GⅢ京成杯AHはエアレーション作業の実施によって開幕週から「外差し」になるのか?ーーレース展望

f:id:hakusanten:20170905071215j:plain

秋の中山開催の開幕週は土曜日にGⅢ紫苑S(芝2000m)、日曜日にGⅢ京成杯オータムハンデ(芝1600m)と2つの重賞が組まれ、ともにこの後のGⅠへつながる大切な1戦となります。京成杯AHは'12年にレオアクティブが1分30秒7の日本レコードをマークしてから少しずつ時計が出にくくなり、過去2年('14年は新潟開催)は1分33秒台の決着がデフォルト。これは'13年の秋から開催の1ヶ月前に馬場の路盤をほぐすエアレーション作業を行うようになったことが理由として挙げられます。これにより中山競馬場は開幕週でも外差しの決まりやすいソフトな馬場でレースが行われ、時計もいくらかかかるようになりました。京成杯AHは「クッションの効いた柔らかい馬場」+「外差し」を得意とするような馬をピックアップするのが予想の入り口と言えるでしょう。

 

開幕週から外差しの利くエアレーション馬場

夏競馬が終わると、JRAは関東圏が中山競馬場、関西圏が阪神競馬場の2場開催。秋の阪神競馬場の芝コースは「インコース有利(インベタ)」+「時計が速い」というのがデフォルトで、これは開幕週のメインレース「GⅡセントウルS」の過去の成績を見るとはっきりわかります。

*GⅡセントウルSの傾向については以下の記事をご覧下さい

阪神開幕週のGⅡセントウルSはインベタ馬場ーーフィドゥーシアが先行から押し切れるのか? - ずんどば競馬

秋の中山開催は阪神とは異なり、芝コースは「エアレーション作業」によってクッションが効いて柔らかく、インコースを通った逃げ・先行馬がバンバン残るような馬場ではありません。京成杯AHもここ2年はこの傾向が顕著で、ハイペースでなくとも外からの差しが決まりやすい馬場になっています。以下の表は過去5年('14年は新潟開催のため除く)の京成杯AHの成績をまとめたものです。

 

京成杯AHの過去5年の成績

勝時計 着順 人気 馬 名 通過順位
2016 1:33.0 1 1 ロードクエスト 12 - 10 - 6
2 6 カフェブリリアント 8 - 7 - 8
46.4 - 46.6 3 3 ダノンプラチナ 13 - 12 - 10
2015 1:33.3 1 13 フラアンジェリコ 15 - 15 - 15
2 11 エキストラエンド 9 - 4 - 4
47.0 - 46.3 3 7 ヤングマンパワー 6 - 9 - 9
2013 1:31.8 1 3 エクセラントカーヴ 6 - 5 - 4
2 2 ダノンシャーク 9 - 8 - 7
45.2 - 46.6 3 7 ゴットフリート 2 - 3 - 3
2012 1:30.7 1 2 レオアクティブ 12 - 12 - 10
2 6 スマイルジャック 8 - 9 - 6
45.1 - 45.6 3 4 スピリタス 8 - 7 - 6

JRAは安全性(競走馬の事故を未然に防ぐ、または少なくする)を高めるため、近年、各競馬場の馬場の硬度を下げる「柔らかい馬場造り」を押し進めています。'12年に芝1600mの日本レコードが出た中山競馬場では、'13年の秋から開催の約1ヶ月前に「エアレーション」作業を実施。この作業によって馬場のクッション性が高まり、ここ2年は開幕週から差しの決まるレースが多くなりました。

上の表を見ても、'16年と'15年は前後半の800mがイーブンか後傾ラップにもかかわらず、後方を追走した馬の外差しが決まっています。'14年の新潟代替開催以降は1分33秒台の決着になっており、今年も1分33秒0前後+外差しとなる公算が大きく、差し馬の取捨がポイントとなるでしょう。

 

今年はマルターズアポジーを含め、逃げ・先行馬がズラリと揃い……

今年の京成杯AHはデビューからすべてのレースで「逃げ」ているマルターズアポジーが出走を予定し、それ以外にもボンセルヴィーソ、ノットフォーマル、ダノンリバティ、マイネルアウラート、ウインフルブルームと逃げ・先行馬がズラリと揃いました。

スタートセンスの抜群のマルターズアポジーに競りかけてまで他馬がハナを主張するかは「?」がつくものの、この馬が逃げ切った関屋記念のようにスイスイとマイペースでレースを運べるのかは微妙なところ……。出走予定馬を見たかぎり、やや先行馬に苦しい流れになるのではという印象です。

 

外差し候補の馬は?

出馬登録上で後方からの差しに回りそうな馬は5頭。もちろん、出走するかどうか、また枠順によっても道中どのようなポジションを取るのかは不透明ですから、あくまで想定ということでご了承下さい。五十音順に並べると以下の通りです。

 

差し馬候補の5頭

馬 名 歳性 騎 手 厩 舎
ウキヨノカゼ 7牝 横山典弘 菊沢隆徳 美浦
ガリバルディ 6牡 北村宏司 藤原英昭 栗東
グランシルク 5牡 田辺裕信 戸田博文 美浦
ダノンプラチナ 5牡 蛯名正義 国枝栄 美浦
ロードクエスト 4牡 未定 小島茂之 美浦

グランシルクとダノンプラチナの2頭は上位の人気に支持されることが予想されます。それにしても、戸田調教師の管理馬グランシルクは中山芝1600mを捲らせたら「現役屈指」の田辺裕信騎手が乗ることに……。この組み合わせはグリグリの人気になりそうですね。一方のダノンプラチナは直線の長いコース向きのストライド走法で、昨年の3着は能力がコース適性を上回ったという好走。今年も蛯名ダンスとともに外からの捲りでしょう……。この後はグランシルクとダノンプラチナの2頭をそれぞれ解説していきます。

 

グランシルク 5歳牡馬

父:ステイゴールド

母:ルシルク(母父:Dynaformer)

厩舎:戸田博文(美浦)

3歳時にNZT2着→NHKマイルC5着と好走した馬で、5歳を迎えた今年は重賞でも安定して力を発揮できるようになりました。古馬になってからの成績が(2 - 4 - 3 - 3)と詰めの甘さがあり、今年は(0 - 3 - 2 - 0)とさらに安定感が増した分だけ勝ち切れていません。

父ステイゴールド×母父Dynaformer(Roberto直仔)ですからパワーに富んだ配合で、差し馬ながら小回りの中山でも(2 - 3 - 3 - 2)と好成績を上げているように、パワーで捲るのがもっとも得意とする形です。前走の中京記念でも福永騎手がドンピシャのタイミングで仕掛けたものの、逃げたウインガニオンを捕まえることができずに2着。直線の長いコースだとストライドが伸び切らないので、どうしてもキレ負けしてしまいます。

今走はグランシルクの「詰めの甘さ」を田辺騎手が一押しできるかが最大のキーポイント。田辺騎手は捲り脚質の馬の力をきっちりと引き出すのが巧く、中山の3〜4コーナーで馬に負担をかけずにスピードを上げられる技術は現役屈指と言っていいでしょう。

不安点があるとしたら、マルターズアポジーを含めて先行馬がオーバーペースを作ってしまったときで、あまりにも全体の時計が速くなり過ぎるようだと1分33秒台を切ったことのないグランシルクにとっては苦しい流れになってしまうかもしれません。

 

ダノンプラチナ 5歳牡馬

父:ディープインパクト

母:バディーラ(母父:Unbridled's Song)

厩舎:国枝栄(美浦)

2歳時にGⅠ朝日杯FSを制した素質馬。もてる能力はGⅠ級とは言え、蹄の不安があるためあまりレースを詰めて使えないことと、びっしりと調教できないのがこの馬のウィークポイントです。

ディープインパクト産駒らしいしなやかなストライドとキレる脚が最大の長所で、阪神の外回りのGⅠを制したように直線の長いコースが合っているストレッチランナー。その柔らかい体質は走るフォームからも一目瞭然で、とくに2〜3歳時は子鹿がぴょんぴょんと飛び跳ねるようなしなやかさがあって、ため息が出るほどに美しいストライドでした。

ただ、昨年の京成杯AHあたりから、古馬になって筋肉が硬くなってきたからなのか、強い調教が出来ないために馬体が緩い状態で出走しているからなのかはわからないものの、ややしなやかさに欠ける(俊敏というよりはモタモタしている)ストライドで走るようになっており、その点だけが心配です。

ディープインパクト×母系にUnbridledを引く牝馬は言わずと知れたニックスで、ダノンプラチナの他にもダコールとブランボヌールの兄妹など活躍馬は多数。しなやかにキレるタイプが多く、直線の長いコースがベターの配合と言えます。そう言えば、競走馬として晩年を迎えていたダコールが小回りの小倉や福島で捲り差しで好走していたのも、もしかしたら加齢とともにしなやかさ<パワーへと体質が変化していたからなのかもしれません。そう考えると、ダノンプラチナも今は中山をこなせても……。

賞金加算+体調が万全であれば、京都芝1600mの外回りコースで行われるGⅠマイルCSは適正としてはずんどばな舞台で、モーリスのいないマイル路線であればこの馬にも十分にチャンスはあります。そのためにも京成杯AHは賞金を加算したいところでしょう。蹄に不安のある馬がレース間隔を詰めて使うのですから、陣営としても勝負がかりの1戦。

 

京成杯AHでの2頭の比較は?

マイラーとしての「格」であればダノンプラチナが上で、コース適正としてはグランシルクが上位。2頭のどちらともパワーの要るエアレーション馬場はOK。反対にあまりにペースが速すぎると両馬のもち味が活きないので、前傾ラップだとしても1.0秒差以内のバランスが望ましいと言えます。

2頭にはハンデ差がつきましたが、ダノンプラチナよりもグランシルクが2kg軽いのは実績から考えてもかなり有利。ダノンプラチナは昨年も58kgを背負って3着と好走しているので大きな問題はないとは言え、他馬と斤量差がある分だけなおさら時計の速い決着は望ましくありません。

ダノンプラチナはというか蛯名騎手はスタートが安定しないので、スタートで大きく後手を踏むようなことがなければいいのですが……。

 

まとめ

秋の中山開幕週がエアレーション作業によって外差し馬場になるようであれば、中団よりも後方で脚をためるグランシルクとダノンプラチナにとってはシメシメの展開になりますね。ただ、この2頭は1、2番人気が想定されているので、中山の開幕週→外差し馬場というのは競馬ファンにも少しずつ定着してきているのでしょうか……。

もちろん、外差し馬場になっているのかはしっかりと土曜日のレースをチェックしておかないといけません。JRAの馬場を読むことは本当に難しいので。

秋の中山開催の外差し馬場については下の記事に詳しく書いていますので、よければご覧下さい。

秋の中山開催開幕週はエアレーション作業によって2017年も「外差し」になるのか?ーー馬場考察 - ずんどば競馬

 

以上、お読みいただきありがとうございました。