く刻めるのがこの馬の長所だということです。

京都の外回りコースは3コーナーからの下り坂をいかにロスなく走れるかがポイント(人間もそうですが、下りを走るときは平地よりもスタミナをロスしやすい)となります。天皇賞・春で母父サクラバクシンオーのキタサンブラックが父ハーツクライのシュヴァルグランを下り坂で引き離したように、下り坂の優劣が勝利に直結します。

アルアインは京都の下り坂をスムーズに走るような血を母系には引かないため、勝つためには3コーナー手前の上り坂でペースを引き上げるしかないでしょう。ただ、それをルメール騎手がするとは思えず……。ダメージを少なく菊花賞に向かえるだけに、アルアインが本質的に京都向きではないというのは少しだけ悲しいですね。

 

ミッキースワローについて

ミッキースワローは道中でアルアインをぴったりとマークし、4コーナーからスムーズに外へ出すと高い瞬発力を発揮しての勝利。嬉しい重賞初制覇となりました。

春には京都新聞杯5着とダービーに出走することはできませんでしたが、ここで皐月賞馬を撃破したのは、今後に向けて大きな勝利だったと言えます。セントライト記念はスローからの上り勝負になり、後半の1000mは速い脚を問われる流れ。かなり速い時計の出る馬場だったことを考えると、ミッキースワローが一夏を越してパワーアップしたから好走できたのかはまだ「?」がつき、レースの評価は難しいですね……。

 

菊花賞に向けて

サトノダイヤモンドの勝った昨年の菊花賞のように、スローから残り1000mでペースアップするような流れになるのであれば、ミッキースワローにもチャンスはあるのかもしれませんが……。この馬の母系に引くジャングルポケット(トニービン直仔)はむしろ上る力に優れた種牡馬ですし、坂をしなやかに下る血がミッキースワローには見当たりません。アルアインと同じく、この点は本番に向けてマイナスになりますね。

ただ、春のクラシック路線を走っていた馬のなかで「下り坂はドンと来い!」というタイプがいないので、それならミッキースワローでも……とも。

 

3着サトノクロニクルと4着スティッフェリオ

4コーナー手前でインからポジションを押し上げて直線に向いたサトノクロニクルが3着に入り、優先出走権を獲得しました。この勝負所で馬を動かすのは「さすがミルコ!」と思わせる手綱さばきで、サトノクロニクルの「コーナーで置かれてしまう」という弱点をしっかりと補う好騎乗。この馬としては上りが速すぎたために3着まで追い上げるのがやっと。下り坂の待ち受ける菊花賞で今回よりもパフォーマンスが上がるかは疑問ではあります。

4着のスティッフェリオは2番手で先行する形をとり、4コーナーも抜群の手応えで回ってきましたが……現時点では鋭さ負けをしてしまいました。京都の下り坂は合うタイプだっただけに、権利が取れなかったのは残念……。この馬は高い能力を感じさせるしなやかな走りが最大の武器。まだまだ成長するでしょうから今後が楽しみになりましたね。

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クリンチャーについて

クリンチャーは揉まれ弱い+速い脚を欠く馬なので、押しても押してもポジションが取れなかったのはいかにも父ディープスカイらしいズブさ……。とにかくスタミナが豊富な馬なので、ダートの中距離を試すと面白いもしれませんね。もう少し全体のペースを引き上げないことにはこの馬の良さが出ず、後半1000mをどんどん加速していくような流れだとスピード負けしてしまいます。

速い脚を求められる菊花賞は合わないタイプで、坂を下る力も並ですから、スタミナ豊富とは言え淀の3000mはこの馬の適性には合っていません。活路を見出すとすれば、3コーナー手前の上り坂で後続を引き離すような、天皇賞・春のビートブラックやイングランディーレの逃げ切りを再現できるのなら可能性もなくはありませんが……。

 

◎ストロングレヴィルは10着

これだけ馬場が乾いてしまうと、キャサリーンパー牝系のストロングレヴィルには苦しいレースになりました。良馬場どころか高速馬場になっていたので、現状ではどうやっても好走するのは難しかったですね。

ただ、走るフォームや馬体は少しずつ良化してきています。この牝系は総じて完成は遅めですから、それを考えると来年あたりにポンポンと条件戦を連勝するかもしれません。馬体がパンとして今よりもレースで前目のポジションを取れるようになったら、いよいよ本格化。それまで、じっくり待ちましょう!

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ノーザンファーム生産馬が1〜3着を独占

セントライト記念はローズSよりもノーザンファーム生産馬の活躍が少ないレースでしたが、今年は1〜3着を独占しました。3頭出しでの1-2-3ですから、見事と言うほかありません……。

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まとめ

秋の中山はここ2年、開催1ヶ月前のエアレーション作業によってやや時計のかかるコンディションでレースが行われていました。今年の京成杯AHで1分31秒6の時計が出ているように、春の開催に続いて高速な馬場になりつつあります。この傾向が続くようだと開催最終日のスプリンターズSは1分6秒台の決着になっても驚けません。

また、ディープインパクト産駒が活躍できる馬場とも言え、来週からしっかりとケアをしておきたいところです。今の中山競馬場は「雨が止んでカラリと晴れたら高速馬場」というのがデフォルトで、これは雨量には関係ないことがはっきりとしました。今後に活かすためにも、覚えておいて損はありません。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。