秋のGⅠ戦線は10月1日(日)、中山競馬場を舞台に行われるスプリンターズS(芝1200m)からスタート。スプリンターズSはJRAのなかでもっとも短い距離の芝GⅠとあって、スピード自慢の馬が集まる1戦です。近年は、2006年に創設されたサマースプリントシリーズを好走した馬と春のスプリントGⅠ高松宮記念を好走した馬とが顔を揃え、スプリンターNO.1の座をかけて争います。
今年は春の高松宮記念を制したセイウンコウセイ、スプリンターズS連覇を目指すレッドファルクス、2016年の高松宮記念勝ち馬ビッグアーサーなど実績のある馬が出走予定。それに対して、GⅡセントウルSを快勝したファインニードルや500万下から4連勝でGⅢ北九州記念を制したダイアナヘイローなど夏の上がり馬も虎視眈々と王座を狙います。
今年はどんな「68秒」のドラマが観られるのでしょうか?
ロードカナロアのいないスプリンターズS
2012、13年のスプリンターズSを連覇し、香港スプリントもぶっこ抜いた「世界のロードカナロア」がターフを去った後、スプリント路線は「王者不在」の状態が続いています。
ロードカナロアは父キングカメハメハ×母父Storm Catという配合で、サンデーサイレンスの血を引かない1400mベストのスプリンター。今年デビューしたロードカナロアの初年度産駒は、パワーよりも「しなやかさ」が目立つのが特徴です。ロードカナロア自身も母レディブラッサムの影響を受けてしなやかに走りましたが、2012と13年のスプリンターズSは前半3F32秒台のペースを楽々と先行するパワーももっていました。
ロードカナロアの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
ロードカナロアが競走馬登録を抹消(引退)してから中山芝1200mで行われたスプリンターズSは2回あり、2015年の前半3Fが34.1、16年の前半3Fが33.4とスプリントGⅠとしては「ヌルい」ペースになっています。ここ2年の勝ち馬ストレイトガールとレッドファルクスが香港スプリントで凡走したように、日本のスプリントのペースに慣れてしまうと、芝1200mをスピードとパワーでゴリゴリと押し切る香港競馬に対応できないのです。
1.0秒以上の前傾ラップになるかどうか
スプリンターズSの2015年勝ち馬ストレイトガールも、2016年勝ち馬レッドファルクスもベストの距離は1400mです。この2年は1.0秒以上の前傾ラップにはなっていません。つまり、スプリント戦としてはそれほどハイペースにとは言えないレースでした。以下は2015、16年のスプリンターズSの前後半3Fのラップを表したものです。
▼2015・16年スプリンターズSの前後半3Fのラップ
年 | 勝時計 | 着順 | 人気 | 馬 名 |
2016 | 1:07.6 | 1 | 3 | レッドファルクス |
2 | 2 | ミッキーアイル | ||
33.4 - 34.2 | 3 | 9 | ソルヴェイグ | |
2015 | 1:08.1 | 1 | 1 | ストレイトガール |
2 | 11 | サクラゴスペル | ||
34.1 - 34.0 | 3 | 9 | ウキヨノカゼ |
スプリンターズSのここ2年の1〜3着馬を見ても、1400〜1600mの重賞で活躍する馬がズラリと並び、1200mが専門と言えるようなピュアなスプリンターはいません。ミッキーアイルなどはマイルCSを制し、ウキヨノカゼは1800mの福島牝馬Sを勝ちました。前半3Fが遅ければ1400m以上の距離を得意とする馬が追走に苦労することが少なくなり、その分だけ脚がたまります。反対に、前半のペースが速くなればなるほど追走に脚を使ってしまい、1400mベストの馬は好走できないのです。
昨年の勝ちタイム1分7秒6を例にとって考えてみましょう。この年の前後半3Fのラップは33.4 - 34.2。もし、前半を33.0秒で入れば後半は34.6となります。これだと1.6秒の前傾ラップとなり、1400mベストの馬には苦しいレース。前半の入りがどのようなタイムになるのかはスプリンターズSを予想する上での入口です。
過去のスプリンターズSを振り返ってみると
新潟競馬場でレースが行われた2014年と不良馬場で行われた2007年のスプリンターズSをのぞき、2005年〜16年の10Rを以下の表にまとめました。
▼2005〜16年のスプリンターズSの1〜3着馬とレースラップ
年 | 勝時計 | 着順 | 人気 | 馬 名 |
2016 | 1:07.6 | 1 | 3 | レッドファルクス |
2 | 2 | ミッキーアイル | ||
33.4 - 34.2 | 3 | 9 | ソルヴェイグ | |
2015 | 1:08.1 | 1 | 1 | ストレイトガール |
2 | 11 | サクラゴスペル | ||
34.1 - 34.0 | 3 | 9 | ウキヨノカゼ | |
2013 | 1:07.2 | 1 | 1 | ロードカナロア |
2 | 2 | ハクサンムーン | ||
32.9 - 34.3 | 3 | 15 | マヤノリュウジン | |
2012 | 1:06.7 | 1 | 2 | ロードカナロア |
2 | 1 | カレンチャン | ||
32.7 - 34.0 | 3 | 9 | ドリームバレンチノ | |
2011 | 1:07.4 | 1 | 3 | カレンチャン |
2 | 9 | パドトロワ | ||
33.0 - 34.4 | 3 | 7 | エーシンヴァーゴウ | |
2010 | 1:07.4 | 1 | 10 | ウルトラファンタジー |
2 | 3 | キンシャサノキセキ | ||
33.3 - 34.1 | 3 | 7 | サンカルロ | |
2009 | 1:07.5 | 1 | 6 | ローレルゲレイロ |
2 | 2 | ビービーガルダン | ||
32.9 - 34.6 | 3 | 8 | カノヤザクラ | |
2008 | 1:08.0 | 1 | 1 | スリープレスナイト |
2 | 2 | キンシャサノキセキ | ||
33.6 - 34.4 | 3 | 6 | ビービーガルダン | |
2006 | 1:08.1 | 1 | 1 | テイクオーバーターゲット |
2 | 10 | メイショウボーラー | ||
33.6 - 35.3 | 3 | 16 | タガノバスティーユ | |
2005 | 1:07.3 | 1 | 1 | サイレントウィットネス |
2 | 2 | デュランダル | ||
32.9 - 34.4 | 3 | 3 | アドマイヤマックス |
上記の10Rのなかで、1.0秒以上の前傾ラップ(ハイペース)になったのは赤色でマークした6回。そのなかで33.0秒以下で前半を通過したのが5回ですから、ここがピュアスプリンターが活躍できるかどうかのポイントになります。
中山芝1200mは前半が速くなりやすいコース
中山芝1200mはスタートしてから500mほど2mの坂を下るコースレイアウト。そのため、前半3Fが自然と速くなりやすく、条件戦であっても33秒台の通過がままあります。スタートから下り坂の続くレイアウトは小倉の芝1200mと似ていますが、中山は直線に急な上り坂が待ち構えており、そこが異なる点です。
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スプリンターズSは前傾ラップになると先行有利
スプリンターズSは前半が33.0秒以下の速いペースになると、逃げ・先行が残りやすいレースです。むしろ、ペースが緩むと差し・追い込みが決まりやすいので、先行争いが激しい=差し決着とはならないのがスプリンターズSと言えます。
2012、13年のロードカナロアのように32秒台の前半であっても楽々と先行して抜け出すレースになるのか、それともここ2年のようにストレイトガールやレッドファルクスがビュンとキレる脚を使って差すレースになるのか……。
今年のスプリンド重賞で前半が32秒台になったのは?
今年のスプリント重賞で前半3Fが33.0秒を切ったのは2レースのみ。その2つは1分6秒8のレースレコードになったGⅢ函館スプリントSとダイアナヘイローが先行して押し切ったGⅢ北九州記念です。
▼函館スプリントS 函館芝1200m
勝時計 | 着順 | 人気 | 馬 名 | 通過順位 |
1:06.8 | 1 | 3 | ジューヌエコール | 6 - 5 |
2 | 4 | キングハート | 7 - 7 | |
32.2 - 34.6 | 3 | 7 | エポワス | 7 - 9 |
4 | 1 | セイウンコウセイ | 2 - 2 |
函館の洋芝で1分6秒台の決着になったのは、高速馬場でのレースだったこととダッシュ力のあるシュウジが前半を32.2のペースで飛ばしたことによるものです。このレースで2番手から4着に粘り込んだセイウンコウセイ自身のラップは32.4 - 34.9(=1:07.3)。セイウンコウセイがスプリンターズSをこのペースで先行できれば有力な1頭でしょう。
函館芝はレコードの叩き売り!ーー函館スプリントS回顧 - ずんどば競馬
▼北九州記念 小倉芝1200m
勝時計 | 着順 | 人気 | 馬 名 | 通過順位 |
1:07.5 | 1 | 3 | ダイアナヘイロー | 2 - 2 |
2 | 14 | ナリタスターワン | 7 - 4 | |
32.8 - 34.7 | 3 | 15 | ラインスピリッツ | 4 - 3 |
中山芝1200mと似たコースレイアウトのため、小倉で行われるスプリント重賞は前半3Fが33.0前後になるのがデフォルトです。今年も逃げたアクティブミノルの前半3Fの通過は32.8の前傾ラップでした。ダイアナヘイローは好スタートから2番手を追走しての押し切り勝ち。このペースを先行できるようならスプリンターズSでもチャンスがありそうですね。
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今年のスプリンターズSはシュウジがポイントに
函館スプリントSを前半3F32.2のダッシュ力で逃げたシュウジがスプリンターズSに出走予定。ここ2走は逃げても先行しても好結果が出ず、スプリンターズSではどのようなレースをするのか不透明です。もし、ムリに抑えることなくビュンビュンと飛ばすようなレースをするのであれば、ピュアスプリンターが活躍できる流れになります。
まずは、シュウジが逃げるのか控えるのか……がポイント。この馬の鞍上として想定されている横山典弘騎手は、馬を気分良く走らせることに関して「天才」的な技術とセンスのもち主です。どのようなレースをするのかはスタートをするまでわからないので、これからじっくり考えましょう。
まとめ
ピュアスプリンターか好走するのか、それともレッドファルクスのような1400mベストの馬が好走するのか……今年のスプリンターズSはどちらのペースになるのでしょうか?混戦模様と言われるスプリント戦線だけに、楽しみなレースになりますね。
以上、お読みいただきありがとうございました。
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