モーリスのような、パワー満点の走りで東京も京都も香港のコースもぶち抜けるマイラーが不在の安田記念。
今年はスプリント路線からレッドファルクス('16年スプリンターズS1着)、中距離路線からステファノスとアンビシャスが参戦し、いかにも層の薄いマイル路線を象徴しているかのような混戦模様になっています。
前日の時点(6月3日21時現在)で1番人気に支持されているイスラボニータは1600m戦が(2 - 3 - 1 - 1)と戦績としてはマイラーと言えますが、しなやかなストライドで走るフォームを見ていても、マイルGⅠを勝ち切るにはモーリスのような頑強なパワーが足りないのではないかと不安にはなるのです。
サンデーサイレンスの血
今年の安田記念の出走馬の中で、父父や母父に「サンデーサイレンス」をもつ馬は15頭(18頭中)。
サンデーサイレンスは日本の競馬の歴史を変えた大種牡馬で、産駒にはしなやかで柔らかい走りを伝えます。GⅠレベルのマイル戦は前傾ラップになりやすく、スピードとパワーで押し切る馬に有利な舞台でした。ところが、パワーよりもしなやかさを伝えるサンデーサイレンスの血が広まったことで、マイル戦であっても「瞬発力」を問われるレースが多くなってきています。
前半の800mが45秒台であれば
1600m戦は前半と後半の800mのラップ・バランスによって瞬発力勝負になるのかが分かれます。ここでは1分32秒0で1600mを走破した場合を例に考えてみましょう。
1分32秒0を秒に換算すると、92秒になります。これを前半と後半の800mがイーブンなペースだったとすると、46.0 - 46.0=92.0。つまり、前半が45秒台であれば瞬発力勝負になりにくいペースになるということです。
しなやかな走りを伝えるサンデーサイレンスの血は前半が遅く、後半が速くなる瞬発力勝負のレースで強さを発揮するため、前半が速く道中で脚が溜まらない展開は不向きと言えます。
中距離馬にとっても前半が速くなると……
GⅠで好走歴のある中距離馬の2頭、ステファノスとアンビシャスが安田記念に出走します。ただ、GⅠレベルのマイル戦で道中のペースが速くなると、追走に脚を使ってしまう中距離馬には不利な流れ。中距離馬が最後の直線で伸びるには平均よりも緩いペースが理想です。
前半の800mが46秒を切らないスローのペースでレースが展開するならば、ステファノスやアンビシャスにとっては好走できる条件が整います。
今年のペースはどうなるのか?
ハナに立たないと力を発揮できないようなピュアな逃げ馬が不在の今年の安田記念。昨年のこのレースで逃げ切り勝ちを上げたロゴタイプが大外枠に入ったこともあり、どの馬が逃げるのかもどのようなペースになるのかもはっきりとは分かりません。
東京競馬場で行われたGⅠ5連戦の内、NHKマイルカップから東京優駿まで「明確な逃げ馬が不在」のレースが続きました。その結果、ヴィクトリアからダービーまではスローペースのレースになったのは記憶に新しいところです。
もう、東京のGⅠでは平均よりも速いペースで流れることなどはほとんどなく、だからこそミナレットの大逃げでハイペースになった'15年のヴィクトリアマイルが3連単で2000万円を超える配当になったように、想像ができないようなペースだと馬や騎手だけではなく馬券を買っているファンも対応ができない事態が起こってしまうのです。
ここまでのGⅠレースを見れば、どの馬が逃げるのだとしても平均よりも速くなるペースは考えられません……。
今年も「田辺スロー」になるのか?
昨年は田辺騎手のロゴタイプがスローで逃げて上り3Fの競馬に持ち込み、絶対的王者のモーリスを破る金星を上げました。
田辺騎手が逃げた時はスローになることが多く、昨年はその作戦が見事にはまりました。今年の安田記念でもロゴタイプを積極的に突つくような馬が見当たらず、「田辺スロー」に落とす可能性は十分にあり得ます。
そもそも、ロゴタイプも母父がサンデーサイレンスで急加速を武器にするタイプですし、残りの14頭も前傾ラップをスピードとパワーで押し切る馬たちではないので、「スローは歓迎!」のクチですから、道中のペースが遅くなるのも自然なことではあるのです。
スローのマイル戦で
スローマイル戦であれば、そう、加速力の問われる瞬発力勝負になるのであれば、逃げ・番手の競馬ができることを込みで◎ロゴタイプとなります。そして、外枠からスムーズに加速できるステファノスが◯に。イスラボニータは全身を伸縮させてしなやかに伸びる馬なので、急加速は得意ではなく△まで。
「う〜ん、普通すぎる予想だし、いかにもあり過ぎる展開」だけに、これは避けたいですね。できれば各馬がスピードとパワーを振り絞る安田記念が観たい!と期待しての予想をします。
予想
先にも述べたように、父父か母父にサンデーサイレンスが入る馬は今年の安田記念に15頭参戦しています。裏を返せば、サンデーサイレンスの血が薄い、あるいは入らない馬は出走馬の中で3頭だけです。
コンテントメント
ブラックスピネル
ビューティーオンリー
(内枠から順番に)
この中からスピードとパワーで東京のマイル戦を押し切れる馬を探します。
◎ブラックスピネル
父:タニノギムレット
母:モルガナイト(母父:アグネスデジタル)
3歳の春はクラシック路線を目指したものの、皐月賞とダービーは不出走。秋以降は菊花賞には目もくれずマイル路線にローテーションを絞り、今年の東京新聞杯で初重賞制覇を果たしました。その東京新聞杯は超のつくスローからの瞬発力勝負で勝ちましたが、本質的にはパワーのある重厚なストライドで走る馬で、前で受けてスピードとパワーを振り絞る競馬が合っています。
松山騎手が積極的に乗ってロゴタイプを突つく、あるいは極端にペースを落とすようなことがあればハナに立つような競馬も頭の中にイメージできていれば、このメンバーならチャンスは十分にあります。先週は末脚の持続力が武器のアルアインの良さを発揮できない騎乗になってしまったことを、ここで晴らすことができるのか注目したいです。
◯ビューティーオンリー
香港馬で、父のホーリーローマンエンパイアはパワー型マイラーのデインヒル直仔。母系にはサーアイヴァー(ディープインパクトの母系にも入るしなやかな血)など日本の芝向きなしなやかな血も入り、高速芝もOKなタイプ。
昨年のGⅠ香港マイルではロゴタイプ、サトノアラジン、ネオリアリズムを破っており実績も十分にあります。また、高松宮記念をエアロヴェロシティで制し、日本の競馬にも馴染みのあるZ・パートン騎手はモレイラ騎手の陰に隠れているものの、スーパーなジョッキーであることは確かなので、この鞍上も大きなプラスです。
初の海外遠征、左回り+坂のあるコースを克服できるのかなど課題も山積していますし、週中には馬体重が減っているとの報道が出るなど、体調面が整っているのかも不安がありますが、デインヒル直仔のパワー型マイラーが好走するような安田記念が観たいので◯の印を。
ビューティーオンリーに関しては下の記事に詳しく書きましたので、ご参照下さい。
ビューティーオンリーとコンテントメントの香港馬2頭を解説ーー'17年安田記念 - ずんどば競馬
コンテントメントは……
J・モレイラ騎手の騎乗するコンテントメントはパワー型過ぎるため、日本の高速馬場への対応に不安があります。
ハイペースの中での先行であれば、持ち前のスピードとパワーを絞り出せる可能性があるとは言え、「モレイラ・マジックが発動してもどこまで?」というのが正直なところです。
土曜日の東京競馬場の芝コースは、最後の直線で騎手たちが内ラチ沿いを開ける姿が目立ちました。日曜日のモレイラ騎手は安田記念を含めて10鞍に騎乗するため、馬場を把握することができる立場にはあるのは有利。ガラッと空いた内へ進路を取ってパワーに任せて粘りこむシーンも……それでも3着までかとは……。
モレイラ騎手に関しては下の記事に詳しく書いたので、ご参照下さい。
J・モレイラが日本にやって来る!ーー安田記念 - ずんどば競馬
3着候補
印としては◎と◯のみに留め、3着候補は何が来てもおかしくはないので印はつけません。予想としてはこの2頭以外に1、2着が来ないという予想です。また、もし'15年のヴィクトリアマイルのようなハイペースになった時には3着に何が残るのかは予想するのが難しく……。
買い目
◎と◯の単勝と枠連を。3連単を買う場合、3着候補は総流しで。
単勝
11. 12
枠連
6 - 6
(馬連の11 - 12と枠連の6 - 6のどちらが配当が付くのかを見て決めたいところです)
3連単フォーメーション
1軸目:11. 12
2軸目:11. 12
3軸目:総流し
まとめ
スローペースになることは十分に考えられる今年の安田記念。もう、JRAのGⅠは距離に関わらず前傾ラップになることがほぼないので、スピードとパワーを振り絞るようなレースが少なくなりつつあるのは寂しさも感じます。
ロゴタイプとステファノスで決まるレースであれば潔く諦められるので、松山騎手がそこそこのペースを作ると信じて。
皆様にとっても素晴らしいレースになりますように。
以上、お読みいただきありがとうございました。
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