3歳牝馬クラシックの第1冠・桜花賞(GⅠ・阪神芝1600m)は、2人気のアーモンドアイが1人気のラッキーライラックを素晴らしいフットワークで差し切り、父ロードカナロアに初GⅠをプレゼントしました。
ロードカナロア産駒は、牝馬クラシックを制したアーモンドアイに続き、牡馬ステルヴィオが皐月賞にエントリー。新種牡馬の仔が2週連続のGⅠ制覇となるのかに注目です。
新種牡馬ロードカナロア
ステルヴィオとアーモンドアイの父ロードカナロアは、2017年の「2歳リーディング」で2位に入り、新種牡馬として好スタートを切りました。ディープインパクトやキングカメハメハといった大種牡馬が高齢になりつつあり、日本の競馬を引っ張る存在として大きな注目が集まっています。
産駒は父譲りのスピードと穏やかな気性をもち、しなやかなストライドで走るのが最大の特徴です。初GⅠ制覇の舞台が阪神外回りコースの桜花賞というのも、ロードカナロア「らしさ」を表していると言えるでしょう。
産駒の特徴
ロードカナロア「らしさ」が表現されているのが、アーモンドアイとステルヴィオの2頭。まずはこの2頭の特徴をおさらいしておきましょう。
1. しなやかなストライド走法
2. 穏やかな気性
3. 適距離はマイルよりも長め
しなやかなストライド走法
ロードカナロアは現役時代に1200mのレースを中心に走りました。スプリンター(1400mベストのスプリンター)としては体質が柔らかく、ストライドの伸びる走りが最大の特徴です。
もてるスピードの値がもともと高いため、小回り・内回りのスプリント戦でも先行していましたが、マイルの安田記念を中団からバキューンと差し切ったように、本質的には直線の長いコースを得意とします。
産駒にもその特徴は受け継がれ、ステルヴィオとアーモンドアはともに「しなやかなストライド」で走り、直線の長いコースがベストのタイプです。
穏やかな気性
父はスプリンターらしい「前進気勢」の強い馬ではなく、レースにおいて「ガッーとかかってしまう」ような姿を見せることはありませんでした。おっとりとした穏やかな気性だからこそ、マイルGⅠの安田記念を制することができたのでしょう。
産駒はレースでかかるシーンを見せることが少なく、スピードの違いで逃げ・先行することはあるものの、中団〜後方からバキューンと差す脚を発揮する馬が多く出ています。
✳︎この気性的な穏やかさは、「レースで集中力を欠く」や「馬群に揉まれると嫌気を出す」などの、精神的な脆さとは異なるものです。
適距離はマイルよりも長め
産駒は父よりも長めの距離をこなし、ベストの距離は1600〜2000m。おっとりとした気性からレースにおいてかかるところがなく、しなやかな体質は追走に脚を使う速いペースが合わないことから、マイルよりも長い距離に向く馬が多いと言えます。
アーモンドアイはスタートで後手を踏んだことを差し引いても、桜花賞の前半1000mを59.9で追走し、上り3F33.2の脚で差し切ったことから、ラップのバランスは中距離馬の「ソレ」です。この馬も1800m以上の距離がベスト。
2頭の血統構成は似ている
アーモンドアイとステルヴィオの2頭はその血統構成も似通っています。前者の母フサイチパンドラは父サンデーサイレンス×母父Nureyev、後者の母ラルケットは父ファルブラヴ×母父サンデーサイレンスという配合。
Nureyevは名牝Specialを母にもつNorthern Dancer直仔。ファルブラヴの父フェアリーキングはNureyevと4分の3同血の間柄ですから、フサイチパンドラとラルケットは父と母父を逆さまにした血統構成です。
アーモンドアイはNureyev5×3のクロス、ステルヴィオはNureyev≒フェアリーキング5×3のニアリークロスをもち、ともに名牝Specialの「キレ」とNorthern Dancerの「パワー」が発現しています。この2頭が直線でバキューンと弾ける脚を使えるのは、母系の血がロードカナロアにフィットしているからです。
ステルヴィオ 3歳牡馬
父:ロードカナロア
母:ラルケット(母父ファルブラヴ)
厩舎:木村哲也(美浦)
生産:ノーザンファーム
騎手:C・ルメール
ステルヴィオはアーモンドアイと同じ「ノーザンファーム生産+C・ルメール騎手+ロードカナロア産駒+関東馬」という組み合わせ。馬主がサンデーレーシングという点だけが異なります。
C・ルメール騎手がデビューから手綱を取り続けており、GⅠレースに欠かすことのできない「人馬の信頼関係」はバッチリです。
サウジアラビアRCと朝日杯FSで完敗を喫したダノンプレミアムが皐月賞を回避し、皐月賞のメンバーを見渡しても実績は最上位のものがありますね。
ノーザンファーム生産馬
今年の桜花賞はノーザンファーム生産馬が1〜3着を独占しました。現在日本の馬産をリードするこの生産牧場は、「しがらき」や「天栄」などの育成・調整施設をもち、レースに向けての準備をしっかりと整えられる「組織」です。
アーモンドアイがシンザン記念からの異例のローテーションで桜花賞を制することができたのも、馬個体の能力や厩舎と騎手の手腕にプラスして、「ノーザンファーム」の調整力があったからでしょう。
馬個体の能力を抜きにすれば、ノーザンファーム生産馬のステルヴィオは皐月賞を制するのに最も近い1頭と言えます。
木村哲也厩舎
2011年、美浦に開業した木村哲也厩舎は、これまでにアルビアーノやゼーヴィントなどの重賞馬を出している期待の若手です。ノーザンファームとのつながりも強く、GⅠに手が届くだけの厩舎力を備えています。ステルヴィオは好素材だけに、厩舎初のGⅠ制覇も現実的なものになってきました。
ノーザンファーム生産馬+C・ルメール騎手であれば、高い複勝率を誇る厩舎ですから、皐月賞は勝負がかりでしょう。
皐月賞に向けて
朝日杯FS2着の後に休養に入ると、休み明けとなったスプリングSを1着と好走し、万全の態勢で皐月賞へ向かいます。レースに向けての「準備」の面では出走予定馬のなかでも最上位にあるので、不安点があるとすれば「馬個体の適性や能力」です。
ステルヴィオの不安点はひとつあります。
小回りの中山コース
小回りの中山コース
先にも述べたように、ステルヴィオはしなやかなストライドで走るタイプですから、ベストは直線の長いコースです。前走のスプリングS1着は中山コースも苦にしない走りだったものの、ルメール騎手がストライド・ロスなく4コーナーを回るために外へ膨れたことからも、ベストのコースではありません。
皐月賞はスプリングSよりも全体のペースが厳しくなるため、あのコーナリングで直線外へ出しても届くのかは「?」が付きます。3〜4コーナーで前と離されないようにスピードを上げるには、ストライドロスを少なくする必要があり、イン→アウトに「ワープ」した「2016年の皐月賞を制したドゥラメンテの走り」をルメール騎手ができるのかどうか……。
✳︎2015年の皐月賞はドゥラメンテに騎乗したM・デムーロ騎手が4コーナーで斜行し、他馬に被害を与えました。ストライドで走る馬のスピードを落とさずに小回りの4コーナーを回るためには、ミルコ騎手の騎乗法は理に適っているものの、これは危険な走法です。
また、このときにドゥラメンテから被害を受けたサトノクラウンに騎乗していたのはルメール騎手ですから、ミルコ騎手のように乗って「しまう」可能性は低いと思います。
内枠に入ると
アーモンドアイが「バキューン」とした脚を使うとするなら、ステルヴィオは「ズドーン」という印象です。どちらもしなやかなフットワークですが、後者はより男性的な末脚と言えるでしょう。
ズドーンとした末脚は加速に時間がかかるため、3〜4コーナーで前が詰まってスピードを落とすようだとアウト。内枠だと前が詰まること、一度後方に下げてから押し上げる2つのリスクがあるので、中ほどの枠が欲しいところでしょう。
今年はワグネリアン、ジャンダルム、グレイル、タイムフライヤーなど外目を捲る可能性のある馬が多く、昨年のペルシアンナイトのようにインコースをスルスルと押し上げられる可能性も……。ただ、こればかりはスタートしないとわかりませんから。
まとめ
新種牡馬ロードカナロアの産駒+C・ルメール騎手が2週続けてのGⅠ制覇となるのか、今から皐月賞が楽しみです。
以上、お読みいただきありがとうございました。