2017年版ハービンジャー産駒の特徴を解説!ーーディアドラが産駒として初GⅠを制覇

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英GⅠキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(アスコット競馬場芝2400m)を11馬身差で圧勝したハービンジャーが種牡馬として日本に輸入され、2014年には初年度産駒がデビューしました。

日本の競馬を変えたと言われる大種牡馬サンデーサイレンスの血をもつ繁殖牝馬と交配できるハービンジャーへの期待は大きく、初年度から大きな期待がかけられることになります。

 

ハービンジャーの血統と初年度産駒

ハービンジャーの父Dansiliはデインヒル直仔の欧州のパワー・マイラー。競走馬時代はGⅠを勝つことができませんでしたが、種牡馬として凱旋門賞馬レイルリンクを出し、'06年の仏リーディングサイアーを獲得するなどの活躍を見せています。

母Penang Pearlは母系にしなやかな血のShareef Dancer(その母Sweet AllianceはSir Ivor×Tom Fool)が入り、日本の芝に向く競走馬を出す下地をもっているのが特徴です。

ハービンジャー自身はNorthern Dancerのクロスがうるさく、スピードよりもパワーに勝った配合のため、どのようにスピードを引き出すかがキーポイントになります。

 

初年度産駒は大きな期待に応えることができず……

初年度産駒からGⅢ京成杯(中山芝2000m)を制したベルーフが出るなど好スタートを切りました。ただ、この世代で春のクラシックに出走したのは皐月賞のベルーフ1頭のみ。生産者の期待の大きさほどには活躍馬を出せなかったと言えます。

 

ハービンジャー産駒の特徴として

ハービンジャーが1、2年目と産駒を送り出すなかで、少しずつその特徴が現れてきました。まずは重賞勝ちの内容から特徴を洗い出してみましょう。

 

2016年までに3つの重賞勝ち

ハービンジャー産駒は'16年までに芝の重賞を3つ勝っています。その内容は以下の通りです。

2015年

ベルーフ:GⅢ京成杯(中山芝2000m)

ドレッドノータス:GⅢラジオNIKKEI杯京都2歳S(京都芝2000m)

2016年

プロフェット:GⅢ京成杯(中山芝2000m)

上記の通り、重賞レースで活躍するハービンジャー産駒は内回り・小回り向きの器用さとパワーに優れていて、直線の長い東京や外回りコースをしなやかに差すタイプは出ていません。 GⅢ京成杯を連覇しているように、小回りの中山をパワーで「捲る」のがハービンジャー産駒のスタンダードでした。

現オープン馬のトーセンバジル(5歳牡馬)のように直線で鋭くキレる産駒もいますが、瞬発力勝負になりやすい外回りコースの重賞では、あと一歩足りない成績になってしまうのです。

*トーセンバジルは今秋の京都大賞典(GⅡ・京都芝2400m外回り)2着。1着はディープインパクト産駒のスマートレイアー(7歳牝馬)。

 

全体的なハービンジャー産駒の特徴

ハービンジャー産駒の特徴として挙げられるのは以下の6つ。

1. 札幌や函館などの洋芝が得意

2. ダートと重馬場は不得手

3. 距離は1600〜2000mがベスト

4. 内回り・小回りコースが得意

5. ややキレる脚に欠ける

6. 古馬になってからの成長力「?」

ハービンジャー産駒は全体として仕上がりが早く、函館や札幌、小倉などの2歳新馬戦でデビューする馬が多く出ました。初年度から夏場に好成績を出していたことから、洋芝向きのパワーと小回り向きの器用さをもっているというイメージが定着したのです。ただ、パワーがあると言ってもダートや重馬場は苦手で、クッションの利いた時計のかかる芝がベストです。

POINT

・パワータイプだけれどダートは苦手

・洋芝をこなす産駒が多い

3歳春のクラシック路線で思うような成績が上がらないのは、瞬発力勝負になるとディープインパクト産駒に劣ってしまうことが最大の原因と考えられます。

 

2017年、ハービンジャー産駒に変化が!?

ハービンジャーの3年目の産駒となる今年の3歳世代は、牡馬が皐月賞2着のペルシアンナイト、牝馬がオークス2着のモズカッチャンと春のクラシックで活躍しました。GⅠ制覇まで「あと一歩」まで詰め寄った産駒たちは、2017年の秋、父に大きなプレゼントを届けることになります。

ディアドラが秋華賞(京都芝2000m)を制し、産駒として初めて父にGⅠをプレゼントすることに!

GⅠ秋華賞(2017年)はハービンジャー産駒のディアドラが素晴らしい末脚で1着! - ずんどば競馬

 

直線の長いコースでも好走!

オークスでは2着モズカッチャン、4着ディアドラの2頭が掲示板に載るなど、直線の長いコースのGⅠでも好走したのは「大きな変化」と言えるものです。それまでは「小回りをパワーで捲る」のが「いかにも」ハービンジャー産駒「らしい」ものだったのですから、その特徴が大きく変化していることがわかります。

 

ディアドラとモズカッチャン、ペルシアンナイトに共通するものは?

大きな舞台では「底力が足りない」と揶揄されたハービンジャー産駒も、今秋にディアドラがGⅠを制覇し、雑音を吹き飛ばす活躍ぶりを見せています。それでは、このGⅠで連対した3頭に共通するものは何なのでしょうか?

ディアドラとモズカッチャン、ペルシアンナイトの3頭はいずれも母系に「Nureyev」の血を引いていることがわかります。この欧州の名血・名種牡馬を通して、ハービンジャーに入る「キレ」を増しているのです。

ディアドラとペルシアンナイトが長い直線を重厚なストライドで走るのも、モズカッチャンがフローラS(GⅡ・東京芝2000m)で上り33秒台の脚で差し切ってしまうのも、Nureyev←名牝Specialのもつ重厚な「キレ」に由来するものだと言えます。

 

ディープインパクトを差し切るハービンジャー

ハービンジャー産駒は今年(11月5日終了時点)、勝利数は「63」。そのなかで33.0〜34.0の上りを使って勝ったのは19回と、2割5分を超える確率で瞬発力勝負を制していることがわかります。2016年は99勝の内33.0〜34.0の上りを使ったのは13勝ですから、単純な比較をすれば数字上は瞬発力勝負に強くなっているのです。

これまでは瞬発力勝負でディープインパクトに負けていたハービンジャー。GⅠなどの舞台では瞬発力を問われるレースになることが多いため、キレる脚を使える産駒が増えたというのは今後に向けて期待がもてる変化と言えるでしょう。

 

EI(アーニングインデックス)も年々上昇

ハービンジャーは「種牡馬の優劣」を表す指標の1つ「EI(アーニング・インデックス)」が年々上昇しています。IEについてはJRAの競馬用語辞典の解説を引用しておくので、どのような内容なのかはご確認下さい。

 

種牡馬の優劣を判定するためのめやすで、出走馬1頭当たりの収得賞金の平均値を1.00として、各々の種牡馬の産駒の平均収得賞金の割合を数値で表わしたもの。1.00が平均となり、数値が大きくなるほど産駒が多くの賞金を獲得していることを表わす。これを算式で示すと(産駒の総収得賞金÷産駒の出走頭数)÷(出走馬総収得賞金÷総出走頭数)となる。

引用元:アーニング・インデックス(競馬用語辞典) JRA

 

初年度産駒が走り始めた'14年〜'17年の7月時点でのEIは以下の通りです。

ハービンジャー産駒のEI

2014年:0.53

2015年:0.78

2016年:0.99

2017年:1.37

参照元:netkeiba.com - 国内最大級の競馬情報サイト

2014年は2歳馬しか走っていないので、EIは低くなっています。今年のEIはここまで平均値を上回る1.37ですから、下級条件だけではなく上級条件でしっかりと賞金を獲得していることがわかります。EIが年々上昇しているというのは、ハービンジャー産駒の育成や調整方法を生産者や厩舎が理解してきたからだけではなく、古馬になって上級条件で活躍している馬が増えていることもその要因です。

 

ハービンジャー産駒の今後

初年度産駒の成績が期待したほどではなかったことから、年々種付け頭数が減少しているハービンジャーですが、今年のクラシックの成績から来年以降はまた種付け頭数が増えるでしょう。

今後は内回り・小回りをパワーで捲るタイプだけではなく、東京や外回りコースをバキューンと鋭く差す馬がどんどん現れるのでは、と期待したいですね。

 

注目のハービンジャー産駒

今後、重賞戦線で活躍する可能性の高い2頭のハービンジャー産駒を最後に紹介しておきます。

 

サンマルティン 5歳騸馬

父:ハービンジャー

母:ディアデラノビア(母父:サンデーサイレンス)

厩舎:国枝栄(美浦)

生産:ノーザンファーム

母ディアデラノビアはオークス・エリザベス女王杯・ヴィクトリアマイル3着、重賞3勝の活躍馬で、繁殖としても重賞勝ち馬を送り出している名牝。

サンマルティンは前進気勢が強く、当たりの柔らかいルメール騎手や戸崎騎手が乗っても折り合いが難しい馬。名手が乗っても折り合えないほどの抜群のエンジンをもっているので、スムーズなレースができれば母譲りの末脚で「バキューン」と弾けます。母に似た回転の速いフットワークながらストライドも伸びるタイプなので、直線の長いコースでも速い上りを使えるのが最大の長所です。

前々走のむらさき賞(1600万下 東京芝1800m)は戸崎騎手が4コーナーを手綱を引っ張りっきりで、「これは脚が残せているのかな?」と不安になったものの、直線を向いて前の進路がクリアになると上り33.3の末脚を発揮しての差し切り勝ち。ディープインパクト産駒顔負けの瞬発力を見せました。

 

小倉記念を2着と好走

サンマルティンは今夏の小倉記念に出走し、3コーナーから素晴らしい捲りで直線で先頭に立つと、重賞制覇まで「あと一歩!」の2着に好走しました。折り合えれば素晴らしいコーナー加速力を見せられる馬。次走はふたたび小回りの福島記念(GⅢ・福島芝2000m)に出走することから、重賞勝ちへの期待が高まりますね。

 

ヒーズインラブ 4歳牡馬

父:ハービンジャー

母:シーズインクルーデッド(母父:Include)

厩舎:藤岡健一(栗東)

今春、中山1600mの1000万下→1600万下を連勝。「超」高速馬場だった皐月賞の日の12R春興ステークスではインコースをスルスルと抜け出したオートクレールを上り33.2の鋭脚で差し切り、キレるハービンジャー産駒「らしい」ところを見せました。

母シーズインクルデッドは今年のGⅢ新潟大賞典を勝ったサンデーウィザードを出す好繁殖牝馬。Northern Dancerのクロスをもたないアメリカ血統で固められた配合から、Northern Dancerのクロスのうるさいハービンジャーとの相性は良さそうです。

ヒーズインラブの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

前走のOP谷川岳Sは1番人気に支持されたものの、ウインガニオンのマイペースの逃げを捕らえることができずに7着と敗退。オープンでも十分に通用する脚をもっているだけに、上級条件でどのような走りを見せるのかに注目ですね。

 

まとめ

ハービンジャーを父にもつ2歳馬も続々とデビューを迎えています。今年のハービンジャー産駒のなかで来年のクラシックを賑わす馬が現れるのでしょうか?

ディアドラやモズカッチャンに続く活躍馬の登場が楽しみですね。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。