2017年JRAのクライマックスを飾るのは「第62回有馬記念」。R・ムーア騎手が手綱を取ることでも注目を集めるサトノクラウンは、レースへの出否について慎重な姿勢を崩さなかった堀宣行調教師が出走へのゴーサインを出しました。
ロングスパート戦になりさえすれば、日本でも香港でも強靭な能力を発揮できる名中距離馬は、宝塚記念に続く「グランプリ連覇」を果たすことができるのでしょうか?
有馬記念と宝塚記念
ファン投票で出走が決まる有馬記念(中山芝2500m)と宝塚記念(阪神芝2200m)のグランプリは、以下の2つの点が共通するレースです。
1. 小回り・内回りコースを使用
2. 上・下半期(シーズン)の最終戦
短い直線+曲がりのきついコーナー+ゴール前に急坂のあるコースでレースが行われるため、器用さ(コーナーでの加速力・機動力)とパワーが求められます。また、シーズンの最終戦ということもあって、どれだけフレッシュな状態で出走できるのかもキーポイントとなるでしょう。
グランプリのコースが得意な馬
有馬記念と宝塚記念は似通ったコース形態のため、この舞台に適性のある馬が優勢なレースです。近年ではゴールドシップやオルフェーヴル、ドリームジャーニー、少し遡ればグランプリを3連覇したグラスワンダー(98年有馬記念→99年宝塚記念→99年有馬記念1着)などがこれに当たります。
ピッチ走法が有利
ドリームジャーニーとグラスワンダーの2頭がグランプリ・レースに強かったのは、小回り・内回りを俊敏に捲れるピッチ走法だから。この2頭が走ったレースを観れば、3〜4コーナーを回転の速い脚さばきでスムーズに加速していることがわかります。
直線が短く、コーナーの曲がりがキツイ小回り・内回りコースでは、全身を伸縮させてストライドを伸ばす(1完歩を大きくする)走りよりも、脚を速く回転させる走りがベターです。
サトノクラウンはコーナーが苦手?
サトノクラウンはストライドを伸ばして走るので、非ピッチ走法に分類されます。宝塚記念と同じ阪神内回りコースのGⅠ大阪杯を着外になっているように、この馬は鋭角な3〜4コーナーをスムーズに加速するのが苦手。
今夏の宝塚記念は、向正面からのロングスパート戦となったため、コーナーで加速する度合いが少なく、そこで他馬から置かれることなくスムーズに追走できたのが最大の勝因です。本質的には小回り・内回り向きではありません。
今年の有馬記念が3コーナーから追走のスピードがアップするレースになると、コーナー加速の苦手なサトノクラウン にとって苦しい展開になってしまうと言えるでしょう。
サトノクラウン 5歳牡馬
父:Marju
母:ジョコンダⅡ(母父:Rossini)
厩舎:堀宣行(美浦)
生産:ノーザンファーム
騎手:R・ムーア
R・ムーア騎手を背に、東京スポーツ杯2歳Sを上り33.8でしなやかに差し切ったときには、「この馬が来年のダービー馬になるのだろうな」と想像してワクワクしたものです。
2〜3歳春までの「しなやかさ」は古馬になってから少しずつ薄れ、それとともにこの馬がもっているスタミナが発現し、昨年の香港ヴァーズと今年の宝塚記念、2つの中距離GⅠを制するまでに成長しました。
現5歳は近年の最強世代
2歳新馬→東京スポーツ杯(GⅢ・東京芝1800m)→弥生賞(GⅡ・中山芝2000m)と3連勝して挑んだクラシック第1弾の皐月賞は1番人気に支持されながらも6着に敗退。このレースを勝利したのはサトノクラウンと同厩舎のドゥラメンテでした。皐月賞とダービーの2冠を制したドゥラメンテが同世代にいたことはこの馬にとってアンラッキーとしか言いようがありません。
さらに、2016年の年度代表馬に輝いたキタサンブラックがドゥラメンテに替わる強敵として、4歳時のサトノクラウンに立ちはだかりました。ドゥラメンテ、キタサンブラック、リアルスティール、アンビシャス、ミッキークイーン、ルージュバックなど現5歳は近年のなかで「最強世代」。サトノクラウンの初GⅠ制覇が「香港ヴァーズ」というのも、この世代の層の厚さを物語っています。
✳︎)今秋のジャパンカップは3歳レイデオロの挑戦が話題になりましたが、結果は5歳馬シュヴァルグランの勝利。この世代の層の厚さを示す結果となりました。
血統
全姉ライトニングパールは英GⅠチェヴァリーパークS(芝1200m)を勝ったスプリンター。同父Marjuをもつ姉と弟が異なるタイプとしてそれぞれに活躍したのは、それだけ母ジョコンダⅡの繁殖能力が優れていることの証です。
名繁殖牝馬ジョコンダⅡはMr. Prospector3×4とSir Ivor4×4としなやかさな血のクロスをもち、サトノクラウンが柔らかいフォームで走るのも納得。弟が姉よりも胴長の馬体の中距離馬に出たのは牡馬と牝馬の差と言えますし、ロングスパート戦に強さを発揮するこの馬の末脚はいかにも男性的。
サトノクラウン自身はNorthern Dancer4×5とBuckpasser5×5というクロスをもち、母系に引くしなやかさや潜在的なスタミナに加えて、このパワーの部分が古馬になって発現してきたと言えるでしょう。
ベストは東京芝2400m
「サトノクラウンのベストのコースは?」と訊ねられたら、すぐさま「東京芝2400m」と答えます。しなやかにストライドを伸ばせる直線の長いコースがベストなだけに、ジャパンカップの10着は陣営としてもショックな敗戦だったと想像できます。
ジャパンカップの敗因は?
ジャパンカップでの敗因はおもに以下の3つが上げられます。
1. 体調面が整っていなかった
2. 速い時計の出る馬場
3. キタサンブラックの巧みな逃げ
ジャパンカップ前の「追い切りが軽すぎる」と指摘されていたように、歴史的な不良馬場だった天皇賞・秋を好走した影響から、体調面が整っていませんでした。
また、「馬場の軽さ」とキタサンブラック+武豊騎手の巧みな逃げは、ロングスパート+上りのかかるレースにもち込みたいサトノクラウンにとって不向きな条件+展開となってしまいました。
有馬記念に向けて
コースや馬場やペースが不問のキタサンブラック(✳︎)と異なり、サトノクラウンは「自身の得意なゾーン」にもち込めればハイ・パフォーマンスを叩き出せる「ホームランバッター」のタイプ。得意のコースであっても凡走してしまうのは、この馬の強烈なキャラクターを表しています。
✳︎キタサンブラックも細かく言えば、コースやペースの得手と不得手はあるのですが……。これについては以下の記事をご覧下さい。
今夏の宝塚記念のようなコーナーでの加速力を問われないロングスパート戦になれば、小回りコースであっても好走は可能です。今年の有馬記念は1F11.7〜12.0のラップが残り1200mからゴールまで続く流れになるのかどうか……。
サトノクラウンの得意なゾーンにもち込むためには以下の条件が揃う必要があります。
得意なゾーンにもち込む条件
ロングスパート+上りのかかる展開にもち込むために必要な条件は以下の通りです。
1. 馬場が軽すぎないこと
2. 好スタートを切ること
3. 早目に好位を取り切ること
4. 向正面からペースを引き上げること
1〜4の条件はいずれも今夏の宝塚記念のレースに当てはまるもの。3については「マスト」ではないものの、中団からの競馬だと向正面からペースを引き上げるために動くことができないおそれがあります。
馬場の軽さに注目
これらの項目のなかで最も注目しなければならないのは「馬場の軽さ」です。近年の中山競馬場の芝コースは、開催前にエアレーション作業を行う影響によって、レースを重ねるにつれて時計が速くなる傾向が出ています。
今春の皐月賞で開催最終日にかかわらずレコードタイムが出たように、レースをすればするほど速い時計の出る馬場になるのが、今の中山芝コースです。上りのかかる展開が望ましいことから、時計の速い馬場はマイナス。
体調面について
サトノクラウンの今秋のローテーションは、天皇賞・秋→ジャパンカップの2戦。有馬記念については「状態を見てから判断する」とのことで、出走するのかは流動的でした。ただ、管理馬については慎重な姿勢を崩さない堀宣行調教師がゴーサインを出したことからも、「好走可能な状態」であると捉えるしかありません。
もともとサトノクラウンはフレッシュな状態だと好走するタイプですから、シーズン3戦目の疲労の蓄積は不安要素の1つ。そうは言っても、こればかりは走ってみないとわからないので、堀調教師の手腕に期待しましょう。
まとめ
サトノクラウンは10〜12Fのレースでロングスパート戦になれば、キタサンブラックやハイランドリールを負かせる実力をもった馬。好走と凡走の差が激しいものの、展開がハマったときの素晴らしい走りは私たちの心を震わせます。
キタサンブラックと異なるタイプの素質馬が、有馬記念でどのような走りをするのか、今からドキがムネムネしますね。
以上、お読みいただきありがとうございました。