牡馬クラシック最後の1冠「菊花賞(京都芝3000m)」の枠順が10月19日(木)に確定し、皐月賞馬のアルアインは8枠16番、神戸新聞杯2着の夏の上がり馬キセキは7枠13番、セントライト記念を制したミッキースワローは6枠12番に入り、上位人気の3頭が揃って真ん中よりも外枠からのスタートとなりました。
10月15日(日)、重馬場でレースが行われた秋華賞から京都競馬場はグズついた天気が続き、今週末も雨の予報が出ています。馬場の回復はほぼ見込みがなく、菊花賞も「重〜不良」でのレースとなりそうです。今年は重馬場+人気各馬が外枠からのスタートと波乱の目も十分に考えられます。
菊花賞が重馬場になると?
近年の菊花賞は高速馬場+インコース有利が顕著で、スタミナを問われる持続戦になることはまずありません。そのため、オルフェーヴルやゴールドシップ、エピファネイア(✴︎)など能力の傑出した馬が出走していない年は、好位〜中団のインのポジションにおさまった馬に有利なのがデフォルトです。
2015年のキタサンブラックや14年のトーホウジャッカルは3〜4コーナーの下り坂をインでロスなく立ち回った馬でした。内枠が有利なのは高速馬場で外差しが利きにくく、ロングスパートの持続戦にならないから。ゴールドシップの勝った2015年の天皇賞・春(GⅠ・京都芝3200m)のように、13秒台の区間(1F=200m)がひとつもないラップでレースが進む持続戦になれば差しも決まるのですが……。
〔✴︎エピファネイアの勝った2013年の菊花賞は「不良」馬場で行われました。この年は皐月賞馬のロゴタイプとダービー馬のキズナが不出走だったこともあり、エピファネイア1強のレース。2着には古馬になってから重賞を4勝したサトノノブレスが入り、実力のある馬のワンツーという結果。2頭の実力が抜けていたため、馬場状態による波乱はありませんでした〕
重馬場になるとスタミナを問われるレースに?
芝が重くなると自然と時計もかかり、よりスタミナをロスします。馬場を気にしながら走ることは競走馬の体力だけではなく集中力も削がれ、全体としてタフなレースになるのです。重い芝でのレースは、体力をロスしないパワーとゴール板まで一定のスピードを保つスタミナのある馬が有利。今年の菊花賞は3〜4コーナーの下り坂をロスなく走り、前脚をしっかりとかき込むフォームのスタミナに優れた馬が、直線でグイグイと伸びてくるシーンも十分に描けます。
逃げ・先行馬が有利に?
馬場が重くなると、競走馬の走るたびに芝が掘れて泥が跳ね上がります。「キックバック」によって後ろに跳ね上がる芝や泥は、馬によって集中力を削がれる原因ともなるため、ストレスを受けにくい逃げ・先行馬はその分だけ有利になります。
もともと長距離戦はペースを作れる馬に有利なレースですし、重馬場で上りがかかれば後ろから差してくる馬には不利な状況。脚を取られるほどに重い芝だと、スタミナをロスしないように騎手の仕掛けの意識も遅くなるため、前々でレースを進めた馬が残ってしまうことは多分にあるのです。
菊花賞の行われる京都芝外回りは、3〜4コーナーの下り坂でスピードに乗って直線に入り、その惰性を使って脚を伸ばす馬の好走が多いコースです。そのため、3〜4コーナーで息を入れたい逃げ馬は上手にペースメイクしないと残るのが難しいコースでもあります。逃げ馬を見ながら仕掛けられる先行馬にとっては、オルフェーヴルやゴールドシップのように3コーナー過ぎで後方から捲る馬がいなければ、絶好の展開になるでしょう。
今年の菊花賞はどの馬が逃げるのか?
「重〜不良」馬場でのレースとなる可能性の高い今年の菊花賞は、差し・追い込み馬に較べて逃げ・先行馬にアドバンテージがあります。出走馬18頭のなかで「逃げ」るのはどの馬でしょうか?
▼逃げ馬の候補
ウインガナドル
スティッフェリオ
クリンチャー
アダムバローズ
(1枠から順に記載しています)
「逃げ」て連対したことがあり、枠順としてハナを取りきれる可能性のある馬は上記の4頭。ダービーを逃げて4着と好走したマイスタイル8枠18番と大外枠に入ってしまったため、ハナを取りきるまでは苦しくなりました。
〔✴︎ここでの「逃げ」は1周目の4コーナーまでに先頭に立っていることを指します。ペースの緩む1周目のホームストレッチでハナを奪うような逃げはのぞいて考えます〕
ウインガナドルとアダムバローズの逃げ争い
スタートで後手を踏むことがなければ、ウインガナドルとアダムバローズの逃げ争いが濃厚。どちらも「逃げ」て力を発揮するタイプで、後者はペースの速かったGⅠ皐月賞でも押して押してハナを主張しました。ウインガナドルが少しでも後手を踏めば、アッサリとアダムバローズがハナに立つでしょう。1周目の3コーナーまでにハナ争いに決着がつかないと2頭が後続を引き離し、隊列が縦長になることも考えられます。
クリンチャーとスティッフェリオは?
クリンチャーはスタートダッシュと二の脚が速いタイプではなく、ウインガナドルやアダムバローズを制しての逃げは難しく……。クリンチャーは母系に揉まれ弱いAureoleの血を引くため、外からジワっと先行していく形がベスト。この枠だと気象的なもろさを出してダービーのように馬群に包まれてしまうレースになることも……。
スティッフェリオは未勝利戦を勝ち上がったときや2番手を楽々と追走した前走のセントライト記念を見ても、素軽い先行力のもち主。鞍上の松若風馬騎手はレースで積極的な「逃げ・先行」を見せることがあるので、ポンとスタートを切ったとしたら、逃げの手に出ることも考えられます。
どのような逃げになるのか?
ウインガナドルは父ステイゴールド×母父メジロマックイーンというオルフェーヴルやゴールドシップと同じ配合で、3〜4コーナーの下り坂をロスなく走れるタイプです。それに対して、アダムバローズはHaloとRed Godの器用さが受け継がれており、コーナーをロスなく走るのに適したタイプと言えます。
2頭ともに体力をロスすることなく1周目の3〜4コーナーを回れるはずで、ホームストレッチまでにどちらがハナに立っているのかは難しいところ……。アダムバローズの池添騎手がハナを強く主張すると、ウインガナドルが外の2番手に切り替え、2頭が後ろを離す展開になることも……。3番手のインにスティッフェリオとマイスタイル、その外にクリンチャーという並びでレースが進みます。
クリンチャーがどこで動くのか?
クリンチャー陣営はこの馬の持続力を活かすため、「ロングスパート戦」にもち込むことを示唆しています。逃げるアダムバローズとウインガナドルの2頭が1周目の1〜2コーナーにかけてペースを落とし、2周目の向正面で13秒台のラップを連続するような流れを作ると、クリンチャーが外からプレッシャーをかけるために動くことも。
2頭が大きく後続を離しているようだと、ペースをかなり落としても3番手以下の馬との差は縮まらず、外からクリンチャーにプレッシャーをかけられる可能性は低くなりますが、もし、後続を引きつけるような逃げだと3コーナー手前の上り坂で捲られてしまうかもしれません。
クリンチャーは父ディープスカイ×母父ブライアンズタイム×母母父Danzigですから、下り坂でスムーズにペースアップするよりも、上り坂をパワーで駆け上がるのに優れた配合をしています。そのため、ペースの緩む3コーナー手前の上り坂で外から先頭に立つ競馬をしないとノーチャンス。下り坂ではアダムバローズやウインガナドルの器用さに負けてしまうので、ここが今年の菊花賞の最大のポイントになるでしょう。
クリンチャーが3コーナー手前の上り坂でスパートするなら
可能性は低いものの、もしクリンチャーが3コーナー手前の上り坂でスパートをするようだと、スタミナに優れた長距離馬が直線で差せる質のレースになります。先にも述べた2015年の天皇賞・春でステイヤーのフェイムゲームが差して2着に入線したロングスパート戦になる可能性も十分です。
藤岡祐介騎手がクリンチャーのスタミナを信じて、下り坂ではなく上り坂でスパートすることができるのなら、ステイヤーの好走できる菊花賞になりますが、どうでしょうかね……。大逃げをしている馬がいる場合は、離れた2・3番手以下のグループはスローになっていることがままあるため、藤岡祐介騎手が積極策を取るのかは微妙……。
ステイヤーが菊花賞を好走するには3コーナーの上り坂からスパート
菊花賞は3〜4コーナーの下り坂で少しずつスピードに乗り、その惰性で直線を伸びるのが好走のセオリーです。ただ、近年の高速馬場で行われる菊花賞だと、その地点からのスパートではステイヤーとしてのスタミナを問われるレースにはなりません。
フェイムゲームなどのコテコテのステイヤーが京都の外回りコースで好走するためには、3コーナー手前の上り坂でペースを引き上げ、中距離馬たちの脚を削がなければなりません。でも、そのような積極的な騎乗ができる騎手がいるのかどうか……。
もっともレースを動かせるのはパワーとスタミナに優れたクリンチャーですが、馬群に揉まれて動くに動けないシーンも十分に描けるだけにイマイチ信用しきれませんしね。マイネルヴンシュの柴田大騎手は「もしかしたら、ロングスパート……」と期待をかけられるものの、今年の七夕賞でマルターズアポジーを競り落としたマイネルフロストのような積極的なレースをしてくれるかは不透明ですし。
重馬場になって中距離馬たちのスタミナが削がれ、スッーと3〜4コーナーの下り坂をロスなく回ってきた馬がそのまま粘り込んでしまう、今年はそんな菊花賞になるかもしれませんね。
馬体重さえ減らなければスティッフェリオも好走できる?
内枠に入った先行馬のなかで、ウインガナドルとアダムバローズと同じくらい下り坂をロスなく走れる配合とフォームなのは松若風馬騎手の乗るスティッフェリオ。この好素質馬については過去に詳しく記事を書いているので、よければそちらをご覧下さい。
スティッフェリオはしなやかで美しいフォームと魅力的な血統をもつ好素質馬ーーセントライト記念の展望 - ずんどば競馬
スティッフェリオの不安点は3つあって、1つは未勝利を勝ち上がってから馬体重が減り続けていること、2つ目は長距離GⅠで松若騎手がソツなく乗ることができるのか、3つ目は音無厩舎は坂路調教が主体のため菊花賞を走りきるスタミナが付いているのかどうか……。もっとも心配なのは馬体重で、440kg台後半くらいまで戻っていればベター。松若騎手がインにこだわるレースさえできればチャンスもありそうです。
まとめ
重馬場+逃げ馬2頭がペースを引っ張れば、もしかしたら今年はステイヤーの活躍できる菊花賞が観られる可能性があります。クリンチャーが2周目3コーナーの上り坂でスパートすれば、「ウソー!」と声を上げたくなる人気薄のステイヤーが2着に飛び込んで来たり……。
菊花賞がどのようなペースになるのかが今から楽しみですね。
▼菊花賞の予想
GⅠ菊花賞(2017年)は重〜不良馬場の適性と下り坂をロスなく走れる◎トリコロールブルーに期待してーー予想 - ずんどば競馬
以上、お読みいただきありがとうございました。