第62回有馬記念はキタサンブラックのラストランに注目が集まります。2016、17年と古馬中長距離路線を引っ張った「現役最強馬」は最後にどのようなパフォーマンスでファンを湧かせるのでしょうか?
GⅠ6勝、獲得賞金歴代2位と「一流馬」に恥じない実績を残したキタサンブラック。2016、17年の古馬中距離路線を引っ張ったのは間違いなくこの馬でした。
不運の名馬
キタサンブラックは前走のジャパンカップまで19戦を走り、(11 - 2 - 4 - 2)の素晴らしい成績を上げています。着外に敗れたのがダービーの14着と宝塚記念の9着のみという安定感も「名馬」と呼ぶのにふさわしいものでしょう。
「そして、みんなの愛馬になった」
WINSや競馬場に貼られるJRAのポスター「ヒーロー列伝」に登場したキタサンブラックのキャッチコピーは、「そして、みんなの愛馬になった」というもの。多くのファンを惹きつけ、愛されているキタサンブラックにぴったりの名文句と言えます。
3歳時にクラシック3冠を完走し、古馬になってからも怪我などによる大きな休みもなくレースを走り続け、GⅠ6勝+獲得賞金歴代2位の実績を積み上げました。4歳の秋からは1人気に推されることも多くなり、そのなかで安定した成績を上げたからこそ、多くのファンに愛される馬となったのでしょう。
ライバルに恵まれなかった
現5歳の牡馬はキタサンブラック、ドゥラメンテ、サトノクラウン、シュヴァルグラン、リアルスティールなどの活躍馬を出しているハイレベル世代。今年の古馬中長距離GⅠは牝馬限定のエリザベス女王杯をのぞき、すべてのレースを5歳馬が制しています。
この世代でしのぎを削り、GⅠを6勝したのですからキタサンブラックは間違いなく名馬。ただ、ドゥラメンテが4歳の夏に引退したこと、サトノクラウンやシュヴァルグランが本格化したのが今年だったことから、「ライバル」と呼べる存在が少なかったのもまた事実です。
歴史的な名勝負
昨年の有馬記念でのサトノダイヤモンドとの叩き合い、レコードを更新した天皇賞・春、歴史的な不良馬場となった天皇賞・秋の死力を尽くした走り……。これまで名勝負に恵まれなかったキタサンブラックは、昨年末から今年にかけて素晴らしいレースを繰り返しました。
古馬の王道路線を走り続けることで、いつしかライバルと呼べる存在の馬たちが現れ、多くの名勝負が生まれました。そして、ラストランとなる有馬記念も……今からレースが楽しみになりますね。
叩き3戦目の呪縛から逃れられるのか?
有馬記念は一大イベントとあって、キタサンブラックについても多くのメディアが取り上げています。そして、もっとも注目を集めているのは、この馬が休み明け3戦目(叩き3戦目)でパフォーマンスを落とすというものです。
▼3歳秋以降の叩き3戦目の成績
2015年
有馬記念:3着
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2016年
宝塚記念:3着
有馬記念:2着
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2017年
宝塚記念:9着
有馬記念:?
菊花賞を勝ったキタサンブラックは3歳時に有馬記念に挑戦し、4歳以降は中長距離の王道路線を歩みました。そのため、夏と冬のグランプリが叩き3戦目に当たるのです。
パフォーマンスが落ちるとは言え、着外に敗れたのは今年の宝塚記念だけで、それ以外はしっかりと馬券圏内に好走しています。問題になるのは、本当に「叩き3戦目だから」1着を取れないのかどうかです。
キタサンブラックは小回り・内回りが苦手
キタサンブラックはここまでGⅠを6勝し、その内の5勝は直線の長いコースでのもの。
▼キタサンブラックのGⅠ成績
2015年
皐月賞:3着
ダービー:14着
菊花賞:1着
有馬記念:3着
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2016年
天皇賞・春:1着
宝塚記念:3着
ジャパンカップ:1着
有馬記念:2着
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2017年
大阪杯:1着
天皇賞・春:1着
宝塚記念:9着
天皇賞・秋:1着
ジャパンカップ:3着
このなかで、直線の短い小回り・内回りコースで行われたのは、皐月賞(中山芝2000m)、有馬記念(中山芝2500m)と宝塚記念(阪神芝2200m)、大阪杯(阪神芝2000m)の4レース。その成績は(1 - 1 - 3 - 1)ですから、直線の長いコースの(5 - 0 - 1 - 1)よりもパフォーマンスが落ちています。
キタサンブラックは先行という脚質から、中山などの小回りコースを得意としているイメージをもつかもしれませんが、ストライドが伸びる走りなので本質的には直線の長いコースがベスト。前目のポジションを取れる分だけ、小回り・内回りコースにも対応しているだけで、パフォーマンスは落ちてしまいます。
グランプリは小回り・内回りコース
JRAには1年の上半期と下半期の総決算となる「グランプリ」と呼ばれるレースがあります。1つは宝塚記念でもう1つは有馬記念です。この2レースともに直線の短いコースで行われるため、パワーに優れたピッチ走法の馬が優勢。
グラスワンダーやドリームジャーニーなど、「グランプリになると強さを発揮する」馬が時折出てくるのは、このコースにずんどばな適性をもっているからだと言えるでしょう。
キタサンブラックは東京>中山、外回り>内回りの適性なので、3〜4コーナーで器用にスピードを上げられる馬に敗れてしまうこともままあります。叩き3戦目で疲労が溜まってしまうことだけではなく、そもそもコースが合っていないので、有馬記念や宝塚記念で成績が落ちるのです。
ケアは十分にされている
キタサンブラックは有馬記念に3年連続での出走。叩き3戦目で成績が低下することは陣営も重々わかっていることですから、いかに疲労を残さずに有馬記念に出走できるのかをテーマとして、天皇賞・秋→ジャパンカップを戦ってきています。
考えられるケアは十分にした上でレースに臨むはずで、それでも疲労が残っていたのだとしたら、もう避けようがないこととしか……。有馬記念がラストランになることがわかった上での調整ですから、体調面での不安はそれほど大きくはありません。
気性的な問題
3戦目で成績が落ちる理由として考えられるのは、「疲労残り」ともう1つは「気性的な問題」です。武豊騎手や清水久嗣調教師が敗因を特定できないと語った今夏の宝塚記念9着は、「走る気持ち」が欠けていたこともあるでしょう。
レースに続けて使われていないフレッシュな状態だと好走する競走馬もいます。厩舎で調整し続けると精神的に「落ち着きすぎてしまう」馬もいますから、前向きな気持ちをもってレースに臨めるのかは大切です。
とは言え、気性的なことについては「走ってみないとわからない」もの。宝塚記念でも敗因を特定できなかったように、競走馬のエキスパートである騎手や調教師でもわからないのですから、その点は考えても仕方のないことだと言えます。
有馬記念に向けて
古馬の中長距離路線を引っ張った名馬ですから、その競走能力を今更どうこう言う必要はないでしょう。叩き3戦目についても、過去の敗戦から学んだものを陣営がしっかりと活かす調整をしていることは間違いありません。
中山芝2500mはこの馬のベストではないコースですから、主戦の武豊騎手がどのような騎乗をするのかに注目です。できれば、大阪杯のようにコースロスを覚悟してコーナーでストライドを伸ばすのがベストで、スタミナをふり絞るレースにもち込めるのかが鍵になります。
ジャパンカップの逃げが布石となる
前走のジャパンカップ3着はあまりにも「キレイ」なラップで逃げたため、最後に苦しくなったところをシュヴァルグランとレイデオロに交わされてしまいました。この積極的な逃げは、有馬記念に向けて大きな意味をもっています。
ジャパンカップの回顧でも書きましたが、このレースにおけるキタサンブラックの逃げは、後続が直線まで仕掛けを待たざるを得ない絶妙なもの。そのため、この馬が有馬記念で逃げるなら、今度は武豊騎手の思い通りのペースでレースを運べます。これは他馬に対して大きなアドバンテージと言えるでしょう。
まとめ
競馬ファンの多くから愛され、一時代を築いた名優キタサンブラックのラストラン。現役最強馬と名馬であることを証明するためのレースが、12月24日(日)にスタートを切ります。