8月27日(日) 、新潟競馬場のメインレースは年末、そして来年のGⅠを展望したい馬たちが顔を揃える「GⅢ新潟2歳ステークス(新潟芝1600m外回り)」。ジャスタウェイ、ハープスター、イスラボニータなど後のGⅠ馬が出走していて、今後を占う意味でも注目度の高いレースです。
新潟外回りの1600m戦とあって、近年は「どれだけ速い脚が使えるのか?」を競う側面が強く、長い直線を「バキューン」と弾ける馬に有利なコースです。これまで新潟2歳Sで「上り32秒台」で駆け抜けた馬は7頭いて、この内GⅠ馬は3頭。仕上がりの早さや完成度だけでなく「素質」も問われるレースと言えます。
しなやかな「キレ」かマイラーとしての「スピード」か
新潟2歳Sはジャスタウェイやハープスター、イスラボニータなどが「バキューン」と弾ける脚と素質で好走するレースになることもあれば、シンメイフジやロードクエストなどしなやかな「キレ」を武器に好走する馬も、モンストールのように1400m寄りのスピードとパワーで好走する馬も出るレースです。
計6頭の馬が新潟2歳SからGⅠ馬へと上り詰めています。以下の表に上げた馬たちのように「素質」でここをぶっこ抜くこともあるので、「ハープスター級」の馬が出走しているかどうかをまずチェックしましょう。
▼新潟2歳Sを好走したGⅠ馬
年 | 着順 | 人気 | 馬 名 | 上り | GⅠ勝ち |
2004 | 1 | 1 | マイネルレコルト | 33.3 | 朝日杯FS |
2 | 3 | ショウナンパントル | 33.5 | 阪神JF | |
2008 | 1 | 1 | セイウンワンダー | 34.4 | 朝日杯FS |
2011 | 2 | 1 | ジャスタウェイ | 32.6 | 天皇賞秋・安田記念 |
2013 | 1 | 1 | ハープスター | 32.5 | 桜花賞 |
2 | 4 | イスラボニータ | 32.7 | 皐月賞 |
外回り向きの「キレ」かマイラー・タイプのスピードか
素質だけでぶっこ抜いてしまう「大物」の出走がなければ、新潟2歳Sは外回りをしなやかな「キレ」で追い込むか、マイラーのスピードで抜け出すかの2パターンでの決着。
新潟2歳Sで上り32秒台を使った馬たちを例に、上記の2パターンについて解説します。
▼新潟2歳Sで上り32秒台を使った馬
年 | 着順 | 人気 | 馬 名 | 上り | 通過順位 |
2009 | 1 | 1 | シンメイフジ | 32.9 | 18 - 18 |
2011 | 1 | 4 | モンストール | 32.7 | 9 - 9 |
2 | 1 | ジャスタウェイ | 32.6 | 11 - 12 | |
2013 | 1 | 1 | ハープスター | 32.5 | 18 - 18 |
2 | 4 | イスラボニータ | 32.7 | 12 - 13 | |
2015 | 1 | 1 | ロードクエスト | 32.8 | 18 - 17 |
2016 | 2 | 6 | オーバースペック | 32.9 | 15 - 14 |
'09年のシンメイフジはフジキセキ産駒の牝馬で、道中18番手から「メリハリ」の効いた追い込みで、しなやかにキレました。新潟2歳Sは追い込みでの決着が多いという印象は、この'09年と'08年セイウンワンダーの大外一気によるものでしょう。
'11年のモンストールは父アドマイヤマックス×母父デヒアのマイラーで、スピードと完成度の高さで押し切り勝ち。ゴール前で1800〜2000mがベストのジャスタウェイが詰め寄ったものの捕らえられなかったのは、この2頭の距離適性の差でしょう。ジャスタウェイのしなやかなキレも、ドンピシャのタイミングで抜け出したマイラーに追いつけませんでした。
'13年のハープスターとイスラボニータは「ここではモノが違う」というワンツー。2頭ともにバキューンと弾ける脚で他馬を寄せ付けませんでした。
'15年のロードクエストはマツリダゴッホ産駒らしからぬしなやかなキレで重賞勝ち。インを避けた各馬が直線で外へ進路を取るところを、1頭だけ馬場の真ん中よりもやや内を通って差し切りました。この時点では「素質が上」という勝ちっぷり。
'16年のオーバースペックはプリサイスエンド産駒らしい外回り向きのしなやかなキレで32.9の上り。どスローな流れを後方から一気に追い込みました。
スピード型のマイラーが好走したレースは?
上記の例を見ても、どうしても「キレ」が優先される新潟2歳Sですが、スピード型のマイラーが抜け出して好走することもあります。
'14年3着のニシノラッシュ、'13年3着のピークトラム、'12年2着のノウレッジと3着のサウンドリアーナ、'09年3着のクロフォードなど「好走しても勝ち切れない」のがこのタイプの特徴です。ただ、しなやかなキレだけをマークしていると、このタイプがスルッと2、3着に入ってくることもあるので、注意しましょう。
今年の出走馬のなかで「しなやかなキレ」を探すと……
今年の出走予定馬のなかで、レースでの走りと血統から「しなやかなキレ」がありそうな馬をピックアップしてみます。
トッカータ 2歳牡馬
父:ブラックタイド
母:ペルセクション(母父:インヴァソール)
厩舎:和田雄二(美浦)
福島の芝1800mの新馬戦と未勝利戦を2着→1着と好走し、この新潟2歳Sに出走します。この2戦の走破時計と上り3Fが平凡なため、多くの人がこの馬にスパッとキレる印象をもたないかもしれません。新馬戦と未勝利戦のレース映像を観ても、仕掛けられてからのグイッとしなるようなフォームは素質を感じさせるもの。新潟の外回りのマイルでどれだけ「しなやかなキレ」を発揮できるのかに注目の1頭です。
血統
ブラックタイドは現役最強馬キタサンブラックを出したように、産駒にはパワーとスタミナ、そして粘り強い持続力を伝えます。これは全弟のディープインパクトがしなやかさと瞬発力を産駒に伝えるのとは対照的で、ブラックタイドはその父サンデーサイレンスというよりも母ウインドインハーヘアのスタミナとパワーがより伝わっているからだと考えられます。ただ、キタサンブラックのようにしなやかなストライドで走る馬も出しており、配合によってはキレるタイプを出しても不思議ではありません。
トッカータの母ペルセクションはウルグアイの名馬インヴァソールを父にもち、母系は名牝オーソーシャープにさかのぼる牝系。そこにNureyev、Woodmanという名血名種牡馬が代々重ねられ、現代の競馬に必要な血がぎゅっと詰まっています。
BCクラシック、ドバイワールドカップなどを制したインヴァソールの父Candy Stripsは日本のGⅠ馬バブルガムフェローの半弟で、母父としてペルーサやピオネロ、クルミナルなどの活躍馬を輩出。インソヴァール自身は種牡馬として活躍馬を出していませんが、南米の傍流血統ということもあって、母系に入って活力を与えるには十分です。
インヴァソールの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
トッカータはLyphardのクロスとBlushing Groom(Red God直仔)が桜花賞2着、オークス3着のクルミナルと似ていて、母系にBlushing GroomとMr. ProspectorとNureyevを併せもつのはヴィルシーナ・ヴィブロス姉妹(父ディープインパクト)と同じ。母はディープインパクトと好相性の血ばかりが集められていることから、ブラックタイドに替わってもしなやかなキレを伝えるのは納得です。
トッカータの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
クルミナルの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
ヴィルシーナの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
ヴィブロスの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
新潟2歳Sに向けて
新馬は中団から、未勝利戦は好位からレースを進め、仕掛けられるといくらかズブさを見せたものの、ギアが上がってからはしなやかにキレました。
新潟2歳Sはゴールまで残り400〜200mの区間が10秒台に入るので、この地点で最速の時計を出せるようにギアをスムーズに上げられるなら、しなやかなキレでバキューンと差し切っても……と期待がもてます。前走の未勝利戦でかかるのをおそれずに騎手が好位で我慢させた経験がここで活きるはずです。
トッカータが父ブラックタイド「らしくない」キレをこのレースで発揮することができるのかに注目しましょう。
以上、お読みいただきありがとうございました。