芝中距離の「女王」を決めるエリザベス女王杯(GⅠ・京都芝2200m)は、ドバイターフを制したヴィブロス、牡馬相手の京都大賞典(GⅡ・京都芝2400m)を快勝したスマートレイアー、2015年の2冠馬ミッキークイーンなど実力の古馬がズラリと顔を揃えました。
秋華賞1〜3着のディアドラ、リスグラシュー、モズカッチャンの3歳馬については、以下に詳しい解説記事を書いていますので、よければそちらをご覧下さい。
エリザベス女王杯(2017年)に出走する3歳馬ディアドラ、リスグラシュー、モズカッチャンの3頭を解説!ーー展望 - ずんどば競馬
若さあふれる3歳馬の挑戦を、実力のある年長馬たちは跳ね返すことができるのでしょうか?
今回の記事では、エリザベス女王杯に出走する4歳以上の有力馬について、1頭ずつ解説していきます。
上位人気の支持を受ける古馬
今年のエリザベス女王杯は「1〜4人気までを古馬が占めるのでは……」と言われています。上位の人気に推される4頭は以下の通りです。
▼1〜4人気に推される古馬
ヴィブロス
スマートレイアー
ミッキークイーン
ルージュバック
(50音順)
ジェンティルドンナやショウナンパンドラなど、芝中距離路線でGⅠ級の力をもつ牝馬はジャパンカップへ出走することがままあるものの、今年は実力馬がエリザベス女王杯へと駒を進めてきました。それでは、1頭ずつ解説していきます。
ヴィブロス 4歳牝馬
父:ディープインパクト
母:ハルーワスウィート(母父:Machiavellian)
厩舎:友道康夫(栗東)
生産:ノーザンファーム
昨年の秋華賞を制したヴィブロスは、今春に牡馬相手のドバイターフ(GⅠ)へ出走すると、モレイラ騎手のアクションに応えて後方から差し切り、GⅠ2勝目を上げました。休前走の府中牝馬S(GⅢ・東京芝1800m)は、スローペースで逃げたクロコスミアを捕まえ切れませんでしたが、上り3F33.2の脚でしっかりと2着を確保。ドバイからの休養明け初戦としては上々の走りを見せ、エリザベス女王杯へと向かいます。
血統
母ハルーワスウィートは、ヴィルシーナ=ヴィブロスの全姉妹、今年の天皇賞・春2着のシュヴァルグラン(父ハーツクライ)とGⅠ級の仔をポンポンと産む「名繁殖牝馬」。
ヴィブロスは4代母の名牝Glorious Song(種牡馬Rahyとシングスピールの母)に遡る「名牝系」の出身。ディープインパクトを配し、母のもつHalo3×4を継続することで、俊敏な加速と器用なコーナリングを武器とする馬へと成長しました。
ヴィブロスとディアドラの類似点
ヴィブロスとディアドラの母ライツェントは、配合がとてもよく似ています。
・ヴィブロス
ディープインパクト×Machiavellian×Nureyev
・ライツェント
スペシャルウィーク×Machiavellian×Nureyev
2頭ともに父がサンデーサイレンス直仔で、母父と母母父が同じ。Haloクロスらしい俊敏さを武器に、小回りを素軽く捲れる配合です。
秋華賞の4コーナーで、ディアドラが苦もなく馬群をさばいたのは、ルメール騎手の手腕だけではなく、ライツェントのもつHalo3×4のクロスによるもので、これはインから外へと一気に加速したドバイターフでのヴィブロスの走りと重なります。
エリザベス女王杯へ向けて
ヴィブロスは小回りの1800〜2000mがベストコースで、2200m外回りはやや適性とはズレる舞台。下り坂を利してスムーズに加速できるので、京都コースはプラスとなります。
エリザベス女王杯は何度も手合わせをしている牝馬同士で争われるため、基本的には「スロー」になりやすいレースです。スムーズな加速を武器にするヴィブロスにとっては「スロー」は大歓迎なので、ここはペースが鍵になるでしょう。
もし、クロコスミアなどがペースを引き上げる逃げを打つと、2200mの外回りではしなやかなストライドで走る馬に負けてしまう可能性も十分です。
スマートレイアー 7歳牝馬
父:ディープインパクト
母:スノースタイル(母父:ホワイトマズル)
厩舎:大久保龍志(栗東)
生産:岡田スタッド
昨年のGⅢ東京新聞杯(東京芝1600m)で逃げ切り勝ちを上げ、それまでの差し・追い込みからモデルチェンジを果たしたスマートレイアー。
昨年末にシャティン芝2400mで行われた国際GⅠ香港ヴァーズをサトノクラウンの5着と好走すると、今年はGⅡ京都記念(京都芝2200m)2着やGⅡ京都大賞典(京都芝2400m)1着など、2000mを超える距離で好走しています。
初GⅠ制覇をかけて臨んだ今春のヴィクトリアマイルも直線でしぶとく伸びての4着。好走すれど勝ち切ることができなかったのは、もう渋い差し脚が武器のこの馬にとって、マイルの距離は短いのでしょう。
1400〜1600mの重賞を3勝したマイラーも、7歳を迎えてクラシック・ディスタンスがベスト距離になりました。
前半をゆったりと入り、末脚を長く引き出すレースをするには2000〜2400mの距離がベストです。
血統
スマートレイアーの母父ホワイトマズルは牡馬と牝馬で異なるタイプの産駒を出す種牡馬です。牡駒はアサクサキングスやイングランディーレなど長距離GⅠを勝つスタミナ型に、牝駒はビハインドザマスクなどの短距離を得意とするスピード型に出ます。
現在のスマートレイアーが「男性的」な末脚で牡馬相手の重賞を好走しているのは、このホワイトマズルのスタミナが加齢とともに前面に出てきているからでしょう。
このスタミナの源はホワイトマズルの母父Ela-Mana-Mouとディープインパクトの母母Burghclereとの相似の血統構成によるものです。この2頭に共通するDonatelloやHyperionやCourt MartialやPetitionのパワーとスタミナの血のクロスが、スマートレイアーに伝わっていたスタミナを加齢とともに発現させたのだと考えられます。
エリザベス女王杯に向けて
京都芝2200mの舞台は、現在のスマートレイアーにとってほぼベストの舞台。サトノクラウンの2着となった京都記念、インからしぶとく差し切った前走の京都大賞典の走りからも、牝馬同士であればGⅠ制覇のチャンスは十分です。
前走の鮮やかすぎる勝利が不安
前走は、武豊騎手のアクションに応えて、インからしぶとく脚を使っての勝利。芝2400mを上り33秒台の脚で差し切ったのですから、鞍上も今走は自信をもって騎乗することでしょう。
先にも述べたように、エリザベス女王杯はスローになりやすいレース。もし外枠からのスタートで中団よりも後ろのポジションになるようだと、不安が……。
積極的に前々で運び、スタミナとしぶとさをふり絞るレースをするならGⅠ制覇のチャンスも広がるものの、前走のように差しに構えるとペース次第になってしまうので……。枠順の並びによっては凡走もあり得る馬です。
ミッキークイーン 5歳牝馬
父:ディープインパクト
母:ミュージカルウェイ(母父:Gold Away)
厩舎:池江泰寿(栗東)
生産:ノーザンファーム
3歳春のクイーンC(GⅢ・東京芝1600m)のパドックの映像を観たときには「前走からマイナス20kgの馬体で、子鹿みたいに細っそりしている」と肩を落としたものですが、この素質あふれる牝馬と名門厩舎はそこから立て直し、オークスと秋華賞の2冠を制しました。
バンビのようにバネのある美しいストライドで走るミッキークイーンも、もう5歳の秋を迎えることに。脚元が弱く、レースを使い込むことができないものの、能力は間違いなくGⅠ級。
ルージュバック、クルミナルと叩き合った2015年のオークスのように、ストライドををしなやかに伸ばすミッキークイーンの走りをまた観たいですね。
血統
母ミュージカルウェイは仏重賞の勝ち馬。母父Gold Awayも仏GⅡミュゲ賞(芝1600m)を制したマイラー。母系を見れば、Northern DancerとIcecapadeのクロス(この2頭は父Nearctic×母父Native Dancerの同配合)、NureyevとBlushing Groom、Mr. Prospectorからスピードを伝えるNasrullah血脈を多く引いています。
ミッキークイーンはそのレースぶりから明らかに中距離馬。これはディープインパクトとNasrullahのスピードとしなやかさが表に出ているからで、「美しいストライド」で差すにはマイルは短すぎるのです。
エリザベス女王杯に向けて
左前脚靭帯を痛めたことで、秋のローテーションは1度白紙に戻されました。そこからどれくらいの仕上がりでエリザベス女王杯に臨めるのかがまずポイント。
昨年もヴィクトリアマイル→エリザベス女王杯というローテーションで臨み、3着と好走しました。そのときと同じ仕上がり具合だと、このメンバーではやや不安が残ります。
京都芝2200mはストライドで走るこの馬に差しやすい条件。ただ、スローからの瞬発力勝負になれば、昨年3着のように「差し遅れ」てしまうでしょう。
<ーー2017年11月9日(木)追記ーー>
武豊騎手が8日の調教中に落馬し、負傷しました。そのため、スマートレイアーは川田将雅騎手へ乗り替わり。
テン乗りとなるため、前走のように差す競馬をするのか、それとも川田騎手らしく前々から積極的なレースをするのか、注目です。
ルージュバック 5歳牝馬
父:マンハッタンカフェ
母:ジンジャーパンチ(母父:Awesome Again)
厩舎:大竹正博(美浦)
生産:ノーザンファーム
前走のオールカマーは、「まさか!」のイン差し……直線で大外に出さないと伸びない馬だと考えていたので、驚きました。
ルージュバックについては、詳しい解説記事を書いているので、オールカマーの回顧と併せてご覧下さい。
エリザベス女王杯に向けて
オールカマーのパトロールビデオを観ればわかりますが、ルージュバックは右回りだとコーナリングに難があります。京都芝2200mは外回りの分だけ前走よりもパフォーマンスを上げられたとしても、まだ右回りには不安が……。
また、鞍上のR・ムーア騎手は、2010、11年のエリザベス女王杯をスノーフェアリーで連覇したときも、インから鋭く抜け出してきました。もし、インにこだわるようなら、馬群を嫌がるルージュバックの気性がふたたび顔を出してしまうかもしれません。
馬と騎手が分かり合えているのか?
今年のエリザベス女王杯は、デビューから同じ騎手が手綱を取り続けているコンビは「0」。このなかでもっともお互いのことを分かっているのは、15戦の内14戦でコンビを組んでいるミッキークイーンと浜中騎手でしょう。
ハイレベルな戦いになればなるほど、「ほんのちょっとしたこと」でガラリと着順は入れ替わります。瞬時に判断を下さなければならないときに、お互いが分かり合えているのかは大きなポイントになるのです。
分かり合えているからこそ、騎手は馬の力を信じて仕掛けられる……その特徴を最大限に活かす乗り方ができるのです。
ミッキークイーンと浜中騎手は、素晴らしい時も苦しい時も共に過ごしたパートナー。このコンビには℃-uteの『我武者LIFE』がピッタリ。きっと、お互いの信頼感が彼女と彼の背中を押してくれます。
まとめ
1〜4人気の支持を受けるだろう古馬たちは、いずれも「女王」になるだけの資格をもつ馬たち。その称号を手に入れるのは、どの馬なのでしょうか?
以上、お読みいただきありがとうございました。