現3歳世代のハービンジャー産駒は「ゴールデン・エイジ」と呼べるほど活躍馬が出ています。皐月賞2着のペルシアンナイト、オークス2着のモズカッチャン、そして紫苑Sを制したディアドラが世代トップクラスの走りを披露。まだ産駒のGⅠ勝利が「0」のハービンジャーにとって、この3頭の走りは種牡馬としての価値を高めるものになりました。
今秋、牝馬クラシックのラスト1冠「GⅠ秋華賞(京都芝2000m内回り)」にハービンジャー産駒の2頭ディアドラとモズカッチャンが上位人気として出走します。「期待外れ」などと揶揄されることの多かった父へ、孝行娘のどちらかがGⅠ勝利をプレゼントできるのでしょうか?
今回の記事では、ルメール騎手を背に秋華賞に臨むディアドラについて考察します。
ハービンジャー産駒ディアドラの特徴は?
2017年10月9日終了時点におけるハービンジャー産駒の重賞勝ちは「6」を数えます。その内の3つがペルシアンナイトのGⅢアーリントンCとモズカッチャンのGⅡフローラS、ディアドラのGⅢ紫苑Sです。「ゴールデン・エイジ」と呼ばれる現3歳世代による重賞勝ちは、それまでのハービンジャー産駒のイメージを大きく変えるものでした。以下はこれまでのハービンジャー産駒による重賞勝ちをまとめた表です。
▼ハービンジャー産駒の重賞勝利
年 | 馬 名 | 重賞 | コース |
2015 | ベルーフ | GⅢ京成杯 | 中山芝2000m |
2015 | ドレッドノータス | GⅢラジオN杯京都2歳S | 京都芝2000m内回り |
2016 | プロフェット | GⅢ京成杯 | 中山芝2000m |
2017 | ペルシアンナイト | GⅢアーリントンC | 阪神芝1600m外回り |
2017 | モズカッチャン | GⅢフローラS | 東京芝2000m |
2017 | ディアドラ | GⅢ紫苑S | 中山芝1800m |
ペルシアンナイトとモズカッチャンの勝利した重賞は直線の長い「阪神外回り」と「東京」コースでのもの。それまでは小回り・内回りコースをパワーで捲る産駒が活躍していましたが、今年は直線の長いコースを重厚なストライドやしなやかなキレで勝ち切ったのが大きな変化です。
ハービンジャーは欧州を代表する名種牡馬デインヒル直仔のDansiliを父にもち、Northern Dancer4・6×5・4のクロスがうるさいコテコテの欧州血統。パワー優先で「日本の芝ではスピードと素軽さが足りない」と言われがちな血統構成だけに、時計の速い芝での瞬発力勝負に対応できたのは今後の種牡馬生活に大きなプラスをもたらすでしょう。
ディアドラはキレとパワーを兼備したハービンジャー産駒
ディアドラは桜花賞6着の後に臨んだ500万下の矢車賞(京都芝1800m外回り)で上り3F33秒台の鋭さで快勝し、オークスへと駒を進めました。直線の長い東京コースで行われたオークスでも4着と好走したように、この馬はキレるハービンジャー産駒です。
秋華賞トライアルの紫苑Sは小回り中山の1800mを後方からバキューンと捲り差しての1着で、キレる脚だけではなくパワーも兼備しているのがこの馬の最大の武器。母父スペシャルウィークの影響が出た胴長の馬体としなやかさのあるファームからも、本質的には直線の長いコースに向いています。オークス4着後は札幌→中山コースを連勝。小回りコースに対応しているのは内回りの秋華賞に向けて明るい材料となるでしょう。
ディアドラ 3歳牝馬
父:ハービンジャー
母:ライツェント(母父:スペシャルウィーク)
厩舎:橋田満(栗東)
生産:ノーザンファーム
2歳時はGⅢファンタジーS3着など重賞でもソコソコに好走していたものの、馬群を割ろうとするともたついてしまうのがネックで、なかなか2勝目を上げることができませんでした。
3歳春を迎えたディアドラは桜花賞トライアルのアネモネSをインから差して2着と好走し、精神面の成長を見せます。このレースを境にガラリと馬が変わり、「ハイレベル」と言われる3歳牝馬の一線級を相手にオークスで4着と好走。紫苑Sを「ここでは力が違う」とばかりに強引な捲りで快勝し、牝馬クラシック3冠目の秋華賞へと向かいます。
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血統
ライツェントは名牝ソニンクの娘で、自身は競走馬として未勝利に終わりましたが、母になってからはオデュッセウス、ディアドラとJRAで2勝を以上を上げる仔を出しています。ソニンク牝系は今夏の函館スプリントSを勝ったジューヌエコール、小倉2歳ステークスでも上位の人気に支持されたヴァイザーなど現在でも活力があるラインです。祖母のソニンクはMachiavellian×Nureyevらしいパワーとスピード、そして前向きな気性を伝える繁殖牝馬で、仔や孫にもダートと芝の短距離をゴリゴリと押して行くパワーが受け継がれています。
ディアドラはこの牝系のなかでは胴が長い中距離馬の体型で、これは母ライツェントの父スペシャルウィークの影響が出ているのでしょう。桜花賞6着→矢車賞1着→オークス4着の走りは、重厚なストライドでしなやかにキレたもので、ペルシアンナイトと同じく母系のNureyevの重厚さがONになっていると考えられます。
母ライツェントはNorthern Dancerのクロスをもたないので、クロスのうるさいハービンジャー産駒との相性はよく、今春に急成長したディアドラもまだまだ強くなる余地は十分にあるでしょう。
均整がとれた上品な馬体は2歳時から比べると柔らかさとボリュームが増しており、パドックや返し馬での姿が見栄えのする1頭。好馬体を誇るファンディーナと並んでも見劣りのしない立ち姿はハービンジャー産駒には見えず、ぼっーと眺めていたくなりますね。
秋華賞に向けて
ハービンジャー産駒としてGⅠ初制覇に挑むディアドラは本番でアエロリットに次ぐ人気に……。ルメール騎手への乗り替わりとトライアルの紫苑Sを快勝したレースぶりを観れば、高い支持を受けるのも自然なことです。とは言え、不安点はもちろんあります。
ディアドラの不安点は大きく3つ。
1. ルメール騎手への乗り替わり
2. 馬体重の維持ができるのか?
3. 疲労が溜まるローテーション
それぞれ1つずつ見ていきましょう。
1. ルメール騎手への乗り替わり
主戦を務める岩田騎手が秋華賞ではファンディーナに騎乗するため、ディアドラの鞍上はC・ルメール騎手に決まりました。初めてコンビを組むことに大きな不安はないものの、京都芝内回り2000mだとルメール騎手の仕掛けが遅れて差し届かないシーンも十分に考えられ、インコースを積極的に狙っていく岩田騎手の方がディアドラとしてはベターでした。
2. 馬体重の維持ができるのか?
ディアドラにとってもっとも不安なのが馬体重の維持。オークスから休養明け初戦となった札幌の1000万下は10kg以上馬体重を減らしての出走となりました。前走の紫苑Sは馬体重を戻しながらの手加減した調整。減っていた馬体は戻りましたが、秋華賞に向けて馬体重の維持に努める手ぬるい調教だと不安があります。
3. 疲労が溜まるローテーション
ディアドラは2歳時に賞金を積み重ねることができず、3歳春はオークス出走を目指して押せ押せのローテーションが組まれました。桜花賞とオークスの間に500万下の矢車賞を走り、さらに夏の札幌1000万下→紫苑Sと目に見えない疲れが心配されるほどレース数を使っています。
疲労をケアしながらの調整になっていることは間違いなく、秋華賞に向けてピークのデキにもっていけるのかは「?」が付くのも事実です。馬体重も含めてパドックの気配には注意したいですね。
体調が整えば、好走の可能性も十分
ディアドラの不安点はおもに騎手と体調面にあります。祖母のソニンク(Machiavellian×Nureyev)は機動力とパワーを伝えるので、内回りコースは苦にしない配合。ディアドラはハービンジャー産駒としてはしなやかにキレるタイプですが、もちろん父らしいパワーも兼備しているためコーナーをスムーズに加速することもできます。後は、この馬らしい捲りをルメール騎手が引き出せるのかどうか……。
アエロリットとカワキタエンカの作るペースであれば、後半がロングスパート戦になる可能性も高く、時計の速い今開催の京都の芝で上り34秒台の決着になるなら好勝負が可能でしょう。
まとめ
ディアドラは父ハービンジャーにGⅠをプレゼントすることができるのか?
今からレースが楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。