2歳OPの野路菊S(阪神芝1800m外回り)は、ディープインパクト産駒の評判馬ワグネリアン(2歳牡馬・友道康夫厩舎)が単勝オッズ1.9倍の支持に応えて快勝。デビューから好内容での2連勝を飾りました。
午前中から降り出した雨によって「重」まで悪化した馬場も苦にせず、直線をしなやかなフォームでスイスイと駆け、上り3Fは33.0をマーク。7月の中京芝2000mの新馬戦で繰り出した上り3F32.6に単純な数字としては劣るものの、重馬場+直線で抜け出してからはほぼもったままだったことを考えると、来春のクラシックを意識させるのに十分な末脚を披露したと言えます。勝ちタイムは1分49秒3(重)。
クラシックに向けて
今年の2歳重賞はここまで函館2歳Sからデイリー杯2歳Sまで9レースが行われました。「クラシックを!」と胸を張れる馬は、札幌2歳Sを制した牝馬ロックディスタウンとサウジアラビアRCを勝ったダノンプレミアムくらいで、まだまだこれから評判馬や素質馬がデビューを控えています。
そのなかでも、新馬戦→野路菊Sを連勝したワグネリアンはそのレース内容からも来春のクラシックを展望できる素材。今後はGⅢ東京スポーツ杯(東京芝1800m)からGⅠを目指すローテーションとなり、次走以降の走りは注目です。
ワグネリアン 2歳牡馬
父:ディープインパクト
母:ミスアンコール(母父:キングカメハメハ)
厩舎:友道康夫(栗東)
生産:ノーザンファーム
馬主:金子真人ホールディングス
中京芝2000mで行われた新馬戦は、良血の評判馬ヘンリーバローズ(シルバーステートの全弟。母シルヴァースカヤの2016が今年のセレクトセールにおいて2億6000万円で落札された)と直線で叩き合い、ワグネリアンは上り32.6の鋭さで差し切り勝ち。
中京コースが改修された2012年以降、平地競走の上り3F最速となる32.6をマークしたこのレースは、前半1000mが67.0秒と超のつくスローだったとは言え、後半1000mが12.2 - 12.4 - 11.2 - 10.9 - 11.0と5Fのロングスパート戦。単純な上り3Fの速さを問われる新馬戦ではなく、後半1000mで優秀なレースラップを出したのは、1着ワグネリアンと2着ヘンリーバローズの高い能力を示したもの。3着以下を0.9秒離したこの2頭は、掛け値なくオープン級の馬だと言えます。
ヘンリーバローズが全兄シルバーステートをオーヴァーラップさせるパワーで坂を駆け上がったところを、スイスイとしなやかな走りで伸びたワグネリアンの脚は、祖母ブロードアピールの「鬼脚」を彷彿とさせる素晴らしさでした。エンジンがかかってからグイグイとストライドを伸ばすのがワグネリアンの最大の長所で、現状は直線の長いコースがベターでしょう。
血統
ワグネリアンの馬主の金子真人氏が所有していたディープインパクトとキングカメハメハの2頭の名競走馬がかけ合わされ、本馬が産まれました。祖母のブロードアピールも金子真人氏の所有馬でしたから、個人馬主とは思えないほどです……。
祖母ブロードアピールは芝・ダート不問の短距離の追い込み馬。血統表の中にTurn-toやらNasrullahやPrinsquilloなどのスピード血脈で固められ、Northern Dancerをもたないのが大きな特徴です。その仔たちからはまだ重賞級の馬が出ていないものの、好確率で勝ち上がっているように、ブロードアピールは好繁殖牝馬と言えるでしょう。
ブロードアピールにNorthern Dancerクロスをもつキングカメハメハが配されたのがワグネリアンの母ミスアンコール。そこにディープインパクトがかけられたので、血統表の4分の1にあたるブロードアピールが非Northern Dancerの異系となっています。ワグネリアンの血統表のなかに感じる奥深さはこの祖母の血統によるものでしょう。
ワグネリアンのしなやかさは、ディープインパクトとキングカメハメハの母父ラストタイクーン、ブロードアピールからくるもの。ただ、この馬が柔らかすぎないのはディープインパクトの母ウインドインハーヘアーの欧州的なスタミナとキングカメハメハの父KingmamboのNureyev的なパワーが合わさっているからです。
野路菊Sのレース内容
今年の野路菊Sは重馬場でレースが行われました。外枠からシンデレラメイクがハナを取りきると、2番手につけたスワーヴポルトス以下の後続を離しての逃げ。ワグネリアンは後方の位置を取り、馬群は縦長になりました。以下は野路菊Sのレースラップです。
▼野路菊Sのレースラップ
12.6 - 11.7 - 12.6 - 12.9 - 12.9 - 12.1 - 11.5 - 11.4 - 11.6
シンデレラメイクの逃げは前半1000mが62.7と2歳戦で重馬場を考えてもスロー。残り800mからグンとペースが上がり、ラスト4Fは46.6ですからここで長く速い脚を使えるかが問われるレースとなりました。
ワグネリアンは直線に入ってエンジンがかかると、スピードを上げて楽に抜け出し、ゴール前50mほどは余力たっぷりの走りで上り33.0をマーク。上り最速は後方から脚を使ったクリノクーニングの32.9に譲りましたが、ゴール前の手応えを考えれば実質的には上り最速をマークしていたでしょう。
道中の折り合いもスムーズで、仕掛けられてからややもたついたところはあっても、エンジンがかかってからの伸びは重賞級で、今後へと大きく展望が拓けるレースでした。ひとつ気がかりなのはパドックでチャカチャカと落ち着きがなかったこと。精神面の成長があればもう少し馬体も増えてくるはずで、今後はそこが課題となります。
東京スポーツ杯2歳Sに向けて
東京芝1800mで行われる東京スポーツ杯(GⅢ)は、しなやかな差し脚を武器にするワグネリアンにとって、「ドンと来い!」の舞台。ここ2戦の上りが使えれば、大きな不安はありません。
ここまでワグネリアンは新馬戦10頭、野路菊S9頭と少ない頭数のレースしか経験がないものの、東京スポーツ杯も出走登録が9頭しかないため、馬群に揉まれて力を出せない心配はないでしょう。
✳︎来春のクラシックを展望する上では、どこかで多頭数の揉まれる競馬を経験したかったところですが……。
今走の強敵は「世界のマイル王」モーリスの全弟ルーカス。新馬戦を快勝してここへ臨む評判馬とワグネリアンがどのようなレースをするのか、楽しみな1戦となります。
ルーカスはモーリスに似てコーナー加速力が抜群で、ドタドタとしたパワーのあるフットワークですから、直線の長い東京コースでさらにパフォーマンスがアップするのかは「?」がつきます。
その点では、しなやかなフットワークのワグネリアンにとっては戦いやすい相手と言えるものの、「どちらの素質が上なのか?」、こればかりは走ってみないとわかりません。
今後に向けて
走らせると馬体をグイッと伸ばせるので、現状は2000mまでOK。古馬になって母系のパワーとスピードが発現してムッチリと筋肉がつくようなら、マカヒキのようにマイルに適性が寄ってくるかもしれませんが……。3歳春のダービーまでは中距離も走れる体型なので、クラシックの距離も大きな問題はありません。
パドックではチャカチャカと落ち着きのないところも見せるものの、レースに行くと折り合いも十分に走る姿は好印象。現状は直線の長いコースでしなやかにストライドを伸ばすのがベターで、皐月賞の舞台となる中山芝2000への対応がキーポイント。この後、GⅠホープフルS(中山芝2000m)へと進むのであれば、小回りコースでスピードを上げながらコーナーを器用に回れるのかは注目。ここで皐月賞の予行演習をしておきたいところですね。
大きな弱点のない馬だけに、クラシックまで無事に走ってくれれば来年が楽しみな1頭です。
以上、お読みいただきありがとうございました。