フローラS(2018年)はディープインパクト産駒の逆襲があるのか?ーーエアレーション馬場の開幕週

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春の東京開催の開幕週に行われるGⅡフローラSは、3歳牝馬クラシックの第2冠・オークス(GⅠ・東京芝2400m)へのステップ・レース。昨年のモズカッチャン、一昨年のチェッキーノとこのレースを制した馬が続くオークスを2着と好走しており、先のGⅠを占う意味でも大切な1戦となります。

フローラSは「直線の長い東京コース」+「開幕週の速い馬場」という条件からも、しなやかなフットワークで走る馬に有利なレース。ところが、柔らかな体質としなやかなストライドを伝えるディープインパクトはこのレースを制した産駒がデニムアンドルビー1頭のみと、オークス馬やダービー馬を数多く出している種牡馬にしては物足りない成績となっています。

今年は多くのディープインパクト産駒が出馬登録をしており、そのなかからオークスを展望する素質馬が現れるのかに注目です。

 

東京の開幕週はハービンジャー馬場に?

昨年の3歳世代は「ハービンジャー産駒の当たり年」と呼ばれ、牝馬のディアドラとモズカッチャン、牡馬のペルシアンナイトがクラシックレースを好走すると、昨秋には3頭ともGⅠを制覇しました。

先にも述べたように、フローラSはモズカッチャンが素晴らしい瞬発力を発揮し、クラシック路線へと名乗りを上げたレースです。

2017年・フローラS(GⅡ・東京芝2000m)

1着モズカッチャン:父ハービンジャー

2着ヤマカツグレース:父ハービンジャー

3着フローレスマジック:父ディープインパクト

昨年のフローラSは2桁人気だったハービンジャー産駒のワンツーとなり、2人気に推されたフローレスマジックが3着に踏み止まりました。東京開催の開幕週となるレースにもかかわらず、欧州の重厚な血統をもつハービンジャーが活躍を見せたのはどうしてなのでしょうか?

 

エアレーション馬場はハービンジャー!

JRAはクッションの利いた「ソフト(柔らかい)」馬場を実現するため、エアレーション作業を導入しています。この作業は芝に穴を開けて路盤にをほぐすものです。これを開催の1ヶ月前に行うことで、芝コースはやや時計のかかる柔らかい馬場コンディションへとなります。

近年の東京、中山、福島などの競馬場では、開幕週でも極端にインコース有利な馬場ではなくなり、外差しが決まるのもエアレーション作業によるものでしょう。そして、このソフトな馬場に抜群の適性をもつのが、ハービンジャー産駒と言えます。

✳︎ただ、エアレーション作業が行われた馬場は踏み固められるに従って硬くなる傾向があり、開催が進むにつれて時計が速くなるのも特徴のひとつです。

ハービンジャーの血統や産駒の特徴については以下の記事に詳しく書いているので、よければご覧下さい。

 

ディープインパクトは苦戦?

しなやかにキレるディープインパクト産駒にとって、パワーの求められるソフトな馬場は「ずんどば!」な条件ではありません。もちろん、パワーに優れたディープ産駒もいるので、すべてがエアレーション馬場を苦手とするわけではないものの、細身の牝馬にとってはタフなコンディションであることは間違いないでしょう。

 

フローラSに出走予定のディープインパクト産駒

今年のフローラSは上位人気の推される馬がすべてディープインパクト産駒。どの馬も直線の長いコースを狙ってきた感が満載で、オークスに向けてどのようなレースをするのか、楽しみが広がりますね。

オハナ

ガールズバンド

サトノワルキューレ

サラキア

センテリュオ

ノーブルカリナン

レッドベルローズ

(50音順)

赤色でマークした馬が1〜5人気に推される(想定)馬たちです。それでは、1頭ずつ解説していきましょう。

 

オハナ 3歳牝馬

父:ディープインパクト

母:ハウオリ(母父キングカメハメハ)

厩舎:堀宣行(美浦)

生産:社台ファーム

デビューから2戦2勝で臨んだクイーンCは馬券圏内を外す4着。ただ、この敗戦は素質馬テトラドラグマの作ったハイペースを追走して苦しくなったもので、それほど悲観する内容ではありません。

 

血統

祖母ノースフライトはその父トニービンのパワフルなストライドを受け継ぎ、牡馬相手の安田記念とマイルCSを制した女傑。母ハウオリはそこに万能種牡馬のキングカメハメハが配され、祖母と同じ「持続的な末脚」を高確率で産駒に伝えます。

オハナの全兄キロハナは4勝、全姉のハナレイムーンは3勝と、産駒のすべてが2勝以上の活躍をしており、母ハウオリは間違いなく好繁殖牝馬です。母のもつキングカメハメハ×トニービンの組み合わせは種牡馬ルーラーシップと同配合で、産駒はズドーンとした末脚を受け継ぎます。

 

フローラSに向けて

ディープインパクト産駒としては、ズドーンと重厚なストライドで走るので、エアレーション馬場もそれほど苦にはしないでしょう。ただ、410kg台の細身の馬体は成長途上。2000mの距離は問題ないものの、多頭数で揉まれたときに馬群を割れるかどうかは不安が残ります。

堀宣行厩舎の管理馬ですから休み明けはそれほどマイナスではなく、この期間にどれだけ馬体がパワーアップしているのかが楽しみです。パワフルなストライド走法なので、もちろん東京コースはずんどば!

 

サトノワルキューレ 3歳牝馬

父:ディープインパクト

母:ヒアトゥウィン(母父Roi Normand)

厩舎:角居勝彦(栗東)

生産:下河辺牧場

サトノワルキューレのここ2走はこの時期の牝馬として過酷な芝2400mのレース。このことから、管理する角居調教師はこの馬の豊かなスタミナ能力を見抜いているのでしょう。

前走のゆきやなぎ賞は直線で抜け出した素質馬エタリオウをきっちりと捕らえる勝利。牝馬らしい「キレ」というよりもパワフルなストライドが最大の特徴で、エアレーション馬場も苦にしないディープインパクト産駒です。

 

血統

母ヒアトゥウィンはブラジル産。現役時代は南アフリカのGⅠを2勝、アメリカのGⅢを1勝した活躍馬です。母系は母父Roi NormandがRaise a Native系で非Northern Dancerとなっており、母母Ascot BelleにLyphardとNijinskyを経由するNorthern Dancerのクロスが入ります。

サトノワルキューレはLyphard4×5のクロスをもつため、ディープインパクト産駒としてはジェンティルドンナやスピルバーグ=トーセンラーなどと似た配合。この馬がパワーとスタミナに優れているのは、このクロスによるものです。

 

フローラSに向けて

デビューから3戦ともにM・デムーロ騎手が手綱を取っているのは重賞レースを走る上で大きなプラス。角居厩舎+下河辺牧場+M・デムーロ騎手の組み合わせは菊花賞馬キセキと同じですから、初重賞挑戦でも各負けはしません。

ディープインパクト産駒としてはしなやかにキレるというよりも、パワフルなストライドでグングンと加速するタイプで、東京の開幕週もOK。フローラSは2000m以上のレースからのローテーションと好相性なだけに、期待は大きいですね。

 

サラキア 3歳牝馬

父:ディープインパクト

母:サロミナ(母父Lomitas)

厩舎:池添学(栗東)

生産:ノーザンファーム 

デビュー戦を勝ち上がって臨んだチューリップ賞は4着と敗退し、桜花賞の権利を取ることができませんでした。その後はオークスに向けて休養を挟み、フローラSへ臨みます。1勝馬だけに、オークス出走のためにも2着以内に入りたいところでしょう。

 

血統

昨年のエルフィンSを勝ったサロニカの全妹。母サロミナは独オークス馬。その父Lomitasは独GⅠバーデン大賞(芝2400m)の勝ち馬で、種牡馬としても凱旋門賞馬のデインドリームを輩出するなど、中距離馬の血統です。

母系は代々ドイツ血脈で固められており、しなやかなディープインパクトとも好相性。サラキアも姉のサロニカと同じく胴の長い中距離馬で、1600mよりも2000mでパフォーマンスが上がるタイプでしょう。

 

フローラSに向けて

サラキアも姉のサロニカと同じく揉まれ弱さを感じさせる走りで、逃げるにしろ追い込むにしろ「スムーズ」なレースができるのかが最大のポイント。母系は豊かなスタミナに溢れているだけに、2000mの距離に大きな不安はありません。

スタートの不安定さが最大のネックで、エアレーション馬場で外差しが利きやすいとは言っても、最後方から直線だけの競馬だと勝つのは至難の技です。揉まれ弱い気性からも、中よりも外の枠でスムーズに競馬ができるならチャンスも……。また、細身の馬体なので、長距離輸送で大きく身体を減らさないかも心配点ですね。

 

センテリュオ 3歳牝馬

父:ディープインパクト

母:アドマイヤキラメキ(母父エンドスウィープ)

厩舎:高野友和(栗東)

生産:ノーザンファーム 

デビュー戦を快勝して臨んだ前走の君子蘭賞は、1人気に支持されながらも素質馬ロケットの快走の前に2着と敗退。ただ、この馬もしっかりと連対を確保する走り見せており、牝馬同士のレースであれば重賞でもチャンスは十分にあります。

 

血統

母アドマイヤキラメキはカンパニー、トーセンジョーダンなどのGⅠ馬を出しているクラフティワイフ牝系の出身。全兄のトーセンスターダムはきさらぎ賞とチャレンジCを制した重賞馬だけに、センテリュオにも大きな期待がかかります。

父ディープインパクト×母父エンドスウィープ(フォーティナイナー系の中でもっともしなやかさを伝える種牡馬)ですから、センテリュオも直線の長いコースをしなやかにキレるタイプに出たのは順当。配合上の柔らかさを締めているのが祖母エヴリウィスパーのノーザンテーストで、これがなければ馬体の緩い産駒に出てしまう恐れもありました。

重賞を勝つのに十分な血統構成をしており、アドマイヤキラメキの父がトニービンだったら、満点の配合形です。

 

フローラSに向けて

前走の君子蘭賞はフローラSと好相性の臨戦過程。その前走はロケットの快走に屈したものの、この馬も能力をしっかりと見せており、悲観する内容ではありません。

直線の長いコースがベストなだけに、東京替わりにも不安はありませんし、新馬戦のように前々で流れに乗れれば、開幕週のエアレーション馬場もそれほどマイナスにはならないでしょう。

こちらもサラキアと同じく1勝馬ですから、ここでオークスの権利をしっかりと取っておきたいですね。

 

レッドベルローズ 3歳牝馬

父:ディープインパクト

母:レッドファンタジア(母父Unbridled's Song)

厩舎:鹿戸雄一(美浦)

生産:ノーザンファーム 

フェアリーS→クイーンCとハイレベルなマイル重賞では連対こそ果たせませんでしたが、2000mへと距離を延ばした前走のミモザ賞は余力十分に快勝。中距離馬としての素質の高さを示しました。

 

血統

名種牡馬Unbridled's Songはサンデーサイレンス系の種牡馬と好相性を誇ります。大阪杯を勝ったスワーヴリチャードや菊花賞馬のトーホウジャッカル、朝日杯FSのダノンプラチナなど、その配合馬はしなやかなストライドで走るのが特徴です。

レッドベルローズの母系はUnbridled's Song×Storm Cat×Phone Trickと北米のスピードを伝える種牡馬が代々配されており、あきらかに高速の芝に向いています。直線の長い東京コースはずんどばなものの、エアレーション馬場にはやや不安が……。母系の奥に単調なスピードとパワーを伝えるPhone Trickが入るので、この血が発現していれば、多少タフな馬場もこなしますが……。

 

フローラSに向けて

ディープインパクト産駒としてはほぼ満点の配合で、直線の長いコースをバキューンと差す脚が最大の武器。また、本質的には中距離馬なので、追走に脚を使ってしまうマイルよりも、ペースの緩む2000m前後の距離がベストです。

前走ミモザ賞を快勝したのは強気になれますが、ここまで押せ押せのローテーションとなっており、余力を残しているのかが心配です。とは言え、長距離輸送もないので、フローラSまではしっかりと体調を整えているはず……。

能力は間違いないので、後は体調面が整っているかだけでしょう。

 

その他の注目馬

上位の人気には推されないものの、配合として注目したいのはノーブルカリナンです。この馬についてはフラワーCの予想記事で血統や走りなどを解説しているので、よければそちらをご覧下さい。

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まとめ

今年の3歳牝馬世代はディープインパクト産駒の大物が不在。それだけに、フローラSに出走する馬たちには大きな期待がかかります。

アーモンドアイやラッキーライラックを脅かす素質馬が現れるのでしょうか?

以上、お読みいただきありがとうございました。