9月23日(土)、阪神9Rに組まれた2歳OPききょうS(芝1400m)は、藤沢和雄調教師が管理するRaven's Pass産駒のタワーオブロンドンが後方からレースを進めると、手応え十分に直線に向き、レース最速となる上り3F35.2の脚で突き抜けて快勝しました。
重厚な好馬体から繰り出されるパワフルなフットワークは、いかにも「欧州的なマイラー」そのもの。ノーステッキの勝利はこの馬の潜在能力の高さを示したと言えます。勝ちタイムは1分21秒7(稍重)。
2歳OPききょうSは上品で魅力的な血統とパワフルな走りが印象的なタワーオブロンドンに注目! - ずんどば競馬
ききょうSは欧州的なパワーの活きる持続戦に
ききょうSは1枠から好スタートを切ったバーニングペスカを、大外枠から押して押してハナを主張したジュンドリームが交わして先頭に立ち、前半3Fが33.5のハイペース。2歳戦+稍重の馬場を考えると前半が速いペースで流れ、レースのラップは12.2 - 10.6 - 10.7 - 11.7 - 12.1 - 12.4 - 12.0と後半の3Fがすべて12秒台を記録する消耗戦となりました。
欧州のスタミナとパワーに優れた種牡馬が代々かけられた母系をもつタワーオブロンドンにとって、上りのかかるレースは「ドンと来い!」。自身のもつパワーを最大限に活かせるレースとなりました。
ダーレージャパンの繁殖牝馬はスパイスが利いている
タワーオブロンドンは、H・H・シェイク・モハメド殿下が代表を務めるダーレージャパンの生産馬。母スノーパインは皐月賞馬ディーマジェスティを産んだエルメスティアラの半妹にあたり、英ダービー馬ジェネラスなどを出したDoff the Derbyにさかのぼる名門牝系の出身です。
スノーパインは父Dalakhani×母父Sadler's Wellsといういかにも「ヨーロッパ」な血統をもち、シェイク・モハメド殿下の繁殖牝馬らしくスパイスの利いた配合をしているのが大きな特徴です。
DalakhaniはDarshaan→Shirly Heights→Mill Reefとさかのぼる父兄で、血統表の中にNorthern Dancerをもちません。そのため、Northern Dancer直仔の大種牡馬Sadler's Wellsを母父にもつスノーパインは5代血統表中にクロスをもたないアウトブリードの配合。
ヨーロッパの血で固めていると言っても、非Northern Dancer系のDalakhaniの血をしっかりと取り込んでいるのがダーレージャパンらしい上品さで、だからこそ、スノーパインは日本の芝にも対応できる競走馬を産むことができたのでしょう。
タワーオブロンドン 2歳牡馬
父:Raven's Pass
母:スノーパイン(母父:Dalakhani)
厩舎:藤沢和雄(美浦)
生産:ダーレージャパン
父Raven's Passは英GⅠクイーンエリザベスⅡ世S(芝1600m)と米GⅠブリーダーズカップ・クラシック(AW2000m)を制したマイラー(*)で、種牡馬としてはまだ目立った活躍馬を出していません。
✳︎Raven's Passが勝った2008年のブリダーズカップ・クラシックは、藤沢和雄調教師が管理したカジノドライヴが日本調教馬として出走したレースとしても知られています
このRaven's Passは父がMr.Prospector系のElusive Quality×母父Lord at Warという配合。これは日本で芝のGⅠ馬を出したウォーエンブレムと似ているため、日本の芝にも適性のある種牡馬と言えるでしょう。
ブラックエンブレム:2008年の秋華賞1着
ローブティサージュ:2012年の阪神JF1着
Gone West直仔のElusive Qualityは阪神JFを制したショウナンアデラの母父として、そして、サトノクラウンの母父Rossiniと4分の3同血としても知られます。軽いスピードを伝えるGone West系としては底力もあるのがElusive Qualityの特徴で、これはその母Touch of Greatnessの優秀な血によるもの。
名牝Touch of GreatnessはNorthern Dancer直仔のHero's Honor×Sir Ivorという組み合わせをもち、ここに現代の最良の血が詰まっています。Touch of Greatnessがスノーパインの引くSadler's Wellsと出会い、スタミナとパワーだけではなく日本の芝を走るのに必要な「しなやかさ」も補っています。
タワーオブロンドンの血統表を見ていると、「うわ〜ん、ダーレーの配合ってスパイスが効いていて、素敵だな〜」とため息が出るほど。欧州的な血統構成の中にしっかりと現代競馬のキーになる名牝や名血が散りばめられ、本当に上品でオシャレですね。この馬が牝馬であれば……とついつい妄想してしまいます。
パワフルなマイラーとして
タワーオブロンドンは、いかにもヨーロッパの芝が合いそうなパワフルで重厚なフットワークで走ります。そのため、新馬戦→クローバー賞と洋芝の札幌で2戦したのは納得で、稍重で時計のかかる芝だったOPききょうSもこの馬にはベターの馬場でした。
後方からズドーンと外を捲るレースぶりは、この馬の特性を活かしたルメール騎手の好騎乗。今後は時計の速い馬場に対応できるのかがポイントになります。
前向きな気性から、現時点では1400m前後がベスト。まだ、全体の馬体からすると顔が大きく、まだまだ成長するでしょう。これからどれほど強くなるのかに注目したいですね。
非サンデーサイレンスだからこそのパワー
現代日本の競馬を変えたと言われるサンデーサイレンスは、スタミナとパワーとピッチ走法を伝えるノーザンテーストに替わり、「しなやかさ」と「スピード」を産駒の多くに伝えました。
大種牡馬サンデーサイレンスが日本の競走馬の多くの血統表のなかに入るにつれ、日本の芝の中距離路線はドバイでも香港でもGⅠを取れるレベルにまで向上。ただ、その代償として、スプリントやマイル路線はレベルが低下したと言われます。
日本の競馬はしなやかな血が増えすぎたため、パワーでガンガン飛ばす先行馬が少なくなり、後傾ラップをしなやかに差すサンデーサイレンス系のスプリンターが続々と出ているのです。
スプリンターズSは2015〜2017年にかけて、後傾くラップを得意とする「しなやかスプリンター」が勝ち続けています
ロードカナロア級の突出した能力をもつ馬でないと香港スプリントを勝てないというのは、ゴリゴリとパワーで押し切れるスプリンターが減ってしまったからでしょう。スプリントを緩いペースで走るのに慣れた日本馬にとって、パワーを求められる海外のスプリント路線は鬼門なのです。
タワーオブロンドンはパワー・マイラー
タワーオブロンドンは非サンデーサイレンス系の重厚なマイラーですから、スローの瞬発力勝負よりも、パワーでゴリゴリと押して行くレースが得意。今後はマイル路線を歩むのか、それともスプリント路線に向かうのかはわかりませんが、日本の短距離路線を担う血統に育って欲しいですね。
京王杯2歳Sに向けて
タワーオブロンドンは、東京芝1400mで行われる重賞「京王杯2歳S」に出走予定。今年は小倉2歳Sを制したアサクサゲンキ、函館2歳Sを制したカシアスの2頭の重賞馬が出走するなど、ハイレベルな争いが期待できます。
タフな馬場は得意
キタサンブラックとサトノクラウンがもてるスタミナをふり絞ってゴール前まで叩き合った先週の天皇賞・秋は、芝2000mの時計が2分08秒台になるほどの不良馬場で行われました。京王杯2歳Sはその馬場の影響が多少は残るはずで、「時計の速い決着」になる可能性は高くありません。
パワー満点のタワーオブロンドンにとって、タフな馬場は「ドンと来い!」。直線の長い東京コースで、この「欧州風マイラー」がどのような走りを見せるのかに注目です。
まとめ
血統も馬体もいかにも欧州的なマイラーのタワーオブロンドン。クラシックは少しだけ距離が長いのかもしれませんが、朝日杯FS→NHKマイルCというマイラーの王道路線をしっかりと歩んで欲しい1頭です。次走以降、どのような走りを見せるのかに注目しています。
以上、お読みいただきありがとうございました。