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GⅡセントウルS('17年)のレース回顧ーーガラパゴス化する日本のスプリント路線

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サマースプリントシリーズの最終戦GⅡセントウルSは9月10日(日)、阪神競馬場を舞台にレースが行われ、M・デムーロ騎手の1番人気ファインニードルが3番手のインから直線で抜け出すと、後続の追撃を振り切って初重賞制覇を上げました。2着には狭いインを伸びたラインミーティア、3着には大外から鋭く脚を伸ばしたダンスディレクターが入線。勝ちタイムは1分07秒5(良)。

 

ダンスディレクターが3着に好走するスプリント重賞

1400mがベストのスプリンター・ダンスディレクターが1200mの重賞を勝つには、今年のGⅢシルクロードSのように33.9 - 33.9と緩いレースラップになったところを33.1の上りでしなやかに差し切るレースしかなく、今年のセントウルSでフィドーシアが前半を33.8通過したときには、「あぁ……」とため息が漏れました。

ダンスディレクターは芝1200mのレースを34.5 - 33.0=1分07秒5で走破できる馬で、つまりは後傾ラップを好むタイプです。ビッグアーサーが逃げ切った昨年のセントウルSはレースラップが33.1 - 34.5と前傾になり、これだとダンスディレクターは前半で付いていくことができず8着と凡走。つまり、この馬が好走するときはほぼ後傾ラップのレースで、そして、今のスプリント路線は重賞でも1.0秒以上の前傾になることが少なくなってきました。

 

セントウルSのレース回顧

1着のファインニードルを除くと、2〜4着までに入った馬はすべて中団〜後方でレースを進めた馬が鋭く差してくる展開で、いかにも後傾ラップという流れでした。好位で器用に立ち回ったファインニードルは母系に入るDarshaanのしなやかさとSharpen Upクロスのスピードで走るアドマイヤムーン産駒ですから、今走のような上りの速いレースにも対応できるのが強味と言えます。

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阪神芝1200mは前半が速くなりやすいコースレイアウト

セントウルSの行われる阪神芝1200m(内回り)はスタートしてから1000mほど緩やかな下り坂が続くコースレイアウト。そのため、ゴール前の急坂を除けば小倉競馬場と似た高低差をもつのが特徴です。ローカルの小倉芝1200m→阪神芝1200mというローテーションで臨む馬の好走率がそこそこ高いのも、コースの親和性に由来しているものでしょう。

 

フィドゥーシアは前半3Fを33.8で通過

前走のアイビスサマーダッシュでもラインミーティアに鋭く差し切られているフィドゥーシアにとって、大外枠から積極的にハナに立った後はできるだけペースを落としたいわけですから、この前半3Fは想定できました。ただ、このペースで9着まで失速するのは驚きでした。これまでも上りの速い後傾ラップにも対応していた馬ですしね。

この凡走は体調面が下降気味だったのかもしれませんし、もうひとつは馬体が完成してくるとともに祖母グレートクリスティーヌのパワー・スプリンターの血(Danzig×Icecapede)が強く出てきて、前半3Fが33秒台後半だと遅すぎたのかもしれません。フィドゥーシアは2.0秒以上の前傾ラップとなった1000万下の別府特別や帆柱山特別を先行して勝っていることから、本質的にはパワーゴリ押しが合っている可能性もあります。とにかく次走に期待をしたい1頭です。

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1着:ファインニードル

ファインニードルの馬主H・H・シェイク・モハメド氏が代表を務めるダーレー・ジャパンの現4歳世代は例年よりもアドマイヤムーン産駒の数が多くなっています。

ダーレーの優れた繁殖牝馬は欧州的な血統の馬が多く、アドマイヤムーンを配合するとパワータイプのマイラー・スプリンターになるのが自然です。ただ、配合に一ひねりしてあるのがダーレーらしくて、ファインニードルの母父Mark Of Esteemは重厚なキレをもつDarshaanの直仔ですから、ゴリゴリとパワーで押すだけのスプリンターというよりも上りの速い決着でも対応できるのがこの馬の最大の長所でしょう。

アドマイヤムーン産駒は中山や阪神芝1200mの小回り・内回り+急坂が得意なことはよく知られていて、コーナーでスピードを上げられる器用さと急坂を苦にしないパワーがその特徴として挙げられます。ファインニードルも好位のインの3番手を余裕十分に追走したのはこの器用さの表れ。ゴール前の急坂も大きくスピードを落とすことなく押し切りました。

前傾ラップでも好走歴があり、そこはSharpen Upクロスのスピードとパワーによるもので、1200mであればあまり弱点のないスプリンター。この馬のウィークポイントは体質の弱さからくる馬体重の変動が大きいことで、レースを使ってガタッとくるようなことが少なくなればより成績も安定してくるでしょう。

 

スプリンターズSに向けて

スプリンターズSの前哨戦としては文句のない勝ち方を上げたファインニードル。ただ、セントウルSの優勝馬はスプリンターズSで勝てないジンクスが……。昨年、セントウルSを楽勝しスプリンターズSで単勝1倍台の指示を受けたビッグアーサーがまさかの12着。このジンクスを乗り越えられるのか、また、夏も休みなく使われていたファインニードルがGⅠを戦えるだけの余力を残しているのかがポイントになります。

 

2着:ラインミーティア

この馬が6番人気の指示を受けていたのですから、日本の競馬ファンの慧眼には恐れ入ります。マーガレットS5着以来の阪神競馬場でのレース、そして重賞競走でインをさばいて2着まで押し上げるとは……。ゴールまでコースロスなく進めたとは言え、ここまで鮮やかに抜けてくるのは力がないとできないことで、前走のアイビスサマーダッシュの勝利でどこか馬が変わったのかもしれませんね。サマースプリントシリーズ・チャンピオンへの執念を感じたレースとなりました。

 

3着:ダンスディレクター

先にも述べたようにこの馬が好走するときは、34.5 - 33.0で走って届くような後傾ラップになることで、レースの前半3Fが速いのか遅いのかがすべての馬です。スタートから上り坂で前半が速くなりにくい京都芝1200mをダンスディレクターが得意としているのも、後傾ラップになりやすいレースだから。セントウルSで3着に入ったことから大きな力の衰えはなく、今後もペースが緩むレースでは注意が必要な馬です。

 

4着:メラグラーナ

スタートしてから戸崎騎手が馬を促していましたが、好位は取れずに中団よりも後ろのポジション。直線では進路を探しながら伸びてきての4着。この馬の本質は重厚なストライドでゴリゴリとパワーで押すスプリンターですから、上りの速いレースを差してくる馬ではありません。

スタートをポンと切って好位の2、3番手を楽々と追走できるようにならないといつまで経っても同じようなレースぶりになってしまいます。また後方からの競馬になったので、まだ馬体に芯が入っていないのでしょうね。う〜ん、ここまで馬体の完成が遅めだと、スプリンターズSも苦しい戦いになりそうです。

 

スプリンターズSに向けて

もう、この馬が転厩してR・ムーアやJ・モレイラが乗らないかぎり、スプリント戦で先行して押し切る競馬は期待できません。今まではこの素晴らしいパワー・スプリンターの素質と走りに期待をし過ぎていましたが、ここからはスプリンターズSに向けて現実的に考えていきましょう。

まず、スプリンターズSが34.0 - 33.5くらいの後傾ラップになればこの馬にも好走のチャンスはあります。セントウルSの4着は直線でも進路を探しながらの追い出しで、レースのダメージはほとんどありません。馬体をもう少し増やしてレースに挑めれば、今年のメンバーであれば勝ち切れる可能性は十分。後傾ラップに強いレッドファルクスとシャイニングレイさえ押さえることができれば。

重厚なストライドで走るパワー・スプリンターが後傾ラップを差すというのはもてる力を100%発揮しているとは言えませんが、残された競走生活の時間が少ないメラグラーナにとっては致し方ありません。でもね、それだと香港スプリントは勝てないんですよね……。

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◎ミッキーラブソングは7着、◯アドマイヤゴッドは5着

アドマイヤゴッドの北村友騎手はスタートから積極的に出して行き、インのポケットを取ろうとしたのはさすがです。ファインニードルの位置が取れれば理想でしたが、戦法としてはセカンドベストだったと言えます。直線を向いて一瞬は伸びかかったものの、ハーツクライ×Danzigで速い脚に欠くので、この着順は致し方なしです。

ミッキーラブソングの和田騎手のファイトは、小倉記念を制したときのクランモンタナを思い出しました。道中はずっと追い通しで、直線に向いてもズルズルと後退していくのだろうなという手応え。ところが、直線に入ってからはしぶとく脚を使っての7着。これほど噛み合っていないレースで7着ですから、阪神芝1400mですっと好位に取り付ければチャンスもあります。次走はどこを走るのか、注目したい1頭です。

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まとめ

もう、JRAのスプリント重賞は後傾ラップになることがままあり、32秒後半のダッシュで飛ばして、34秒ソコソコで粘り込むパワー・スプリンターは絶滅危惧種になりました。前傾ラップが得意なビッグアーサーも休養が長引き、涼しい顔でテンの3F32秒台で飛ばすシュウジもスランプに陥り、今年のスプリンターズSも1.0秒以上の前傾にはならないのでしょう。

日本のスプリント路線がガラパゴス化していくのは寂しいかぎりですが、それも競馬です。スプリント界を席巻するパワー・スプリンターの出現に期待して。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。