ドバイ・シーマクラシックとターフに出走する有力馬(日本馬を中心に)をズドーンと解説!ーー展望

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3月31日、UAE・ドバイのメイダン競馬場で開催される「ドバイ・ワールドカップ・デー(ドバイミーティング)」に、日本馬は総勢14頭(6レースに出馬登録)が参戦予定。

今年はレイデオロ、サトノクラウン、リアルスティール、ヴィブロスと日本を代表する芝の中長距離馬が出走し、例年以上に好メンバーが揃いました。今回は上記の4頭が出走するドバイ・ターフとドバイ・シーマクラシックの2レースを展望します。

 

ドバイ・シーマクラシック

メイダン競馬場の芝2410mで行われるシーマクラシックは、日本調教馬にとって相性の良いレースです。昨年こそサウンズオブアースが6着と敗退したものの、ステイゴールド(01年)、ハーツクライ(06年)、ジェンティルドンナ(14年)と3勝を上げ、ブエナビスタ(10年)、ジェンティルドンナ(13年)、ドゥラメンテ(16年)の3頭が2着に入線しています。日本の芝中距離のトップホースであれば、欧米の実績馬と互角以上に戦えるレースです。

今年は昨年のダービー馬レイデオロ、宝塚記念と香港ヴァーズの国内外のGⅠ馬サトノクラウン、昨年のエリザベス女王杯を制したモズカッチャンの3頭がエントリーしており、上位独占の期待が高まります。それではまず、日本馬3頭から見ていきましょう。

 

レイデオロ 4歳牡馬

名伯楽・藤沢和雄調教師に「ダービー」の勲章をプレゼントしたレイデオロは昨年のジャパンカップを2着と好走し、日本の芝中長距離のトップレベルであることを証明しました。

母父シンボリクリスエスの影響を受けた胴長の馬体から、この馬のベスト距離は2000〜2400mです。非サンデーサイレンスの一流馬らしく、小気味の良い回転のピッチで走ります。小回り・内回りコース向きの走法にもかかわらず、直線の長いコースのGⅠで好走しているのは、もてる競走能力が高いからでしょう。

シーマクラシックを連対したすべての日本調教馬はサンデーサイレンスの血を引いており、その点はマイナス。ただ、同じピッチ走法のジェンティルドンナが鋭く抜け出して快勝していることから、ハイペースのロングスパート戦(消耗戦)にさえならなければ、大きな不安はありません。

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シーマクラシックに向けて

前走の京都記念は3着と敗退しましたが、テン乗りで道中の折り合いを欠いてしまったことなど情状酌量の余地はあります。藤沢和雄調教師と言えば、海外遠征は「お手のもの」ですから、調整については抜かりはないでしょう。

世界各国の芝中長距離戦を好走した逃げ馬・ハイランドリールが引退し、今走は持続戦にもち込みたい先行馬が少ない組み合わせ。俊敏なピッチ走法のレイデオロにとって、ハイペースの持続戦になる可能性が低ければ、それだけ好走への期待が高まる1戦となります。

 

サトノクラウン 6歳牡馬

ハイランドリールを差し切った香港ヴァーズ、キタサンブラックを退けた宝塚記念と、道中で1F11.5以上かかる持続戦になれば「世界屈指」と言えるサトノクラウン。しなやかなストライドは直線の長いコース向きで、メイダン競馬場の芝2410mはずんどばの舞台です。

昨秋は歴史的な不良馬場となった天皇賞・秋を2着と好走した後、ジャパンカップ10着、有馬記念13着と大敗を喫しました。今走は海外遠征+年明け初戦とあって、本来のパフォーマンスが発揮できるのかがポイントです。

 

シーマクラシックに向けて

体調が整っていることと上りのかかるレースになることが好走の条件ですが、シーマクラシックは申し分のない舞台だけに、アッサリと突き抜けてしまうシーンも十分です。

キタサンブラックと叩き合った昨年の天皇賞・秋の走りは「世界のトップホース」と呼ぶにふさわしいもの。馬場を苦にしない走りはいかにも海外遠征向きの馬と言えます。

レイデオロとは適性が正反対なので、この2頭の能力が他馬と比べてずば抜けてないかぎり、ワンツーの低いでしょう。

 

モズカッチャン 4歳牝馬

ハービンジャー産駒らしい器用さとパワー、そして、重厚なストライドをもつ力量馬。昨年のエリザベス女王杯はM・デムーロ騎手の好騎乗もあって、嬉しいGⅠ初制覇となりました。

この馬の長所はコーナーを器用に回り、直線でパワーあふれる末脚を使える点です。コースや馬場も不問というのは、海外遠征をする上で大きな武器と言えます。

前走の京都記念はレイデオロに次ぐ4着と好走し、牡馬相手でも戦える力を示しました。古馬になってからグングンと成長する配合には見えないので、昨秋からどれほどパワーアップしているのかがカギになるでしょう。

 

シーマクラシックに向けて

モズカッチャンは残り4Fからのスパート戦だと好走していますが、サトノクラウンの好むロングスパート戦になったときには不安が出てきます。牝馬同士のレースでは「持続戦」になることは稀ですから、そのような質のレースで好走できるのかはわかりません。

管理する鮫島一歩調教師はこれまで海外GⅠでの好走歴がないこと、生産牧場が社台系ではないことから、海外遠征への不安は小さくないと言えるでしょう。また、休み明けを走らない馬は「海外遠征」に不向きなタイプが多いこともマイナス要素のひとつです。

 

海外調教馬

凱旋門賞2着の実績をもつクロスオブスターズはエクリプスSと英インターナショナルのGⅠを制したユリシーズと4分の3同血の間柄で、重厚なストライドで走る力量馬。「日本の芝でも走れるのでは?」と思えるほど素軽い走りをするだけに、日本勢の最大のライバルと言えます。

母系はMill Reef、Nureyevなど日本でもお馴染みの血が入り、欧州生産馬としては「軽さ」のある配合。ユリシーズが素軽さ満点の走りをするように、この馬も直線で弾ける脚を使えるのが最大の長所です。フランスの名伯楽A・ファーブル調教師の管理馬だけに、大舞台での仕上げに抜かりはありません。

 

シーマクラシックのポイント

このレースの最大のポイントは持続戦になるのかどうか……。ロングスパート戦になればレイデオロとモズカッチャンには苦しく、サトノクラウンにとっては絶好の展開になります。昨年はハイランドリールが最下位に沈むほどの重い馬場になったほどで、レース当日の芝のコンディションには注意が必要です。

 

ドバイ・ターフ

日本調教馬の3連覇がかかるドバイターフは、16年リアルスティール、17年ヴィブロスと同レースを制した2頭が顔を揃えました。この距離のカテゴリー(芝1800m)は日本馬が強く、今年も勝ち負けが期待できます。

日本からはリアルスティール、ヴィブロス、ネオリアリズム、ディアドラ、クロコスミアの5頭が出走予定。4頭の国内外GⅠ馬が顔を揃え、日本馬の上位独占を期待できるメンバーと言えます。それでは、それぞれの5頭を見ていきましょう。

 

リアルスティール 6歳牡馬

キタサンブラックと同世代の力量馬ももう6歳のシーズンを迎えました。一昨年、このドバイターフでGⅠを初制覇。昨秋は毎日王冠1着→天皇賞・秋5着と好走し、体調さえ整えばまだまだ一線級の力があることを示しました。

父ディープインパクト×母父Storm Catはダービー馬キズナ、ラキシス=サトノアラジンの全姉弟、エイシンヒカリ、アユサンなどのGⅠ馬を出しているニックス配合。この配合馬の多くはしなやかなストライドで走りますが、リアルスティールは小気味の良いピッチ走法の馬です。

この馬は本質的に小回りコース向きの馬にもかかわらず、これまでに制した3つの重賞はすべて直線の長いコースでのもの。ただ、昨秋の毎日王冠のように、スローバランス+上りの速い競馬であれば、俊敏なピッチ走法で抜け出せます。

 

ドバイターフに向けて

直線の長いコースであれば、「高速馬場+スローペース」が理想です。レースを使い込むよりフレッシュな状態のときに好走する傾向があり、休み明け初戦となるのはそれほど気になりません。ただ。歴史的な不良馬場となった天皇賞・秋のダメージを取るため、休養が長くなったことはプラスとは言えないでしょう。

先行馬のクロコスミアはスローにもち込むことが多く、リアルスティールにとってはプラスでしょう。昨年のようなタフな馬場だとやや割引なものの、このメンバーに入ればあきらかに格上の存在。体調さえ整っていれば、アッサリと勝ち切ってしまうことも十分に考えられます。

 

ヴィブロス 5歳牝馬

昨年のドバイターフは「マジックマン」と呼ばれるJ・モレイラ騎手の魔法のような好騎乗で勝利を上げました。雨の影響でややタフな馬場だったにもかかわらず、時計のかかる馬場がベストではないヴィブロスがアッサリと勝つのですから、力量が一枚上だったのでしょう。

母ハルーワスウィートはヴィルシーナ、シュヴァルグランのGⅠ馬を出している名繁殖牝馬。母系に入るMachiavellianから器用さ、Nureyevからパワーとストライド走法を受け継ぎ、内回りをバキューンと捲るのも直線の長いコースをズドーンと差すこともできます。

 

ドバイターフに向けて

昨年のこのレースを勝っているわけですから、舞台に大きな不安はありません。中山記念を叩いてのローテーションも昨年と同じですし、後は相手関係と競走能力の衰えがあるかどうかでしょう。もともと乗り難しいタイプではなく、C・デムーロ騎手への手替りも心配は特になし。

好走できないとすれば……体調が整っていない、持続戦になることくらいでしょうか。適性としてはリアルスティールと似ているので、セットで馬券になる可能性が高いでしょう。

 

ネオリアリズム 7歳牡馬

一昨年の札幌記念でモーリスを相手に逃げ切り勝ちを上げ、重賞を初制覇。昨春は中山記念(GⅡ・中山芝1800m)→クイーンエリザベス2世Cと重賞を連勝し、素質馬が古馬になって本格化を果たしました。

母トキオリアリティーはGⅠ馬リアルインパクトを出した名繁殖牝馬。現代の主流血統とは言えない母にネオユニヴァースが配されたネオリアリズムは自身がNorthern Dancer5×5の薄いクロスしかもたず、ジワジワと力をつけるタイプです。

 

ドバイターフに向けて

直線の長いコースがベストとは言いにくいものの、メイダン競馬場の舞台に大きな不安はありません。パワーのある馬なので、高速よりはやや時計のかかるコンディションがベスト。

気性的に難しさのある馬ですから、折り合いの巧みなJ・モレイラ騎手を確保したのは大きなプラスです。このメンバーに入っても勝ちきれるだけの能力があるので、好レースを期待したいですね。

 

ディアドラ 4歳牝馬

父ハービンジャーに初めてGⅠをプレゼントした孝行娘。道悪になった秋華賞はルメール騎手の好騎乗によって、4コーナーからグイグイと伸びての勝利。京都の内回りコースで馬群をさばけるのも、Machiavellianと自身のもつHaloクロスが伝える器用さによるものです。

この馬の血統やこれまでの走りについては以下の記事に詳しく解説しているので、よければご覧下さい。

 

ドバイターフに向けて

昨秋の秋華賞からスタートをもっさりと出るようになっており、今走も後方からの競馬となるでしょう。母系はヴィブロスと似ており、器用さとパワーのあるタイプ、ただ、本馬は重厚なストライドで走るので、直線の長いコースはベスト。

折り合い面はそれほど苦労しない馬ですし、皐月賞を制したルメール騎手とのコンビですから、良いイメージでレースに臨めそうですね。後方からバキューンと弾ける脚を使ってどこまで追い込めるのか……後は相手関係によると言えます。

 

クロコスミア 5歳牡馬

ステイゴールド産駒としてはストライドを伸ばして走るタイプなので、直線の長いコースに向いています。母父がスピード色の強いボストンハーバーなので、父中距離馬×母短距離馬という配合形。母のスピードで先行し、父のスタミナで粘る脚質になったのは納得です。

昨秋は府中牝馬Sをスローペースで逃げ切り、続くエリザベス女王杯でも先行して2着に粘りこむなど重賞で戦える力を身につけました。馬場やペース不問の逃げ馬ですが、個人的にはスローよりは持続戦でより力を発揮できるタイプだと考えています。

 

ドバイターフに向けて

ペースをコントロールすることができるのは大きな強みで、上手く逃げることができればアレヨアレヨの走りも……。ただ、岩田騎手だとスローに落とすことが考えられるので、キレ負けしてしまう恐れもあります。

府中牝馬Sは馬群が凝縮し、有力馬の仕掛けがあまりにも遅かったためにスローの瞬発力勝負でもしのげましたが、リアルスティールやヴィブロスに同じ手が通用するのかは「?」が付きます。

初の海外遠征+牡馬相手のGⅠとあって、日本馬の中では人気が薄いとは思うものの、積極的に狙える要素があるのかと言えば……難しいところですね。この馬が好走しているのであれば、ある程度持続戦になっているはずで、ネオリアリズムやディアドラとセットで馬券圏内に入る可能性は高いでしょう。

 

まとめ

ドバイ・シーマクラシックとターフに出走馬について見てきましたが、日本から参戦する馬たちはどちらのレースでも勝つチャンスがあります。

大きな期待を背負うのはシーマクラシックのレイデオロ。大阪杯ではなくこのレースを選んだことも素晴らしいですし、古馬になってからどのようなパフォーマンスを出せるのかも楽しみです。

以上、お読みいただきありがとうございました。