桜花賞(2018年)はロードカナロア産駒のアーモンドアイが大外バキューンで1着!ーー回顧

f:id:hakusanten:20180312232625j:plain

3歳牝馬クラシックの第1冠「桜花賞(阪神芝1600m)」は、2人気のアーモンドアイが直線で大外に出すと、好位のインから抜け出した1人気ラッキーライラックを並ぶ間もなく差し切り1着でゴールしました。勝ちタイムの1分33秒1(良)はレースレコード。

 

桜花賞のポイント

母系に気難しいVaguely Nobleの血を引くラッキーライラックは、馬群に揉まれる可能性の高い最内枠に入ったことが不安視されたものの、蓋を開けてみれば、好位のインでしっかりと我慢のきいた走りを見せました。

ソツのないレース運びから抜群のタイミングで抜け出しを図った2歳女王を涼しい顔で差し切ったのは、同じノーザンファーム生産のアーモンドアイ。ロードカナロア産駒らしいバネの利いたしなやかなフットワークはいかにも外回りコース向きです。

この種牡馬が産駒に伝える「柔らかさ」や「しなやかさ」は、バキューンと弾ける脚を使える馬が強い桜花賞に向いた走りと言えます。初年度産駒から桜花賞馬を出したロードカナロアとディープインパクトには「似た」ような特徴を産駒に伝えているのでしょう。

 

アーモンドアイに適したペースに

勝ちタイムの1分33秒1は桜花賞のレース・レコード。アーモンドアイは上り3F33.2の脚を使っていることから、前半1000mを59.9で通過していることになります。マイルより長い距離に適性のあるこの馬にとって、「前半1000mが59秒を切るようなペース+馬群が縦長」だと追走に脚を使ってしまい、上り33秒台で追い込むことは難しかったはずです。

速い時計の出るコンディションだったことから、脚を削がれることなく直線に向くことができ、バキューンと弾けることができました。また、前半1000mで1F12秒台に落ちた区間が2つあったため、馬群が縦長にならなかったのも、アーモンドアイに向いたと言えるでしょう。

4コーナーから直線に向き、ルメール騎手が手綱をもったままにもかかわらずスピードが上がる加速力は「おおっ!」と思わず声が出たほどで、あの地点からしなやかにキレる脚を使えたのは、「時計の速い馬場」と「中盤でペースが緩む区間があった」ことによるもの。展開が向いたとしても、あの脚は「素晴らしい」以外の表現ができません。

 

ノーザンファーム生産馬の上位独占

今年の桜花賞はノーザンファーム生産馬が8頭出走。その内の6頭が上位の人気に推されたのですから、「桜花賞はノーザンファームの運動会」と揶揄されても仕方がありません。レースはアーモンドアイ、ラッキーライラック、リリーノーブルの3頭が上位を独占。今年も3歳クラシックはノーザンファームが中心となるのでしょう。

 

アーモンドアイ 3歳牝馬

父:ロードカナロア

母:フサイチパンドラ(母父:サンデーサイレンス)

厩舎:国枝栄(美浦)

生産:ノーザンファーム

シンザン記念からの直行となった「異例のローテーション」を成功させたのは、国枝厩舎の力だけではなくノーザンファームのレースに向けての調整力によるところも大きかったはずです。来年以降、桜花賞の検討をするときには「ノーザンファーム生産馬」であれば、「シンザン記念からの直行ローテでもOK」という項目も付け加えなければなりません。

ロードカナロアはしなやかさを伝える種牡馬だけに、その産駒の初GⅠ制覇が外回りコースの桜花賞というのはごく自然なことです。初年度産駒から桜花賞を制したのはディープインパクトと同じですから、この2頭の種牡馬は似たような特徴をもっていると考えられます。

 

ロードカナロア産駒の特徴

現3歳が初年度となるロードカナロアの代表産駒は、牝馬ならアーモンドアイ、牡馬ならステルヴィオがその筆頭。この2頭は大まかな特徴が似通っています。

1. しなやかな体質

2. おっとりとした気性

 

しなやかな体質

ロードカナロアの母レディブラッサムは子孫に「しなやかさ(=柔らかさ)」を伝える繁殖牝馬です。その特質を引く産駒の多くはしなやかなストライドで走り、直線の長いコースに向いています。桜花賞のアーモンドアイの走りこそ、ロードカナロア産駒のスタンダードと言えるでしょう。

 

おっとりとした気性

ロードカナロア産駒はおおむね父譲りの穏やかな気性をもち、レースでかかるような姿を見せることはほぼありません。気性がおっとりしていることで、産駒は父よりも長い距離を走ることができます。アーモンドアイやステルヴィオがマイルだと促しながらの追走になるのも、本質的に1800m以上の距離に適性があるからでしょう。

また、穏やかで手のかからない気性はそれだけレースでも能力を発揮しやすく、調整も難しくありません。産駒がコンスタントに走るのもロードカナロアの特質の1つです。

 

今年の桜花賞のパフォーマンスは?

今年の桜花賞の勝ちタイム1分33秒1は、2016年に1着ジュエラーと2着シンハライトがマークした1分33秒4を凌ぐもの。ジュエラーも後方からバキューンと追い込むレースでしたから、この2年のラップを比べてみると、アーモンドアイのパフォーマンスの高さがわかります。

2016年

勝ちタイム:1分33秒4

12.4 - 10.7 - 11.7 - 12.3 - 12.0 - 11.4 - 11.3 - 11.6

----------

2018年

勝ちタイム:1分33秒1

12.3 - 10.7 - 11.5 - 12.1 - 12.1 - 11.5 - 11.3 - 11.6

良馬場で行われたこの2つのレースは、1Fごとの差が0.2以内におさまる似通ったペースですから、レベルとして近いものがあると言えるでしょう。

16年1着のジュエラーは骨折のためオークスには不出走だったものの、2着のシンハライトはオークスを完勝。アーモンドアイとラッキーライラックは上記の2頭とほぼ同じ競走能力を桜花賞で示しており、オークスに向けても視界良好です。

 

オークスに向けて

アーモンドアイの適距離は1800〜2000m。オークスやダービーは「2000mベスト」の中距離馬が活躍する舞台ですから、2400mであっても大きな不安はありません。この馬のしなやかなフットワークはいかにも東京向き。

桜花賞をハイパフォーマンスで走った中距離馬がオークスで凡走することは少なく、心配な点を上げるとすれば、3ヶ月の休み明けでGⅠを好走した反動……。その点のケアについては牝馬3冠のアパパネを管理した国枝厩舎の調整力に期待しましょう。

 

ラッキーライラックとリリーノーブルについて

ラッキーライラックは1人気らしい堂々とした走りで2着を確保しました。直線大外から一気にスピードを上げてきたアーモンドアイに抵抗できなかったものの、オークスに楽しみがもてる敗戦だったと言えます。

3着のリリーノーブルは器用さを存分に発揮した好走。好繁殖牝馬の母バプティスタはどんな種牡馬を配してもコンスタントに活躍馬を出す反面、GⅠには後一歩届かないのがデフォルト。今走も崩れることなく馬券圏内に入った走りは素晴らしいの一言です。ヴィクトワールピサ産駒ということを考えると、オークスよりも秋華賞向きでしょう。

 

ラッキーライラック 3歳牝馬

桜花賞は先行押し切りより、ハープスターやジュエラーのような「後方バキューン」が決まりやすいレースですから、この敗戦は悲観するものではありません。父オルフェーヴルがマイル向きのスピードを好確率で伝える種牡馬ではない(✳︎)ですから、桜花賞を1分33分4秒で走破したことは高く評価できます。

✳︎オルフェーヴルは産駒にスピード能力を確実に伝えるだけの「血統」の裏付けが薄い種牡馬です。

パワーとしなやかさを合わせもった馬で、オークスの行われる東京芝2400mは不安の少ないタイプ。名血・名繁殖牝馬の母ライラックスアンドレースはアエロリットやミッキーアイルなどの小気味好い先行馬が出る牝系出身なので、ラッキーライラックが上り3F34秒台のレースにもち込めれば、アーモンドアイを逆転する可能性も十分です。

チューリップ賞→桜花賞→オークスのローテーションのなかでもっとも厩舎力が試されるのは休み明け3戦目。この馬がさらなる上積みをもってオークスに臨めるのかは松永幹夫厩舎にかかっていると言えます。

 

クラシック路線の新境地を開いたノーザンファーム

今年の桜花賞は上位の馬たちの素晴らしい走りに目が奪われましたが、それ以上に注目したいのは「ノーザンファーム」の調整力。長い伝統があるクラシック・レースは、ほぼローテーションが固定されているのが大きな特徴です。桜花賞は馬場が改修された2007年から、チューリップ賞組と阪神JFの好走馬、エルフィンS1着馬しか勝ち馬が出ていません。

今年はシンザン記念からの3ヶ月の休み明けで臨んだアーモンドアイが勝利したことにより、ノーザンファームの調整力がズバ抜けて優れていることが示されました。新境地を開拓できたのは、「しがらき」や「天栄」などの育成・調整施設があればこそで、今後もノーザンファームだけは「ローテーション」の縛りを受けないのでしょう。

 

4着以下について

5着のマウレアは全姉アユサンよりも長手の馬体をした中距離馬とあって、マイルで前半が流れてしまうとビュンとした脚を使えないのは納得です。クイーンC→チューリップ賞→桜花賞とすでに今シーズンを3戦し、今走は栗東滞在まで敢行したことから、オークスでさらなる上積みを期待するのは……。ただ、東京芝2400mはベストな舞台。

◎に期待したレッドサクヤは7着。ただ、4着トーセンブレスから9着ツヅミモンまでタイム差なしのものですから、現状の力は発揮できたと思います。松山弘平騎手らしく積極的な先行策で、観戦料としては十分な走りでした。

 

注目は10着のプリモシーン

今後に向けての注目馬は10着プリモシーン。馬体は今年の桜花賞に出走したディープインパクト産駒の中でも「NO.1」じゃないかと思えるほどで、「出遅れ+4コーナーから直線で前が詰まる」というレースでしたから、この敗戦は致し方なし……。

オークスの舞台はずんどばなので、上積みを含めてディープインパクト産駒ならこれが最上位でしょう。アーモンドアイと同じく前走から間隔を空けたのも好感がもてますし、東京芝2400mなら戸崎騎手もそうそう前が詰まることはないはず……。もてる能力を発揮できさえすれば、GⅠでも引けを取らない馬だと考えています。

 

まとめ

今年の桜花賞はアーモンドアイの素晴らしい脚、ラッキーライラックと石橋脩騎手の1人気に応える堂々とした走りが堪能できたレースでした。3歳クラシックの幕開けはノーザンファーム生産馬の上位独占となり、2018年もまた「コレ」を念頭において馬券を組み立てなければなりませんね。

以上、お読みいただきありがとうございました。